もう一つの転生者
ヴァルドーレ寄宿舎は、威厳に満ちた大邸宅だった。
そこでは、七歳から十四歳までの――種族も姿も異なる子どもたちが、貴族に仕えるための教育を受けていた。
私たちを指導する教師たちも、かつては同じこの館で育てられた者たち。すべては、ロード・ゴールデンの支配のもとにあった。
ロード・ゴールデン――金の歯を輝かせる肥満体の男。
代々続く奴隷商人の家系に生まれた彼は、妻も子も持たない孤独な支配者だった。
その笑顔はいつも皮肉を含み、冷たい心を巧みに隠していた。
教師のエレナは、犬のような耳と尾を持つ女性。三十歳前後だろうか。
彼女は穏やかで礼儀正しいが、その命令に背けば、雷のような怒りを見せる。
ヴァルドーレの空気は、フロストホルムとはまるで違っていた。
雪は消え、春の花々が咲き誇る――だが、その美しさは、この館の壁の内側に潜む醜さを覆い隠すことはできなかった。
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邸宅の反対側――男子棟。
少年たちは才能によって分けられていた。
容姿端麗な者は執事として、力強い者は護衛として訓練される。
エルフであるオリセルは、その美しさゆえに、自然と執事の教育を受けることになった。
昼食の時間だけ、男子と女子は短い再会を許されていた。
ただし、それも監督者の厳しい目のもとで。
中には、乳母になるための特別な訓練を受ける少女たちもいた。
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そして――この館のもっとも暗い真実。
生まれたばかりの子どもたちは、「商品」として扱われていた。
希少な種族同士を掛け合わせ、「優れた血」を作るための繁殖が行われていたのだ。
その子どもたちは、生まれた瞬間から“売るため”に育てられた。
十三歳から十四歳になると、彼らは競売へと送られる。
エヴリンは八歳。
オリセルは十歳だった。
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オリセルの視点
私はヴェローナ――エルフの村で生まれた。
王都から遠く離れた田舎、農民ばかりが暮らす土地。
――少なくとも、そう“語られていた”。
だが、それは偽りだ。
本当の私は――別の世界から来た。
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前の人生。
オリセルは南アフリカ、ケープタウンで生まれた。
父は石工、母はパン売り。
家はトタン屋根の小屋で、風が吹くたびに軋んだ音を立てた。
貧しさよりも恐ろしかったのは、“希望のなさ”だった。
父は酒で疲れを忘れ、母は二つの仕事を掛け持ちしていた。
それでも、晩餐は乾いたパンと水だけ。
私は、生まれる前から運命を決められたように感じていた。
海を見つめながら、よく思った。
――もし飛び込めば、この痛みから逃れられるだろうか、と。
十五歳のとき、変わろうと決意した。
働き、勉強し、母に少しでも楽をさせたいと夢見た。
けれど、世界は優しくなかった。
父は酒場の喧嘩で命を落とし、母はその一年後に、飢えと疲労で倒れた。
残された私は、地元のギャングに身を投じた。
盗み、売買、暴力――生き延びるためなら、何でもした。
本当は優しい人間でありたかった。だが、絶望は心を腐らせる。
「街」は、生き方を教えない。ただ、「死なない方法」を教えるだけだ。
ある日、失敗した強盗で、私は引き金を引いた。
倒れたのは、ただの一般人だった。
その瞬間、私の中の“人間”が死んだ。
二十二歳で逮捕され、牢に入れられた。
そこでは、沈黙だけが友だった。
後悔の沈黙。
自分を憎む沈黙。
誰もいない独房で、私は考えるようになった。
古い宣教師の本を読み、汚れたノートに言葉を書き、夜は泣いた。
やがて、他の囚人に文字を教え、希望を分け与えるようになった。
壊れた人間でも――まだ、誰かのために生きられると知った。
だが、体はすでに限界だった。
結核、栄養失調、そして自責の念。
それが私の最後の病だった。
三十二歳。
私は“善き人生”を知らぬまま、この世を去った。
――失敗者の人生として。




