王都への道
エヴリンが向かう先はアルテンブルク、アルセリア王国の首都だった。
その名は重みと歴史と栄光を宿し――同時に深い闇も抱えていた。
アルテンブルクは「王冠の都」として知られ、大陸の他種族すべての上に立つ人族の力を象徴している。
エルフ、ドワーフ、亜人、いくつかの混血種が暮らしてはいるものの、何世紀にもわたり人間が強い統治を維持してきた。
街は淡い石で築かれた巨大な城壁に囲まれ、空へ伸びる細い塔が立ち並んでいた。
青と銀の旗が風に揺れ、王家の紋章――縦に立つ剣とそれを横切るオリーブの枝――が掲げられていた。
力と秩序を示す印だ。
街路は血管のように内側へと広がり、
商人たちはさまざまな言語で声を張り上げ、
兵士たちは磨かれた鎧を鳴らして行進し、
子どもたちは屋台の間を走り回り、
多種多様な住民が雑踏に溶け込んでいた。
だが、その中心――
幾何学的中央にそびえ立つのは、真白なアルテンブルク王城の城壁だった。
壮麗。
高大。
大地を支配するようにそびえる自然の崖の上に築かれている。
そこで人間の王は国を治め、
数多の命運が決まっていく。
銀の塔は太陽を反射し、立体橋は空中へ伸び、
城はまるで街全体を見下ろしているかのようだった。
街は活気に満ちていたが、
そのどこにも、あの要塞の監視から逃れられる場所はなかった。
そこは、寄宿舎の子どもが想像するよりも――
大きく、複雑で、危険な世界。
そして、長い年月を経て初めて…
エヴリンはそれを自分の目で見ることになる。
***
エヴリン視点
夜明け前に目を覚ました。
まだ冷たい空気の中、私はマルラと並んで二頭の黒馬が引く馬車の前に立っていた。私は制服の襟を三度目に直した――黒いシンプルなワンピースに白いエプロン、ふくらみのある袖。屋敷のメイド服の伝統的な形だ。
編んだ髪はきつく結ばれ、尻尾はスカートの中に押し込まれている。エレナがいつも「目立つから」と言ってくるからだ。
隣のマルラは本当に絵のようだった。
金髪は完璧なシニヨンにまとめられ、頭のリボンもエプロンも一つの皺もない。
そしてロード・ゴールデンが現れた瞬間、地面が揺れた気がした。
以前よりさらに太っていて、歩くたびに金のベルトが今にも弾けそうに見えた。
彼は大きく息を荒げながら馬車に乗り込んだ。
私とマルラは後部の小さな外席に座り、朝風にさらされた。
車輪が動き出す直前、足音が急いで近づいた。
振り返ると、門の前にオリセルが立って私を見つめていた。
恐れでもない。
心配でもない。
しばらく会っていなかったのに、彼の目は何かを企んでいる者のそれだった。
見なかったふりをしたけど、彼はじっと私を見ていた。
「エレナ」
馬車の中からロード・ゴールデンが呼んだ。
「例のエルフはどこだ?」
エレナは普段通りの落ち着いた声で答えた。
「今日はエレインは同行予定に入っておりません、旦那様。」
「なら入れろ。」
彼は市場で品物でも選ぶように手を振った。
「バレオン・フェレンティスへの贈り物にする。」
身体が固まった。
贈り物?
見たこともない貴族に?
声なんて出せなかった。
許可なく口を開けば…首が飛ぶ。
数分後、別の指導員に連れられエレインが現れた。
馬車の前で立ち止まり、震える指をエプロンに絡めている。
いつもは穏やかな緑の瞳が、ロード・ゴールデンとエレナの間で助けを求めるように揺れていた。
押し込まれるようにして乗り込むと、段差につまづき、足が自分のものじゃないみたいに震えている。
私の隣に座ったが、乱れた呼吸が彼女の無表情を裏切っていた。
こうして後部席には私たち三人が並んだ。
ムスッとしたマルラ。
不安に沈むエレイン。
そして落ち着きのない私。
エレナは前席でロード・ゴールデンの隣に。
出発。
寄宿舎から遠ざかるほど、行き先は見えなくなる。
そしてオリセルの視線。
あれは――私の知らない何かを知っている目だった。
***
道中――王都まで12時間
風が顔に当たって、じっとなんてしていられなかった。
頭を窓の外に半分突き出して、あれもこれも見ようとしていた。
「エヴリン…」
エレインが袖をつまんで囁いた。
「ちゃんと座って…」
あの青い鳥を見た瞬間、心臓が跳ねた。
――エレイン、あれ見た!?
世界にこんな色があるなんて知らなかった。
エレインは深く息をついた。
メイド服も髪も完璧なまま、尖った耳だけが揺れている。
朝日を浴びた緑の瞳は、ふだんより鮮やかだった。
「落ちるよ…!」
彼女の声は震えて、泣きそうだった。
マルラはまた目をひっくり返した。
「本当に手がかかるわね。
ロード・ゴールデンに聞こえたらどうなるか分かってるでしょ。
黙ってなさい、バカ。」
私とマルラが小競り合いする横で、エレインは静かだった。
指で同じ円をずっと描き、視線は遠くをさまよっていた。
まるでこれから自分が運ばれていく城を、想像で見つめているみたいに。
私は背筋を伸ばして大人しくしようとしたけど――
景色がすごすぎて、身体が言うことを聞かない。
「うわぁ、見てあれ!」
また身を乗り出した。
マルラは私の後頭部を軽く弾いた。
「座れ!!」
エレインは小さく笑った。
私はそれが少しでも彼女の不安を和らげばいいと思った。
***
王都――アルテンブルク到着
城壁をくぐった瞬間、口が勝手に開いた。
まず匂いが襲ってきた。
寄宿舎のカビ臭さじゃなくて、香辛料、焼きたてのパン、そして少し金属の香り。
耳が勝手に動いて、街中の音を拾い始めた。
とにかく…巨大。
そして眩しい。
寄宿舎とは全然違う。
道は広く、白い石畳がまっすぐ伸びている。
家々は赤い屋根に優雅な窓枠。
店には色鮮やかな看板と磨かれたガラス。
魔導灯が角ごとに立ち、柔らかい青光が街を照らす。
人間が一番多いけど――
長衣の銀髪エルフ、
私と似た耳を持つ亜人、
巨大な荷物を背負うドワーフ、
爬虫類の混血種が薬草を売る姿もあった。
街全体が生きていた。
音も、匂いも、声も、魔力も。
生まれて初めて見る景色だった。
人々は忙しそうに歩き、
衛兵は眩しい鎧で巡回し、
その向こうに――
城があった。
巨大。
磨かれた骨みたいに白い。
天空に届きそうな塔。
見上げた瞬間、眩暈がした。
「すごい…」
知らず口に出ていた。
エレインは小さく頷いた。
「寄宿舎とは全然違うね…」
マルラは必死に平静を装いながらも、目は完全に見開かれていた。
「みっともない顔しないの。寄宿舎の代表なんだから。」
でも彼女も驚いていた。
私はエプロンを胸に押し当てながら、景色を必死に心に刻んだ。
そして胸の奥で――
ある感情が芽を出した。
外の世界はこんなにも大きくて、
知らないものばかりで、
どこまでも続いていて。
――もしかしたら。
この広い世界のどこかに、
寄宿舎の鎖じゃない場所があるのかもしれない。
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