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4-2 魔法陣の真実

(なんで思いつかなかったんだろう—————!)


 あの魔法陣にも神聖文字は使われていた。

 そして、魔法陣が古代の技術であるなら、現代の魔術にも受け継がれているはずだ。

 共通する文字列から内容を読み取れるかもしれない。

 王太子の本から出てきた魔法陣、そして私の本から出てきた魔法陣を別々の紙に書き起こす。

 今まで解読できた神聖文字、現在使われている魔術体系の記述式、繋がりから類推できる単語を当てはめていく。

 王太子の魔法陣は転移前のものしかわからない。その後は魔法陣が広がりすぎて神聖文字の羅列部分まで見えなかったからだ。

 記憶の中の神聖文字はおぼろげで不完全だ。だが、連なりと現代の魔術式から読み取れる部分もある。参考書籍を広げて一つずつ解明していく。


(この形は<封印>それから開くだから、多分<解除>……次は……)


 そうして一つずつ埋めていくことで全体像が次々と解き明かされていく。


(できた…………)



 王太子の本は。


 <封印解除>

 <装置起動>

 <動力吸収>

 <開始位置初期化>


 そして、私の本。


 <開始位置読込>

 <対象転写>

 <終了処理>

 <破壊実行>



(装置って……あの古代遺跡のこと?

 最初の魔法陣は封印を解除して転移するためのものだったの?

 でもその後も文字列は続いていたから全てではない……)


 そして、<動力吸収>はあの荒れ狂うマナのことだろう。流れ落ちる砂のように魔法陣に吸収されていった。

 <開始位置>は初期化されて私の本で読み込まれたのだから、あの副隊長と喧嘩をした日が<開始位置>として設定されたということだ。

 一番問題なのは最後の<破壊>、だ。これが大陸全体の破壊をさしているとしたら、なんて恐ろしいものを私は実行してしまったのか。

 代償が必要とは本に書いてあったが、この魔法陣の記述は本になかった部分だ。

 私が持っていた本で、あの時解読できていたのは、あれが古代の魔道士が子孫たちに残したものであること、危機が訪れた時に使うこと、ただし代償が大きいこと、それから本の役割は<時>を<戻る>こと。

 王太子の本がもう一対であるとするならば。子孫あてに残されたという部分から代償が大きいという部分までは共通のはず。そして最後は<時>を<進む>。


(ちょっと待って、順番に考えてみて……)


 時を進んで戻ったとしても、同じ時間軸で移動しただけでは意味がないのではないの?

 大陸中の人が何を選んで結果がどうなるかは無限大の可能性があるはず。

 時を進む先が無限大にあるとしたら、どう?


(特定の可能性を選んで、その過去に戻る?)


『二つで一つ 一つでは意味をなさない』


 ピタリと碑文とタペストリに書かれた文章が符合する。

 じゃぁ、何故危機を回避したのに繁栄していただろう文明を捨て、川を下って新しい都を建設する必要があったのだろう?

 あの時遺跡は崩れようとしていた。あの遺跡がここでいう装置だったとして、術が完成する時装置も破壊される?

 なら本やタペストリ、道標を後世に残す意味はないはず。使えないものを伝達してもしょうがない。


(ちょっと待って、さっきのを思い出して……)


 特定の可能性を選んで戻る、危機を退ける可能性を選んでその過去に戻ったのだとしたら装置は起動する必要がないのでは?

 装置も稼働しない、術も発動しない、なら本も使われない(・・・・・・・)

 時間軸を整理するために、線を引いてみる。

 古代のこの魔道士が装置を作る、危機が起こる、装置を起動、危機を退ける未来を選ぶ、危機の前にポイントを設定、戻る、危機を退けた時間が始まる。

 戻った後は別の時間軸に変わるはずだから、ポイントから新しく線を引く。

 ポイントの部分でペン先を置いてしばらく考える。


(ここから無限大の分岐がある……?)


 新しく線を引く。

 だが、<戻る>と避けたい未来とその他の分岐の線は無くなってしまう。

 危機起こるとした最初の時間軸の線と他の分岐の線にバツ印をつける。

 大地が揺れマナが荒れ狂い虹色の奔流となったあの時、『星が壊れる』と思ったのではなかったか。

 未来を選んだことで無くなる時間軸……。

 星が壊れるほどのマナの奔流……。


 <破壊実行>


 あったはずの無限の可能性を閉じる……。


(あの時間軸そのものが無くなる……?)


 しかし、本来あった時間軸で<戻る>本を発動しなければならない。

 古代この装置は少なくとも一度は使われた。だからこそ、装置を伝えるタペストリ、道標、本が王家に残されたはずだ。


『星が落ち、帝都は崩れ、大いなる技を失った』


 この文言がその時の災厄を表しているのだとしたら?

 そして、この災厄を退けて生き延びる未来を選んだ時間に続くのが私たちの知る今。


(ちょっと待って、シルヴァンティア王国は最初から一つだったわけじゃない

 途中でノルヴァルトと分たれている……)


『古すぎて出所はわからんかったが、元々これはボーモントのタペストリと対になっていたそうでな

 しかも、これはレプリカだというんじゃ』


 エマーソン先生の言葉が蘇る。

 シルヴァンティアの宝物庫にあったタペストリの本物はノルヴァルトにあるのではないの?

