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死後のリスタート  作者: クレイジー
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フェレンティス男爵の屋敷



馬車はフェレンティス家の門をくぐり、若く手入れの行き届いた木々に挟まれた道を進んだ。どこも派手すぎるわけではない——だが、隅々まで丁寧さと上品さが行き渡っていた。


屋敷自体は大きいが、優雅だった。明るい壁、高い窓、毎日誰かが磨いているかのような黒い屋根。ゴールデン卿の邸宅のようなけばけばしさはない。…静かに富を感じさせる。


それだけで十分だった。


つまり、フェレンティス男爵は——

ゴールデン卿より裕福なのか?


理由の分からない悪寒が背中を走った。


屋敷を囲む芝生は完璧だった。揃った高さの芝、正確に植えられた花々。敷地内には数人の従者——みな獣人——が箱を運び、植木を整え、窓を磨いていた。


人間は一人もいない。


一人も。


マルラは私の視線に気づき、口を歪めた。


「そんなに見回すの、田舎者みたいに見えるわよ」

とささやいたが、彼女も同じように驚いていた。


馬車は速度を落とし、玄関前で止まった。


そこで私たちは見た。


背の高い穏やかな雰囲気の男——フェレンティス男爵だろう。

そしてその隣には約12歳ほどの子供が立っていた。


男爵は暗い色の仕立ての良い服を着ており、袖口には金の刺繍。短く整えた縮れ毛、太陽の下で輝く黒い肌、そして……本当に優しい眼差し。作り物ではない優しさだった。


ゴールデン卿とはまるで違う。


その隣の子供——おそらく息子だろう——は年齢に似合わないほど正式な服を着ていた。紺色の刺繍入りベスト、明るいシャツ、磨かれたブーツ。落ち着きなく輝く瞳は、欲しいものは必ず手に入れてきた子供のそれだった。


