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第14話 敵襲

「ソルさんの調査によると、ダージンの元奥様方に最近大金を使用した形跡はなし」


 ゾラックは調査結果をグエンに転送しながら呟いた。

 グエンは自動運転に切り替えると、フロントガラスに調査結果を投影した。

 元奥様方は完璧に傷がない。


「ふうん」


「なんだか、彼女達が関わっていないと、最初から分っていたようですね」


 グエンは肩をすくめた。


「見てみろ。彼女達はとんでもない高学歴の金持ちだ。グレッグとの離婚で支払われた慰謝料と、自分で稼ぎ出したキャリアと給料。何年も前に別れた旦那の子供を殺そうと、指一つ動かそうとしないだろうね」


「その女性観は、あなたの過去の経験から導き出されたものですか?」


「俺の心理分析はけっこう」


「どこのどいつが、あのお嬢さんを殺そうとしているのでしょうか。信じられない話です」


「人道的な話題になってきたぞ。口に気をつけろ」


「私、あのお嬢さんが好きになり始めているかも」


 ゾラックはホテルの駐車場で車を降りても、まだ上機嫌で言った。今にも口が耳まで張り裂けそうなほどの笑みを浮かべている。


「だろうね。君は恋に落ちやすい」


「彼女の言葉を聴きました? 『よろしければ』だなんて! 最高に礼儀正しいお嬢さんですね」


「彼女は人造人間とサイボーグの脳みそ部分を開発している研究所の職員だってことをお忘れなく。人造人間に好かれるマニュアルが回っているのさ」


 グエンはブツブツと呟いているゾラックを無視してホテルに入った。

 こじんまりとしたロビーでは、数人がソファーに座っていた。

 グエンはエレベータを待つ間に、いつも通りざっと周りを見回し脱出口と人を確認した。

 どんな場所でも状況を把握せよ。子供の頃から躾けられたクセは、軍生活を経ても徹底的な人生の習慣になっている。

 グエンはロビーの人間を一瞥して脳内でざっくりと分別した。

 セールスマン風、若い夫婦が一組、子供が二人――――中年の男が……。

 グエンはエレベーターを待つふりをして、何気ない様子で口を開いた。


「ゾラック、五時の男を見ろ。白人、ブルネット、黒いコートに、緑のシャツ。汚れた靴。ソファーに座っている」


 ゾラックは顔を動かさないまま、第一眼球のみをぐるりと回転させ百度後の男に焦点を合わせてせた。


「確認しました。何か?」


「何をしている?」


「電話をしています。今日の新聞を読みながら。彼は大陸の気圧配置について並々ならぬ興味を持っているようです」


「ふむ」


「どうしました?」


 グエンが黙ってエレベーターに乗り込むと、ゾラックも後を追った。


「もう一度聞きますよ、どうしました?」


「あの男、武装している」


「天気予報を確認していたから?」


「お前は面白いよ。最高の人造人間だ。これで満足? もう一度、あの男を確認してみろ。左手を腰にかけていただろ? 銃を腰にぶら下げている証拠だよ。人間、そこにアレがあると手をかけたくなるんだ。素人だよ」


「銃を持っていたら悪党だと――」


 ゾラックの言葉は最後まで続かなかった。五階で降りるなり、すさまじい音が響き渡ったのだ。

 グエンはエレベーターを飛び降りて、銃を取り出すと壁に張り付いたまま音の方向へ移動した。

 一歩進むごとに、物音が近くなる。

 トンと、空気を切り裂く軽い音がする。銃声だ。

 グエンの自分の部屋の前で足を止めた。

 何かが割れる音。

 どう考えてみても、この部屋から音が漏れている。

 グエンはゾラックに向って左手を振った。『否定』の意味だ。


「駄目です。警察に連絡しなくてはいけません……」


 グエンはもう一度左手を後手に振ると、ゾラックの抗議を遮るように口を開いた。


「ご立派な市民の義務機能はちょっと止めておいてくれ」


 グエンは携帯していた小型閃光弾を取り出した。

『下がって・耳を・塞げ』を意味するハンドサインをすると、ゾラックがぞっとした表情で一歩下がった。同時に手元のテイザー銃を確認する。しっくりと手に馴染むそれは、仕事では絶対に使わないプライベート用のものだ。

 グエンはありとあらゆる銃器の携帯許可証を持っていたが、元々実弾入りの銃は持ち歩かない。それに、こんなところでマフィアまがいの銃撃戦をする気はさらさらなかった。


『耳を・塞げ』


 もう一度ハンドサインをすると、グエンはすばやくキーをアンロックし、扉を開けるが早いか閃光弾を投げ入れてドアを閉めた。

 二百万ルーペンの光量と二百デシベルの爆音が鳴り響く。同時に射出される対サイボーグ用の妨害用電磁波の強力なものだ。扉に張り付いているグエンにも、サイボーグ化した左足と左腕にぴりぴりとしたむず痒さを感じた。

 この状態で、少しでも動ける人間は徹底的な訓練を受けた特殊部隊出身の生身の人間だけだ。それも、運良く耳を塞ぎ、運良く光源を見なかった場合に限る。

 グエンは何千回も行った突入訓練通りに足の具合を確認し、大きく息を吸い込むと、部屋に足を踏み入れた。

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