日常の残響
ヴァルドーレ寄宿舎の朝は、いつも同じように始まる。
東棟のステンドグラスに陽が触れるよりも早く、子どもたちはすでに列を作り、灰色の麻のエプロンと、床をきしませる固いブーツを身につけて並んでいる。
教師たちはその間を歩き、曲がった襟を直し、結びの甘い髪を整え、棒で机を軽く叩いて姿勢を正させる。
授業は、薄い石壁と高い窓に囲まれた細長い教室で行われる。
冷たい風がよく入り込み、中央の長い机には羽ペン、インク瓶、黄ばんだ羊皮紙が、まるで軍隊のように整然と並んでいた。
エヴリンはいつも机の中央あたり、エレインの隣に座る──ただし、じっとしていられるのは彼女くらいのものだ。
彼女の服装はいつもどこか乱れている。
傾いたエプロン、うまく巻けていない袖、ゆるんだ髪のリボン…。
けれど、授業が始まると驚くほど集中する。
エレナ教師は深い青の長いドレスに、腰には金の帯を締め、完璧な姿勢で教室を歩く。
琥珀色の瞳が、一人一人を厳しく見渡した。
「今日は読解の最終日です。アルセリア語の短文を復習します」
眠そうな生徒たちに向けて、チョークを机に打ち鳴らしながら彼女は告げた。
子どもたちは羊皮紙に身を寄せ、うめいたり、読む順番を恐れて震えたりしている。
だがエヴリンは──
読む。
ゆっくり、丁寧に、努力を込めて。
その朝、言葉がぎこちなくも確かに流れていくのを聞きながら、エレナは眉をわずかに上げ、驚きを見せた。
読み終えた瞬間、短い静寂が落ちた。
そして、久しぶりに叱責ではない声が響いた。
「よくできました、エヴリン。読み方が……かなり良くなりましたね」
エレインは横目で微笑む。
他の子どもたちは信じられないという顔をした。
エヴリンは小さく微笑んだ。
読み方を必死に練習してきた努力が、無駄ではなかったと気づいたからだ。
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午前の授業は、書き取り、容赦ない添削、さらに読解と続いた。
だが、再びエレナがエヴリンの机の前で足を止めた瞬間、空気が変わった。
羊皮紙には、丁寧に描かれた文字が並んでいた。
「エヴリン」
エレナは厳しいがわずかな誇りを含んだ声で言った。
「ここ数ヶ月、あなたは本当によく努力しました。進歩を認めます」
そして──
「今日から……あなたがこのクラスの一番です」
空気を裂くように、激しい音が響いた。
マルラの椅子が後ろに倒れたのだ。
「な、何ですって?! どうして“クラスで一番”がアイツなの? 私が一番に決まってるでしょ!」
エレナはゆっくりと振り返り、その落ち着きがかえってマルラを追い詰めた。
「“だった”のよ。エヴリンがあなたを上回りました」
「む、無理よ! あいつ、自分の名前すらまともに読めなかったのに!」
「エヴリンは努力し、あなたを越えた。それだけのことです。不満なら努力しなさい。文句を言っても結果は変わりません」
マルラは崩れるように椅子に座り込んだ。
顔は真っ赤で、拳を固く握りしめている。
エヴリンは……誇らしさと驚きと、夢を見ているような気持ちでふわふわしていた。
エレインが小声でつついた。
「おめでとう…」
エヴリンは照れたように微笑む。
もしかしたら──
彼女は本当に、この世界で自分の居場所を見つけ始めていたのかもしれない。
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授業が終わるとすぐ、マルラは石壁に噛みつきそうな勢いで教室を飛び出した。
エヴリンは平然を装おうとしたが、視線はどこに行っても彼女に向けられていた。
賞賛の目も、警戒の目も。
教室を出る直前、エレナの声が響いた。
「エヴリン。マルラ。残りなさい」
二人は足を止めた。
エレナは腕を組み、言う。
「ゴールデン卿がフェレンティス男爵の領地を訪れる。そこで寄宿舎から二名の補佐が必要です」
マルラは当然のように胸を張った。
「もちろん私よね?」
「そうです」
エレナは頷いた。
「あなたは整理整頓が得意で、規律も守れるからです」
マルラは勝ち誇った笑みを浮かべた。
エヴリンはため息をつくだけだった。
「そしてもう一人は……エヴリンです」
マルラの表情が凍りついた。
「な、なんでよ?! どうしてアイツが?!」
エレナはもう限界のような表情で答えた。
「エヴリンは寄宿舎で最も美しい筆跡を書く。そして予想外の状況にも対応できる」
エヴリンはまばたきをした。
まるで他人事のように落ち着いていた。
「ええ。あなたは頑固で、少し好奇心が強すぎますが……状況判断ができる。それは貴族相手には必要な力です」
「ふ、不公平よ! あいつは規則破りの常習犯よ! 全然責任感ないし!」
「マルラ」
エレナは冷ややかに言う。
「これは私の決定です。あなたの許可は必要ありません。静かにしなさい」
マルラは言葉を飲み込み、悔しさで震えた。
エヴリンは笑いをこらえたが、エレナに睨まれ、一瞬で背筋を伸ばした。
「エヴリン。あなたには特に言っておきます。絶対に──問題を起こさないこと」
「はい。気をつけます」
「絶対無理でしょ…」とマルラ。
エレナは話を締めた。
「準備しなさい。馬車は夜明けに出発します」
エヴリンの心臓がどくん、と跳ねた。
寄宿舎に来てから、外に出るのは初めてだ。
もしかしたら──逃げるチャンスになるかもしれない。