馬車が止まると、最初に降りたのはゴールデン卿だった。


「フェレンティス!」

と相変わらず大げさな声。


「ゴールデン卿。」

男爵は控えめだが丁寧な笑みを返した。


二人は旧知の仲のように挨拶を交わした。

親しいようで、どこか距離もある…金持ち特有の空気だった。


私たち使用人は馬車の中で静かに待った。


ゴールデン卿とフェレンティス男爵は、私たちの存在など最初から無いかのように、そのまま屋敷の中へ入り、仕事の話を続けた。


エレナもぴったりと後に続いた。


数秒後、一人の侍女が馬車の横に現れた。

狐獣人の女性で、落ち着いた表情に、黒と白の屋敷のメイド服を着ていた。


「あなたたち三人?こちらへ。仕事場を案内します。」


マルラはため息をついた。

私は周囲の動きに気を取られながら慎重に降りた。

エレインは最後に降り、目を伏せたまま、完全に怯えているようだった。


侍女の後について裏口へ進む。


一歩進むごとに分かる。


清潔。

整然。

静かだが活気がある。


——あの寄宿舎とはまるで別世界。


小さな扉を抜けると厨房へ直接入った。


そこは……屋敷そのものだった。


だが、怒鳴り声も、雑な仕事も、慌ただしさもなかった。


本物の厨房。

本物の仕事。

そして本物の職人たち。


狐獣人の侍女が振り返った。


「男爵の判断があるまで、あなたたちはここで働きます。あまり離れないように。それと……若様の前では、決して目立たないように。」


マルラは意味が分からず眉をひそめた。

エレインは途端に緊張した。

私はただ唾を飲み込んだ。


厨房は広く、庭に面した大きな窓から光が差し込んでいた。

パンの香り、乾燥中のハーブの匂いが空気を満たしている。

中央には銅鍋の吊られた作業台——どれも顔が映るほど磨かれていた。


働く使用人たちは全員獣人。

私たちをちらりと見たが、すぐに慣れた動きで仕事に戻った。


そのとき、長身で優雅な狐獣人が近づいてきた。


毛並みは橙色に輝き、ふさふさの尾がゆっくり揺れ、金色の瞳は統率者のそれ。

完璧な黒いエプロン、腕には帳簿。

——間違いなくこの屋敷の統括者。


「フェレンティス邸へようこそ」

彼女は柔らかだが凛とした声で言った。

「私はカリーネ。この屋敷の家令兼メイド長です。あなたたち三人には、適性を見て配置を決めます。」


彼女は私たち三人をゆっくりと見渡した。


マルラには規律と完璧さ。

エレインには品と繊細さ。

私には……落ち着きの無さと隠しきれない恐怖。


「ふむ。」

カリーネは何かを帳簿に記した。

「後で調整が必要ですね。」


廊下を進むと、よりはっきりした。


ここで働くのは獣人ばかり。

狼、鹿、兎——さまざまな種族。


だが、人間は一人もいない。


「変だな……」私はつぶやいた。

「なんで人間はいないの?人間って奴隷にできないとか?」


マルラは不機嫌そうに顔をそむけた。


もちろんカリーネは聞いていた。

彼女はいつだって全部聞いている。


「人間は終身奴隷契約を結びません。」

足を止めずに言った。

「終身契約を結ぶのは獣人だけです。人間には別の法律があります。」


カリーネはマルラを見る。


「人間の少女。契約はあと何年?」


マルラは横を向いて、小さな声で言った。


「……20年。」


「二十年。」

カリーネは眉を上げた。驚いたのか、呆れたのか。


「それだけ?人間はいつも短い契約しか結びませんね……」


私は目を丸くした。


「契約?どういう意味?」


答えたのはエレインだった。声を震わせながら。


「人間は……期間が決まってるの。二十年働けば自由になれる。

でも獣人は……一生。」


カリーネが静かに頷く。


エレインの顔は再び青ざめた。

彼女は“贈り物”として連れて来られた理由を思い出していた。


胸が締めつけられる。


私は彼女の腕にそっと触れた。


「ねえ……絶対に、誰にもあんたを渡させない。」

小声で言った。

「ちゃんと計画があるから。信じて。」


エレインは、出発以来初めて、小さく笑った。


その時。


軽い足音が廊下に響いた。


若様が姿を現した。


あの入口で見た少年——

ライサンダー・フェレンティス。


私たちの前に立ち、にやりと笑った。

年齢に似合わぬ黒い瞳の光。

悪戯と支配欲が混ざった危険な匂い。


カリーネは穏やかに頭を下げる。


「こちらがフェレンティス家の後継の一人、若様です。

ゴールデン卿は数週間、二人の少女をこちらへ送ると仰っていました。若様とお嬢様は……少々、気難しいので。」


少年は口角を上げた。


その笑みだけで、背中に寒気が走った。


夕暮れ時、侍女が駆け込んで来た。


「エヴリン。エレイン。若様がお呼びです。」


また、あの嫌な予感。


ジャガイモを剥いていたマルラが片眉を上げ、


「じゃ、頑張ってね w」


と言った。


エレインと共に侍女の跡をついて階段を上がる。

豪華な廊下を抜け、白い装飾扉の前に到着した。


侍女がノックする。


「若様、二人をお連れしました。」


「入れ。」

子供とは思えない落ち着いた声がした。


入室。


部屋は広く、高価な玩具や本、クッションが散らばっていた。

ライサンダーは椅子に座り、足を組み、満足げに笑っていた。


しばらく私たちを眺め——


「おまえ。残れ。」

「え、私?」

「そう。もう一人は出ていい。」


エレインは“がんばれ”という目をして部屋を出た。


10分後。


家令が「エヴリンを呼べ」と言ったので、エレインは再び部屋へ戻り、ノックした。


「若様?エヴリン?」


返事なし。


もう一度ノック。


すると……


「た……すけ……」

「助け……て……」


小さな声がした。


エレインは凍りついた。


勢いよく扉を開ける。


そして見たのは——


エヴリンがライサンダーの後ろから腕を回し、

首にがっちりと“チョークスリーパー”を決めている姿だった。


エヴリンの顔は真剣そのもの。

ライサンダーは指で必死に彼女の腕を剥がそうとしているが、全く歯が立たない。

足をバタバタさせ、床を叩き……


「エヴリン!?何してるの!?」

エレインが駆け寄った。


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