同じ日々の繰り返し
エレイン視点
毎朝、ほかの子たちが枕から頭を上げるより先に、私は目を覚ます。
ベッドを整え、顔を洗い、そしてチューターたちの呼び声を待つ。
これが私の日課……ここでは何も変わらない。
変わるのは、人だけ。
時間が経つにつれて、子どもたちはひとり、またひとりと姿を消していく。
売られた子たち。
二度と会えない子たち。
ときどき考える。
次は、私の番なのかと。
私はどんな人生を歩くのだろう?
ここにいる子どもたちは皆、自分の未来を知っている。
抗いようのない現実を、受け入れるしかない。
でも、そんなことばかり考えていたら、きっと私は折れてしまう。
エヴリンは、それを許してくれない。
そういえば……エヴリンといえば……
あの子を毎朝起こしに行くのは、もはや私の仕事みたいなもの。
私が布団を引っ張らなかったら、エヴリンは売られる瞬間まで寝ていそう。
本当に、信じられないくらいの怠け者。
しかも不器用。
すぐ転ぶし、鍋を倒すし、命令を忘れるし、「ちょっと気になったから」と言って立入禁止の場所にも平気で入る。
だけど——
エヴリンは不思議な子でもある。
物事の捉え方が、私とはまるで違う。
まるで、この年齢にそぐわない経験を背負っているみたいに。
年下なのに、ときどき大人びた言い方をする。
そのたびに驚くけど……
なぜか、安心する。
いつも「もっと夢を見てもいいんじゃない?」なんて言ってくるけど、そんなの無理に決まってる。
両親が生きているのかさえ分からない。
そして、オリセルに会っていない時間も長くなった。
東棟の廊下は静まり返り、壁の隙間から落ちる滴の音だけが響いていた。
私は洗い立てのタオルが入った籠を抱えて、狭い角を曲がった——そのとき。
「どこ見て歩いてんのよ、田舎娘。」
鋭い声。
マルラ。
壁にもたれ、腕を組み、いつもの意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「ごめん…」小さく頭を下げる。
「はぁ。いつもそればっか。あんたなんか、なんでまだ売られてないの?」
マルラは籠を蹴り、タオルが床に散らばる。
「エレナ先生もどうかしてるわ。あんたなんて、役立たずなのに。」
手を伸ばすが、指が震えて上手く掴めない。
深呼吸……もう慣れたはずなのに。
エヴリンがいないと、私はすぐ不安になる。
でも、そのときの一言は、とくに胸に刺さった。
「何か言い返したら? それとも、その捨て犬みたいな顔を続けるつもり?」
口を開こうとした。
でも、声が出なかった。
その瞬間——
「おい!!」
鋭い怒声が廊下に響いた。
振り返ると、エヴリンがこっちへ歩いてくる。
今まで見たことがないほど険しい表情で。
「はぁ、またアンタか。」
マルラが目をそらす。
「バカはそっちでしょ!」
エヴリンが前に立ちはだかる。
「自分より弱い子をいじめて楽しい? なに、それ。賞でももらえるわけ?」
「アンタに関係ないでしょ。私はエレナ先生のお気に入りなんだから。」
エヴリンはニヤッと笑った。
「ふーん? 三枚の皿割って怒鳴られてたの、私見てたけど?」
マルラの顔が真っ赤になる。
「なっ……! あれは……!」
「とにかく、エレインに触らないで。」
エヴリンは一歩踏み込んだ。
マルラは舌打ちして去っていきながら、小声で悪口を並べた。
静けさが戻ると、エヴリンが私の方を向いた。
「……大丈夫?」
頷いたけど、涙がにじむのは隠せなかった。
エヴリンは落ちていたタオルを拾い上げて籠に戻す。
「いい? やり返さないと、ああいうのは調子に乗るんだよ。」
目元を拭いながら私は答えた。
「うん…分かってる。」
「心配すんなって。私がいる。」
エヴリンが肩をぽん、と軽く叩く。
「ほら、相棒でしょ?」
その不器用な笑顔を見ると、胸の奥が温かくなる。
私はそっと手を伸ばし、彼女の手を握った。
「ありがとう、エヴリン。」
「任せなって! 次にあいつが何かしたら、すぐ私呼んで! 私、小さいけど強いんだから!」
彼女は拳を握ってポーズをとる。
あまりにも変なポーズで、思わず笑ってしまった。
寒いこの場所で、エヴリンは少しだけ、私に暖かさをくれる。
——その日の仕事はいつも通りだった。
同じ作業、同じ規則。
そして、夜が来ると、私はいつものように考え込んでしまう。
夜の静けさが降りると、この孤児院はやけに狭く感じる。
笑い声は消え、足音も止まり、石壁をすり抜ける冷気が、思い出したくない記憶を引っ張り出してくる。
そして私の心は、自然と故郷へ帰っていく。
ヴェロナ。
母が焼くパンの甘い香り。
父の鍬が土を打つリズム。
名前を呼ぶ優しい声。
何があっても崩れない、オリセルの笑顔——。
ベッドの上で膝を抱え、そっと瞳を閉じた。
両親が生きているのかも分からない。
捕まったのか、抵抗したのか……
考えたくなかった。
ここでは、時間の流れがおかしい。
一日が一週間みたいで、一週間が一ヶ月みたいに感じる。
気づけば、両親の声を何年も聞いていない。
母の顔を忘れてしまいそうで怖い。
父の笑い声も、消えてしまいそうで。
最後にオリセルと話した時、彼は言った。
「絶対に負けるな。ここに呑まれるな。」
年下なのに、昔から私の盾だった。
前に立ち、代わりに話し、代わりに交渉してくれた。
私はいつも臆病で、それに頼っていた。
ここに来て彼が生きていると知ったとき、本当に安心した。
でもすぐに、別々にされた。
この場所が……私たちを引き裂いた。
何度も会いに行こうとした。
でも、時間が経つほど彼の姿は遠のいていく。
今はもう、遠くからしか見えない。
彼は相変わらず強く見える。
でも……
それが本当かどうかなんて、分からない。
胸が締めつけられる。
会いたい。
ちゃんと顔を見て、聞きたい。
ご飯食べてる?
眠れてる?
怖くない?
村のこと、家族のこと……覚えてる?
もしかしたら、彼も同じことを考えているのかもしれない。
そう思ったら、涙が止まらなかった。
静かに、ぽたりと落ちていく涙を、私はただ受け入れた。
しばらくして顔を拭い、息を整える。
エヴリンには、見られたくなかった。
もう一度目を閉じる。
「いつか……帰ろうね、オリセル。」




