エピローグ
————————王立学院研究室の一室、資料庫の片隅にその本はある。
誰にも触れられることもない、忘れられた魔法の書。
今は魔術が隆盛で、かつて魔法や精霊魔法が存在したことを知るものは少ない、
それは、魔法の書。
人間が再現することの出来る魔術とは違う。
何かに気づいてこの本を手にとったとしても、きっと何かの冗談だと思うだろう。
そのくらい、内容は奇想天外でありえない、
なんてくだらない代物の解読に一生懸命になっていたんだろう、と後悔するからやめておいた方がいい。
かつての私には希望を与えてくれたけれど、万人におすすめするか? と言われたらしないな。
失敗した転移陣に放り込まれた時みたいに感情がぐるんぐるんになってしんどいんだもの。
————————代償は、……きっとあの因果の絡まったカフリンクスで支払われたのだろう。
結果的に私たちは二人の未来を手に入れた。
あれからノクス隊ではなくクリューソス隊に異動した私は、フェリクスと共に恩師を訪ね異動と婚約の報告もした。
(そう、とうとう私たちは婚約もした!)
二人揃っての報告に恩師の顔も綻ぶ。
資料庫の入り口からフェリクスの声がかかる。
「おい、————————もう時間がないぞ」
挨拶の帰りに寄らせてもらった資料庫で、本がここにあることを確認しにきたのだ。
本を置いて立ち上がる。
もう私たちには必要のないものだ。
後悔もない。
「リナリア? ——————聞いているのか?」
「聞こえています。」
「……?」
「どうしたの?」
逡巡しながら目を伏せたフェリクスが消えそうな声で問う。
「後悔……してるか……?」
「してると思う?」
「………………わからない。口に出してもらわなければ思いは伝わらない、だろ?」
「してないわ。後悔。後悔はしてないんだけどね、あなた、これから大変かもよ?」
「何がだ?」
「だって、今から辺境伯領でしょう? レイ、苦手なんじゃないの?」
「—————! あれは—————! 苦手とかじゃなくて……、その、……君との距離がやたら近いから。」
「……ふふ…………ふふふ。」
「………………何がおかしい…………」
「貴方は会ったことがあるかもだけど、今回の『私』はまだレイに出会ってないのよ、だから、距離も何も」
「あいつには私がいる時以外は会うな」
「えー? 副隊長の職権濫用じゃないの!」
資料庫の廊下を明るい笑い声が響く。
————————魔道研究所の一室、資料庫の片隅の本からかすかに笑い声が響いたような気がした。
ー終わりー
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
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一度完結とさせて頂きますが、ご要望があれば二人のその後のお話など追加で書けたらと思っています。




