小話 第二騎士隊副隊長セス・ヴァルターの日常
【祝・累計1000PV突破記念】
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騎士団第一隊第二隊と魔術師団クリューソス隊アズール隊の合同演習が終わり、各隊での訓練が繰り返される日常が戻ってきた。
あの演習の後、第一隊の隊長『血壁のレオンハルト』と副隊長『神速のフェリクス』は揃って騎士団長に詰められ、故意に防護柵を吹き飛ばしたことを察知した第三隊の『地獄耳のサイラス』に謝りにいったらしいが。柵ごと吹っ飛ばされたこちらとしてはいい気味である。
今は不動の騎士団長である父アーク・ヴァルターと副長であるジュリアス・スターリングがいるが、父もそろそろ引退を考える年だ。次の騎士団長はレオだろうと騎士団の中でも推す声は多いのだが、暴れるだけではない内向きの事も覚えて欲しいものである。
「そんな気がする」だけで押し通して、フェリクスに投げっぱなしにする癖がどうにも。それでなくても書類仕事の負担がフェリクスに偏りすぎているのは遠目で見ても分かろうというものだ。
日常が戻った中でも変わったことはある。
あれだけ会えば喧々諤々の口論を繰り広げたフェリクスとアズールのガーランドが『まとまった』らしい。
第二騎士隊の中にガーランドを狙っていた何人かは悔しがっていたが、あんなものフェリクスもガーランドもお互い憎からず思っているのは丸わかりで、だからこそ喧嘩が始まっても「またか」の生暖かい空気だったのだ。横で見ている方がじれったいこと甚だしい。
大体フェリクスからして、喧嘩はする癖に自分の尻馬に乗って女史をけなしたり、理不尽な事柄で女史をからかうような卑怯な奴は訓練と称して叩きのめしているのだから公私混同だろうと言いたい。顔はさっぱりしている癖にやっている事が陰湿過ぎる。ガーランドはそんなことをこれっぽっちも知らないんだろうが。
「ヴァルター副隊長、今よろしいですか?」
第二隊の隊舎で報告書を書いていた手を止める。
「カース事務官、どうしました?」
目の前には幼い顔立ちながら成熟した女性の色香を放つ事務官がいた。名前は確か、スザンナ・カースだったか。食堂でよくガーランドと食事をしているのを見かける。
「来月の備品の納入品のリストをお持ちしました。確認をお願いできますか?」
「承知しました。急ぎですか?」
「いえ、3日後までに頂ければ」
ふむ……3日後か。その日までとなると……
「すぐに確認しますので、少し待って頂いても?」
「はい、大丈夫です」
カース事務官を待たせてリストに目を通す。
そういえば、このスザンナ・カース事務官は父の熱狂的ファンだったのではなかったか。
父アーク・ヴァルターが若かりし頃にファンだったという妙齢のご婦人方と『死神アーク様を見守る会』という怪しげな会合を行なっているという。母までもがその謎の会合の名誉会員だというのだから、何をやっているのかと問いたいところなのだが、肝心の父が静観しているものを息子の自分が文句を言うわけにはいかない。
「はぁ……アーク様、尊い……」
と、言いながら事務官が謎の会報誌を見てやついているのを見たこともあるのだが、あれには一体何が書かれていたのだろうか。
「あの、何かリストに不備がありましたか?」
言われて手が止まっていたことに気づく。
「いえ、問題ありませんでした」
リストの下に確認済みのサインを入れて事務官に手渡す。
「ありがとうございます」
「そういえば、カース事務官はガーランドと仲が良いのでしたか」
「はい、リナ……えっと、ガーランドさんですか? 学院の同期です」
「アシュフォードとは、その……いや、無粋でしたね」
「見ててイライラしましたよね、えぇ分かります」
カース事務官は一人で納得したようにうんうんと頷くと、
「先日、アシュフォード副隊長が訓練中に大怪我をするところだったでしょう? リナ、あれを聞いて余剰魔力を吸収して防御陣を構成するとかなんとか言ってたかな? 魔石に刻み込んだ瞳の色のカフス作ったらしくて」
ほう、それは凄いな。常に身につけておけば自分の魔力を勝手に補充して、必要な時に防御陣として機能するのか。
「それ、プレゼントしたらアシュフォード副隊長の方からお付き合い申し込まれたみたいですよ」
「それは初耳だな。ちゃんとフェリクスから、だったのか」
煮え切らないと思っていたが、そこまでされて自分から言い出さないようでは男じゃないだろう。
そういえば、手首のカフスを眺めてにやついていると思ったのはそれか。
「収まるところに収まってくれて良かったよ」
「ヴァルター副隊長でも気にしてらっしゃったんですね、意外です」
「そうだろうか?」
「えぇ」と言いながら笑うカース事務官に頭をかくしかない。
下世話なことを聞いてしまっただろうか。
デバガメではないと言いたいところだが、そう違ってはないな。
「では、失礼します」
と言って去っていく『死神アークガチ勢』のカース事務官と、アーク・ヴァルターの長男である自分が数年後に結婚することになろうとはこの時は知る由もない事だった。




