第8話 破裂した沈黙
藤代さんのいる場所は、私の視線の先で、彼の決意を閉じ込めたまま、重く堅く閉ざされていた。外では特高の男たちが、苛立ちに任せて扉を蹴りつけ、怒声を上げている。私はその場から逃れることなく、ただ息を潜めた。
外の男たちの怒声が、一瞬、途切れた。それは破滅的なまでの静けさだった。すべての音が、彼らの暴力的な意志さえもが吸い込まれたかのような、静寂であった。そしてその静寂こそが、藤代さんの最後の沈黙だった。
次の瞬間、音が裂けた。
それは、世界の中心が、一瞬にして爆発したような破壊的な破裂音だった。私の鼓膜は張り裂けるかのように沈黙を選び、頭の中は高周波の耳鳴りに支配された。時間が止まったようにすら感じられ、私の意識は暗闇の中へ引きずり込まれた。
私の意識が再び現実の『音』を認識したとき聞こえてきたものは、特高の男たちの戸惑いと、怒鳴り散らすような声だった。彼らが荒々しく扉を破り、部屋へなだれ込んでいくのが見えた。無様なまでに乱れた、無秩序な拍子の足音。それは、彼らの獲物がその手から滑り落ちたことを悟ったようであった。藤代さんの命も、彼の思想も、彼らの支配からは永遠に自由になったのだ。
現実離れした光景の中でも、足で感じる石畳の冷たさが、これが現実だと訴えてくる。藤代さんは、言葉を、意志を、確かに守り通した。あの銃声は、一度きりの冷たい沈黙だった。彼が歴史と、監視という名の処罰から永遠に自由になったことを告げる、ただ一つのものだった。私は藤代さんから託された『忘れるな』という重い使命を胸に、静かに立ち続けた。




