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にいさま


「さっき聞こえたのって!? えっ、本当に……!」


 金糸のような美しいプラチナブロンドの髪が軽やかに揺れ、日の光を浴びてキラキラと艶めいている。端正な顔立ちに、鮮やかなアクアマリンの瞳。宝石のように輝くそれは、歓喜に満ちているようだ。

 長いまつげが影を落とし、すらりとした鼻梁、整った唇。その姿はまるで、おとぎ話の中の王子様……。


 一目見てピンと来た。


(この人は……二人の息子なのかもしれない。)


 勢いよく駆け込んできた少年は、一瞬立ち止まり、目を見開いた。


「えっ……ちょっと、なに……えっ、えっ……」 


 わたしを見て、なぜか衝撃を受けたように固まる少年。

 父様と母様とは一味違うリアクション。


 少年は肩で息をしながら、視線をルミエル、そして父様と母様へ向ける。


 そして、彼はすぐさま動いた。

 すっと背筋を伸ばし、片手を胸に当て、優雅な動作で一礼する。


「ルミエル様、父様、母様……そして聖女様。このたびのご降臨、心よりお慶び申し上げます」


 その動きは洗練されていて、彼が品位を重んじる家柄で育ったことを感じさせる。


 しかし。

 もう――彼は堪えきれなかった。


「かわいいいいい!!!」


 ずいっと身を乗り出し、わたしを凝視する。


「こんなに小さくて、こんなに愛らしいだなんて……!」


 こちらに向けられる熱い視線に、わたしは思わず目を逸らしてしまった。


「黒髪がふわふわで、ああ……漆黒の瞳が澄んでいて……! 夜空みたいに深くて……なんて美しいだろう。 かわいさの中に美しさも存在しているなんて……! それに、肌も透き通るように白くて、唇も——」


 彼の視線が、わたしの顔の各所をじっくりと堪能しながら動いていく。


「ぷにっとしていて……とってもかわいい……!」


 えっ、ええ……?


 さっきまでの礼儀正しい雰囲気はどこへやら。

 目の前の少年は完全にわたしにデレデレだった。


(な、なんかすごく褒められてる!?)


 わたしの視線が泳ぐ。

 そのとき、ふっと気づいた。


(あれ……?)


 わたしの身体はすでに清潔な状態だった。

 肌もさらさらだし、ふわっとした薄手の衣が身体を包んでいる。


(異世界に転生するって、こういうことなのかな……? もしかして、魔法的な何か?)


 普通、卵から孵ったら卵白に覆われて、髪や肌が濡れていそうだけど……そういうことは一切ない。


(理屈はわからないけれど……汚れた姿ではなさそうでよかった!)


 わたしが転生の不思議に思いを馳せている間、目の前の少年はまだ感動に浸っていた。


「これは……もう……」


 少年は、両手で自分の顔を覆った。


「もしかして……天使様? いや、天使様なんだろう? ううん、聖女様なんだから、それ以上に尊い存在だ……!」


「ルシアン、落ち着きなさい」


 父様の冷静な声が響き、少年――ルシアンはハッとする。


「あ、いや……失礼いたしました」


 咳払いをして、少しだけ距離を取る。


「聖女様――」


 真剣な顔になり、彼は膝をついてわたしを見上げた。


「僕は、ルシアン・オラクリス。オラクリス家の嫡男。聖女様の騎士として——生涯、お守りすることを誓います」


 その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。

 わたしは勢いに押されて、思わずこくんと頷く。


「……はい。よろしくおねがいしましゅ」


 ルシアンが口元を抑えたかと思ったのもつかの間――


「かわいいいっっっ!!!!」


 身をよじらせ再び悶絶しているようだった。


「父様、母様、僕はどうすればいいんですか!? このかわいさに耐える方法を教えてください!!!」


 母様がくすくすと笑っている。


「きっと慣れるしかありませんよ」


「そんなぁ……!」


 ルシアンは本気でショックを受けているようだった。

 そんな彼を見ながら、父様が改めて口を開く。


「ルシアン、お前にも話しておこう。我々オラクリス家は、長きにわたりルミエル様の言葉を神託として民に伝え、聖女様をお迎えする役目を担ってきた。しかし――」


 父様の瞳がやさしく細められる。


「今回、我々は聖女様であるコトリを、聖女様としてだけでなく一人の家族として迎えたいと思う。」


 ルシアンの表情がぱっと輝く。


「本当に!? 僕の家族……妹として、ずっと一緒にいられるんですね!?」


 父様は微笑みながら頷いた。


「そうだ。だからこそ、お前には兄としても、コトリを支えてほしい」


 ルシアンは感極まったように拳を握りしめた。


「もちろんですっ! これからは本当の妹としても僕が全力でお守りしますね、聖女様!」


「……コトリでしゅ!」


 そう言ってわたしが笑顔を見せると、ルシアンが再び悶絶しそうな顔をした。


「コトリ……ああ、なんて素敵な名前なんだろう……! たしか、古語でそのような言葉があったような……? それにしても、名前まで愛らしいなんて、なんて……愛おしい存在なんだ。僕、コトリって呼んでも大丈夫かな?」


「はい。コトリでおねがいしましゅ」


「ふわあああ!!! コトリがかわいすぎる……! ああ、そうだ、大事なことを決めないと!」


 ルシアンが突然、真剣な顔つきになる。


「コトリ、僕のことは『兄様』って呼ぶか? それとも、『兄上』も捨てがたいな……いや、しかし……」


 なぜだか……彼は本気で悩み始めた。


「にいさま……? あにうえ……?」


 わたしは小さく首をかしげる。


「うーん……」


 ルシアンはしばらく逡巡した後、意を決したようにわたしに向き直った。


「コトリ! 『にいさま』と呼んでくれ!」


「にいさま!」


「ぐっ……!!」


 兄様の顔が、一瞬でとろける。


「天使様だ……いや、聖女様だあぁ……!!」


 父様と母様は微笑みながら、そんな兄様の様子を見守っていた。


 そして、父様がやさしく手を広げる。


「さあ、コトリ。おいで」


 わたしは、温かな腕に包まれた。


「あっ! 父様だけ、ずるいです!」


 わたしは兄様の悔しそうな表情を見て思わず顔をほころばせた。

 父様の腕にすっぽり納まったわたしを、母様がやさしく撫でる。

 そんなわたしたちを見つめるルミエルがにっこりと笑っている。


 こうしてオラクリス家にがわたしを迎え入れたのは、あたたかな日曜日の朝だった。

 窓の外には、澄んだ青空が広がり、わたしを歓迎するかのように鳥たちのさえずりが賑やかに響いている。


「あらまあ、もうこんな時間。さあ、これから朝食をとりましょうね」


 母様の言葉に、みんなが笑顔で頷く。

 新しい家族との、最初の朝が始まる――。


ここまで読んでくださりありがとうございます。


シスコンの兄というものに憧れがありまして……

ファンタジーの中で堪能することをお許しくださいっ!


楽しみにしてくださる方、応援してくださる方がいらっしゃいましたら

ブクマと評価をしていただけると、とてもうれしいですー!

(ブクマと評価が増えていて本当にうれしいです;;)


感想やレビューいつでもお待ちしております……!

たぶん、うれしくて小躍りしますー!!


これからもマイペースにがんばりますので

どうぞよろしくお願いいたします。

(三連休はしっかり投稿したい……!)

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