 元々一対のタペストリをそうして二つに分けた。

 本も一対のものをシルヴァンティアとノルヴァルトで分けた……。

 王太子がエレーナ王女を用済みだと言った理由はそこにあるの?

 でも、あの時本を持っていたのはエレーナ王女ではなく私だった。

 あの時本を使った自分はここにいるが、進む本を使ったのは王太子だ。あらゆる可能性から選ばれた未来のはずなのに、今も地震は続いている。装置の封印がまた解かれようとしている。どうして?

 過去に戻る本も今度の私は持っていない。先生の書庫にも見つからなかった。

 今の時間軸でも<過去>に<戻る>本はどこかにあるはずだ。

 二つの本がないと完成しない術なのに、王太子は何をしようとしているのだろう?

 術の発動した時、私の手にはこの蛇の紋様がついた。

 この蛇はどうして2匹ではなく1匹なの?

 この紋様が全て鉄錆色になった時、|私はあの場所に戻るのではなかったの《・・・・・・・・・・・・・・・・・》?

 そして、荒れ狂うマナの中でフェリクスは私にカフリンクスをつけて、それからなんて言った?


『自分はこれを止めなければならない。リナリア、どうか私のことを忘れないでくれ。』


 そう言って魔法陣の光の中に消えた。


 ———————————あの時どうしてフェリクスは止める方法を知っていたの?




 —————————セントラルディア王立学院

 魔術史学教授エマーソンは教え子の残したタペストリのスケッチと文献を並べて解読作業をしていた。

 それとともに、王家の伝承の書かれた古文書も。

 それが導き出した答えは、一つの詩篇だった。


『創造と再生 二つで一つ 

 卵は生まれてまた卵に 一つでは意味を成さず

 天と地の精霊 知恵を授け 

 人 代償を持って時を駆ける

 星が落ち、帝都は崩れ、大いなる技を失った

 北の地より民を連れ 川に降り都を築く』


(背に羽のある人形は精霊を表しておったのか……)

 

 かつて魔法とともに存在したと言われる精霊もこの時代にはあったのだろう。

 これを残した魔道士は大いなる技とともに滅んだという。

 王家のタペストリは精霊が人に知恵を授けた場面を表しているとみていい。

 では、ボーモントのタペストリ……星が落ち……帝都が崩れる災厄があった……


(順番が違う気がするのぅ……)


 災厄があったから精霊に請い願い知恵を授けられたのではないのか?

 どうして代償を払ってまで時を駆けて、その後に帝都は崩れ去ったのだろうか……。

 そして、中心の蛇の紋様、これが大いなる技とともに滅んだ魔道士を指しているのだとしたら、この紋様を宿す教え子はどうなってしまうのか……。


(精霊が今もいるのなら、この老体を捧げてでも知恵を借りるのじゃがな……)


 エマーソンは紋様を解明するため、再び文献の海に潜っていった。




 —————————セントラルディア王城

 シルヴァンティア王アウグストの執務室には宰相リチャード・ウェインライトと、魔術師団長アルベリック・ド・ラ・ヴァリエールの姿があった。

 ヴァリエールの手の上で解析の陣が光る。

 ウェインライトとヴァリエールの座る応接セットの机には、王女の持っていた黒ずんだ割れた魔石のついたペンダントがある。


「ふむ……、精神操作まではいきませんな……

 子供騙しのような軽い暗示……」


 ヴァリエールは手にあった魔術を解除して言う。


「内容は?」


「そうですな……、元々ある執着を少しだけ強める、と言えばいいですかな……」


 それを聞いて王が渋面になる。


「王族の一員がそのような玩具にいいようにされるとはな……」


「殿下だけの責任とするのはあまりに酷でございましょう

 その玩具に気づかなかった魔術師団の責任もございますゆえ」


 ウェインライトが続ける。


「出所は特定できませんでした

 ペンダントそのものは城下で大量に売られている既製品で、魔石は効果が切れると自壊するようになっていたようです」


「作成者は特定できん、か」


「御意」


「エレーナの入手経路は?」


「不審な人物の面会記録はございません

 また、王女に渡る品には必ず近衛騎士団から魔術師団へ経由され精査してから戻しております

 こちらのペンダントの記録はございませんでした」


「エレーナ様の侍女はフェリクス・アシュフォードから贈与されたものだ、と」


「エレーナ本人はなんと言っているのだ?」


「このペンダントが壊れるまでフェリクス・アシュフォードから貰ったと思っていた(・・・・・)、と」


「思っていた?」


「それが、顔が定かではないそうです。認識阻害か意識混濁か……」


 はぁっと大きなため息をつくとアウグストは椅子に沈み込んだ。


「フェリクス・アシュフォード本人だという確証はないのだな?」


「アシュフォードは騎士団第一隊の副隊長です

 それに頻繁に殿下の護衛としても随行しておりました

 アシュフォードを偽装したのならば、殿下への接触もありえますが……」


「その線でもう一度調べ直せ

 ……まったく、しかし分からんな

 こんな玩具をエレーナに渡して何がしたかったのか……」


 王の独り言とも取れる呟きにウェインライトは答えた。


「殿下の……アシュフォードに対する思慕と、国に残りたいとする思いを利用されたのかもしれませんな……」


 執務室には重苦しい雰囲気が流れた。

 

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