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聖鳥ルミエル


 ――巨大な黄色いセキセイインコがゆっくりとくちばしを開いた。


 大きな影が動き、鋭いくちばしに目が奪われる。


(た、食べられる!?)


 とっさに身を竦める。

 全身がこわばり後ずさろうとするけれど、どうしてこんなときに限って足がうまく動かないんだろう。

 どう考えてもこのサイズの鳥に本気で突かれたら、ひとたまりもないのに。

 だって、小さなぴーちゃんにだって、本気で噛まれたらまあまあ痛かったんだから。


(噛まれたら……死んじゃう!)


 もしかしてわたし、生まれてすぐに大ピンチってこと?


 我ながら嫌な想像をしてしまったと思う。そのせいで余計にどきどきして、呼吸が乱れる。

 に、逃げなきゃ――いや、でも待って。セキセイインコって肉食じゃなかったよね!?

 

「ようやく孵ったんだね、小さな聖女さん。」 


 パクッ――ではなく、ただしゃべったただけだった。

 ……ふう、驚かせないでほしい。


 ――って、しゃべった!?


 いや、セキセイインコはしゃべる。うちのぴーちゃんだって、よくおしゃべりしていた。

 「コンニチワ」とか、「ピーチャンカワイイ」とか。

 けれども、目の前のこの巨大なセキセイインコは、わたしの知っている()()()()()とは明らかに次元が違う。


 わたしはひとつ息つき、恐る恐る目の前の巨大な姿を見上げてみる。


 大きなまあるい瞳がこちらを見つめている。

 よく、見てみると……その瞳には敵意はないようだ。それどころか、どこか優しい光が宿っていた。

 キラキラと赤く輝く瞳。ぴーちゃんと同じ「ルチノー」という種類だとわかって、ほんの少し親近感を覚える。


「ようこそ、セレステアへ。」


 なんて穏やかな声なんだろう。中性的で、よく通る耳ざわりのいい声。

 その声を聞いてちょっと安心したわたしは、ようやく聞きなれない言葉を認識する。


 セレステア?

 それって……。


 わたしの頭に、さまざまな記憶が流れ込む。


 転落。

 死の間際と考えられる、あの瞬間の感覚。

 そして……孵化?


「ここは君が元いた世界とは違う世界、セレステア。そして、君はこの地に生を受けた聖女なんだよ。」


 巨大なセキセイインコはゆっくりとそう告げた。


「そんな、まさか……。だって、わたしは……」


「死んだと思っているんだろう?」


 その一言に、わたしの呼吸が止まる。

 まさか。

 だとしたら、あなたは――


「ぴーちゃん?」


 わたしの問いに、巨大なセキセイインコは小さく首を傾げた。


「ぴーちゃん……?」


「わたしが飼っていたセキセイインコ……しゅ、すごく、かわいくて……。」


「そっか。大切な存在だったんだね。」


 巨大なセキセイインコの声は、どこまでも優しかった。


「でも、わたしはぴーちゃんじゃない。わたしはルミエル。神の言葉を伝える聖鳥(せいちょう)だよ。」


 そう、ここは現世ではない。

 わたしは死後の世界に来たのでもなく、異世界に転生したのだった。


「……それに、君はもう五年も眠っていたんだからね。」


「えっ……?」


 五年……。

 そんなに長い間?


 ルミエルの話によると、わたしはこの世界で五年間、卵の中で眠り続けていたらしい。

 そして、今日ようやく孵った、と。


 でも。


「じゃあ、わたしの体って……?」


 自分の手を見下ろす。

 うん、なんだか……小さい。

 指も短く、手のひらもぷっくりとしていて幼い。


 鏡はないけれど、それだけで漠然とわかる。

 わたしは、五歳の姿になっているんだ。


「……なんか、しゅ、すごいことになっちゃった。」


 思わず苦笑する。


「ふふ、でも大丈夫。君は君だよ。」


 ルミエルはそう言って、ゆっくりと翼を広げた。


「ところで、君の名前は?」


 名前。

 わたしの名前。


「……こ、こちょり、です。」


 あれ?

 舌がうまく回らない。


「こちょり?」


「ちが、ちがいます! こ、こちょ……じゃなくて……ことり……?」


 う、うまく話せない!

 まさか、これが五歳の体の影響!?

 焦るわたしを見て、ルミエルがくすくすと笑う。


「ふふ、大丈夫。コトリ、だね?」


「……はいぃ。」


 ルミエルは優しく頷いた。


「素敵な名前だね。」


 ……ああ。

 ルミエルは、わたしを害するつもりはないんだ。

 むしろ、わたしをずっと待っていてくれたんだ。


 それなら。


「あの、ルミエリュしゃん……」


「ルーでいいよ、コトリ」


 初対面で呼び捨てはどうかな? って、少しだけためらった。

 ルミエルからすると、初対面という感じではないのかもしれない。

 この体ではルミエルって呼びづらいし、ここはお言葉に甘えさせてもらおう。


「ルー、ちょっとしちゅれいっ!」


 わたしは思い切り、ルミエルに飛びついた。


 もふっ。


 あったかくてやわらかい。

 ふわふわ。もふもふ。


 目の前に大きなセキセイインコがいて、()()を我慢できる鳥好きなんているはずない。


「……ふわあぁ、さいっこう……!」


 そして、香る。

 懐かしい香り。

 穀物のような、おひさまのような癖になるあの匂い。


「インコ臭だ……っ!」


 わたしが大きく息を吸い込んで幸せそうにしていると、ルミエルはくすくすと笑った。


「そうそう、それが君の聖女としての使命だよ。」


「……え?」


「たしか……もふもふすること、だったかな?」


「……えっ、それでいいんですか!?」


 もしかして、お世話係といったところでしょうか?

 前世でセキセイインコを飼っていましたし……。

 それなら、ちょっと納得できる気がします。


 わたしの腑に落ちた表情を見て、ルミエルがふいに顔を上げる。


「さて、そろそろ知らせないとね。」


 そう言うと、ルミエルは大きく息を吸い――


「ピヨヨッ! ピヨヨッ!」


 堂々たる鳴き声が響き渡った。


「わぁ!? な、なにごとでしゅ!?」


 わたしは耳を塞ぎながら驚く。


 でも、あれ?

 この鳴き声って……。


「……呼び鳴き、だ……。」


 そう、セキセイインコは大切な人を呼ぶとき、特定のリズムで鳴く。

 時に、とっても盛大に。

 ルミエルは、誰かを呼んでいるのだ。


 そして、その誰かがすぐにやってくる気がした――。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

仕事が不規則なので、はじめて予約投稿してみました!

(うまく投稿できますように……!)


あらすじでは主人公の一人称が「わたし」だったのに、

1話と2話では「私」になっていたので……

「わたし」に揃えましたー!


改稿したのですが内容を大きく変えてはいないのでご安心ください。


楽しみにしてくださる方、応援してくださる方がいらっしゃいましたら

ブクマと評価をしていただけると、とてもうれしいですー!


1日1話……続けられるうちはがんばります!

どうぞよろしくお願いいたします。

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