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死後のリスタート  作者: クレイジー
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好奇心とブルサーペント

その日も、私は本に触れることができなかった。


魔法への好奇心が胸をざわつかせ、気が狂いそうになるほどだった……だが、それ以上に恐怖が勝っていた。


この知識に溺れて、自分を見失い、戻れなくなるのが怖かったのだ。


「バカだね、私……」

声が震え、涙が頬を伝い落ちる。


隣の部屋にいた母が泣き声を聞きつけてやって来た。


「どうしたの……泣いてるの?」

心配そうな声。


私は躊躇した。本当のことは言えなかった。


「いつも怪我しても泣かないくせに……今日はどうして?」

そう言いながら、母は私の隣に座り、膝の上に抱き寄せてくれた。


「何があっても……」

私の髪を撫でながら、静かに言う。

「私はずっとあなたの味方だから」


その言葉は胸の奥を温めた。

もしかしたら、本当にこの人たちは私を娘だと信じているのかもしれない……身体的には確かにそうだ。でも、心まで信じていいのだろうか?


母は私の目を見つめ、繰り返した。

「ずっとここにいるから」


その瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。小さな子供のようにしゃくり上げ、疲れ果てて眠りについた。


「何があったんだ?」

父が入ってきた。


「この子、普段は泣かないのに……今日は泣き疲れて寝ちゃったの」

母はそう言って私の頬を撫でた。


目が覚めると、夜明けの冷たい湿気が家の中を満たしていた。隣ではカエルが静かに眠っている。


(もう過去に縛られてはいられない……ここが私の新しい人生、新しい家族なんだ)

そう思った。


前の家族を嫌っているわけではない……でも、あそこで私は失敗をした。だから今度こそ学びたい。


まず私は本を手に取った。手が震えていたが、勇気を出して最初のページを開いた。


そして気づいた。


(バカだ……)


どうして今まで気づかなかったのだろう。

ここは新しい世界、新しい言語。文字が違うのは当たり前じゃないか!


恐怖は消え、代わりに込み上げてきたのは苛立ちだった。

大学では優秀な学生だった私が、今は間抜けのようだ。


思わず笑ってしまった。


「イブリン、起きてるなら……出ていけよ」

半分寝ぼけたカエルの声。


父には絶対知られたくなかった。だから母に頼ることにした。


父が外に出たのを見計らって母のもとへ向かった。


「それ、ディレイがくれた魔法の本でしょ?」

母が尋ねる。


「うん……お母さん、読んで教えてくれない?」

期待を込めて頼んだ。


「教えてあげたいけど……私、文字読めないのよ」


「えっ?!」

言われて初めて、この家には紙も本も看板もないことに気づいた。


「じゃあ、お父さんは?」

「村の誰も文字なんて読めないわ。それは人間のやること。私たち狼族には必要ないの」


(あぁ……詰んだ)


誰も読めないのなら、どうやって魔法を学べばいい?

自力で解読するには何年もかかるだろう。


ディレイの帰りを待つしかない……もし戻ってくればだが。


一か月が過ぎた。


母にディレイのことを尋ねても、「もう会えるか分からない」と答えるばかり。


その日、他の子供たちが遊んでいる間、私は村を歩いてみた。


見慣れない植物があちこちにあった。背丈は高いのに、茎は細い。

同年代の子供が村の外に出ることは禁止されていた。危険な獣と遭遇する恐れがあるからだ。

それでも、好奇心が私を突き動かした。


茂みの向こうに、黄色いウサギを見つけた。


「……きれい」

思わずつぶやく。


しかも、額には一本の角。


私に気づくと、ウサギは逃げた。考えるより先に追いかけていた。だが速い――とても速い。


辿り着いたのは、人ひとりが入れるほどの大きな穴。


中は闇に飲み込まれているようだった。


湿った重い空気。足音は土の壁に反響し、まるでトンネル自体が私を見ているようだった。


奥に、紫色の光がぼんやりと灯っている。


広い空間に出ると、ウサギは光る黄色い植物のそばに座っていた。周囲には紫色の結晶が輝き、洞窟全体を照らしている。


私は結晶にもウサギにも目を向けず、植物から目を離せなかった。金色の液体のように輝く花弁に、紫色の斑点が脈打つように淡く光っている。


そのとき、聞こえた。


低く……地面の奥から響くような音。

そして、重い擦れる音。

――シャア……シャア……


背筋を冷たいものが這い上がる。


ウサギも気づいた。耳を立て、一跳びでトンネルの奥へ消えた。


私は……動けなかった。

音は近づいてくる。

呼吸が浅く、不規則になる。逃げろと本能が叫ぶのに、足が地面に貼り付いて動かない。


やっと後ろを振り返ったとき――


見えた。


壁を這う巨大な影。

闇の中でぎらりと光る赤い瞳。

そして……長く曲がった、濡れた光を放つ牙。


それは、私に向かって突進してきた。


普通の蛇ではない。速く、正確で……まるで自分より遥かに大きな獲物を狩るために作られたようだった。


空気が重く、時間がゆっくり流れる。

心臓の音が耳の奥で鳴り響く。


走った。


トンネルはどんどん狭くなる。足が土に沈み、蛇の擦れる音が背後で迫る。

――シャア……シャア……


振り返ると、もう数メートルしか離れていなかった。


二股の舌が出たり引っ込んだりし、私の恐怖を味わっているかのよう。

出口の光はもう見えている。だが、あまりにも狭くなり、地面に伏せて這わなければならなかった。


爪が土を掻き、鼻に土埃が入り、咳き込みそうになる。

すぐ後ろに蛇の気配。空気が震える。


「いけ……いけ……いけ……!」

自分を叱咤するように呟く。


そのとき、足に何かが触れた。

背筋を氷のような感覚が走る。もう……一歩もない距離。


最後の力で、外へ飛び出した。


雪の上に転がり、太陽の光が目を焼き、新鮮な空気が肺に叩き込まれる。


背後では、蛇が入口に体当たりし、通れずにいた。

その頭は左右に揺れ、まるで「また会う」と告げているようだった。


私はしばらく仰向けで息を整えた。

傍らには、先ほどのウサギが、何事もなかったかのように私を見つめていた。


「ありがと……でも、あんな巨大な蛇がいるなら先に教えてよ」

皮肉をこめて言う。


――こうして私は、ことわざの意味を身をもって理解した。

『好奇心は猫を殺す』。


手にはあの植物が残っていた。

ウサギは近づき、まるで促すようにそれを私の口元へ押し付けた。


気づけば食べていた。甘い。とても甘い。

あっという間に平らげ、咳き込む。大量の水を飲んだような感覚で、体が満ちる。


口から青い粉がふっと出て、咳は止まった。


美味しかったが、あの化け物に食われかけたことを思えば釣り合わない。


空が暗くなり始めた頃、こっそり家へ帰った。

両親に叱られないよう、忍び足で中へ入ったが……そこには父、母、そして六人の村人が集まっていた。重苦しい空気。


「ブルサーペントに噛まれた……」

男の一人が沈痛な面持ちで言う。


「鱗が硬すぎて、剣でも切れなかった」

別の男が続ける。


「もし村に魔導士がいれば……癒せたかもしれないのに」


父は黙っていた。

やがて私と目が合うと、近づいてきて頭に手を置き、疲れ切った声で言った。


「……もう寝なさい」


そのとき悟った。

誰かが死んだ。そして、その蛇の特徴は――私が遭遇したものと同じだった。

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