表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/8

オラクリス家


 ルミエルの大きな呼び鳴きが静まると、わたしはふと足音に気づいた。

 誰かがこちらに向かって歩いてくる。


 足音に意識を向けることで、わたしはようやく周囲の光景を捉えることができた。


 ここは……室内?


 今まで、ルミエルの存在に圧倒されていたけれど、よく見ると白を基調とした礼拝堂のような場所だった。

 荘厳でありながら、どこか温かみのある空間。

 大きな窓がいくつも並び、そこから陽光がたっぷりと差し込んでいる。


 窓の外には、青々とした木々が揺れていた。

 小鳥のさえずりも聞こえてくる。

 ここは自然豊かな場所なのだと、すぐにわかった。


 そして、ルミエルの後ろ、礼拝堂の中央奥。

 そこには、淡い色彩のステンドグラスがそびえ立っていた。


 描かれているのは――ルミエル。

 

(ルーだ……)


 神聖な雰囲気をまとうその姿に、わたしは改めて目の前のルミエルの存在の大きさを感じた。


 ふと、視線を落とす。


 わたしとルミエルは、藁で編まれた大きな巣の上にいた。

 ふかふかで、心地よい。

 それに、ほのかに甘い香りがする。


(ルーの寝床、なのかな……)


 そんな風に周りの様子を確認していると、入り口の扉が静かに開いた。


「聖女様……!」


 やさしくも威厳のある声が響いた。


 ゆっくりと入ってきたのは、長身で端正な顔立ちをした男性と、柔らかな雰囲気をまとった女性だった。


 わたしは一瞬で、二人に目を奪われてしまった。


 だって、そこにいる男性は艶やかなダークブロンドの髪がとても輝いていて……あぁ、なんて美しいんだろう。それに、そのやさしそうな目元。ヘーゼルの瞳が、穏やかに細められている。


 女性はウェーブのかかったアイスシルバーの髪を、なんとも優雅に結い上げていた。きっと誰もが、艶やかなそれに触れてみたくなるに違いない。こちらを見つめるアクアマリンの瞳には感動の光が宿っていて、見つめ返したら吸い込まれてしまいそうだ。


(……すごい。おとぎ話の王様とお妃様みたい……!)


 美しさにキャパオーバーする日が来るなんて……異世界恐るべし。


「……なんて、素晴らしい日なんだ……」

「本当に、伝説が……ついに現実になったのですね……!」


 こちらに歩み寄りながらそう口にした彼らの声は、震えていた。

 それもそのはず――


「私たちは、この日をずっとお待ちしておりました」


 男性が真剣な顔になり、そっと膝をついて恭しく頭を下げた。女性も優雅に膝をつき、そっと胸に手を当てる。


「聖なる卵がルミエル様の元に現れた日から……聖女様がお生まれになるその時を夢見て、ルミエル様とともにお仕えしてまいりました」


「そうだな。卵の向きを変えたり、温度を保つために細心の注意を払ったり……」


「あなたもいっしょに、絵本を読んだり歌を歌ったり……しましたね」


 そう言って顔を上げた彼女の瞳には、うっすらと涙が滲んでいる。

 わたしは少し戸惑いながらも、二人の温かな想いを感じ取った。


「……あの」


 声をかけると、二人はやさしく微笑む。


「えっと……。わたし、"聖女様"って呼ばれるの、なんだかこしょばゆいです……」


 正直に伝えると、男性は少し驚いたようだった。


「では……どうお呼びすればよろしいでしょうか?」


「それは、名前で……」


 すると、女性が表情を緩めた。


「それでは、聖女様のお名前をお聞かせくださいますか?」


 わたしは少しだけ口ごもる。


(あれ……なんだか、舌が回りづらい……)


「……コトリ、でしゅ」


 はっ。


(い、今わたし……)


 やっぱり舌っ足らず……!

 恥ずかしさで顔が熱くなる。


 そんなわたしを見て、ルミエルがクスクスと楽しげに笑った。


「大丈夫だよ、コトリ。この二人はね……まるで我が子のように、たくさんの愛情を注いでいたのだから」


 すかさずフォローするルミエルの言葉に、二人はゆっくりと頷いた。


「コトリ様……素敵なお名前ですね」


「なんて愛らしい響きなんでしょう……」


 二人の言葉の端々から愛情をたっぷり感じとったわたしは、あっという間に気持ちがほぐれていった。

 そして、少し考えた後、そっと二人を見上げる。


「あの、あなたたちの、お名前を……」


「ああっ……! 大変失礼いたしました。はじめまして、コトリ様。我々はオラクリス家の者でございます。」


 そう言って、彼は名乗る。


「私はカイオス・オラクリス。そしてこちらは、私の妻、エヴァリエルです。」


「コトリ様、初めてお目にかかります。エヴァリエルと申します。私たちは、コトリ様を心からお迎えいたしますわ。」


 わたしは、小さく頷いた。

 けれど。


(……様?)


 違和感が頭をよぎって、小さく首を振った。


「……さま、いらないです。」


 その言葉に、二人は一瞬目を丸くしたが、すぐに笑顔を向けてくれた。


「では……コトリ。どのような呼び名であっても、聖女様として大切にお守りいたします。」


 そう言ってから、カイオスが少しだけ迷うような表情を見せた気がした。


(あれ? もしかして、何か変なことを言ってしまったのかな……)


 心配そうに様子を窺っていると、カイオスが意を決したような面持ちで口を開いた。


「コトリ、ここから先は私たちの我儘です。もしも……お許しいただけるのであれば、家族として、大切な娘として、オラクリス家にお迎えしてもよろしいでしょうか?」


 予想外の提案に、わたしは驚いてしまった。

 けれども、こみ上げてくるぽかぽかした気持ち。


 わたしはこの世界で生きていくためにも、これまでのわたしを育て直すためにも、素直にこの二人を頼っていいのかもしれない……と思えた。


「……難しい言葉もだいじょーぶ。これから、よろしくお願いいたしましゅ。」


 わたしがそう言うと、エヴァリエルはそっと涙を零した。

 すると、カイオスがエヴァリアルの肩を抱いて、やさしく言葉を続けた。


「それでは……コトリ。もしよければ、私たちのことを父様、母様と呼んでくれませんか?」


 エヴァリエルも微笑む。


「もちろん、強制ではありません。コトリちゃんが呼びやすいようにしてくれたら、それが一番よ」


 わたしの手をそっと握ったエヴァリエルから、懐かしい温もりを感じた。

 家族のように……。


「……とうさま、かあさま……?」


 口に出してみると、二人はとても幸せそうに微笑んだ。


「ありがとう、コトリちゃん。」


 その時。


「父様! 母様っ!」


 勢いよく駆け込んでくる足音。

 次の瞬間、わたしの視界に飛び込んできたのは、麗しい少年だった。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

仕事が不規則で、しばらく間が空いてしましました……!


楽しみにしてくださる方、応援してくださる方がいらっしゃいましたら

ブクマと評価をしていただけると、とてもうれしいですー!

(ブクマと評価が増えていて本当にうれしいです;;)


感想もいつでもお待ちしております……!


マイペースにがんばりますので

どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