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任け犬の遠吠え  作者: ノライヌ
第三章 嘘
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ガキに任せる、愚かな賭け

誓断輪廻せいだんりんね 転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』


カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称


玩狗がんぐ 転生者、転移者たちの総称 


『子供たちには優しくするんだよ。お前が優しくしてもらったように、お前が大人になったら同じように、ね?』


『ああ?ババア、テメーら人間どもが勝手にやったことだろ?俺が知るかよ』


『ああ、そうさ。勝手にやったことだ。だがいつかわかるよ。優しくするってのは、自分のためなんだって』


イースト・シベリアン・ライカのロドルフォは子供の頃からそう言われ育ち、その言葉を信じていた。

別に見返りが返ってくることに期待していたわけじゃない。

自分を可愛がってくれた人が言ってくれた言葉を、胸に生き続けるのが『忠義』だと信じていた。

そして、いつか口が悪い自分でもあの人のように、その意味がわかる日が来ると思い疑わなかった。


だが、その結果がこれか?

この地獄のどこに自分のためになるものがあるというのだ?


ロドルフォがこの村にようやく到着した時、一番最初に駆け寄り、優しくしてくれた男が今、喉から血を流し呼吸ができずに死の淵を彷徨っている。


「自分の判断ミス。自分の責任で、村一番のお節介焼きが死にかけている」

ロドルフォの頭の中に自責の念として、その言葉が流れ続ける。


「そうか。俺は最初から負けてたのかもな……なら、もう選別はやめだ。全員殺すしかねえ……」

敵の持つ倫理は善性に溢れるこの村の連中には毒素が強すぎて対応できない。

なら自分だけでも同じ土俵、同じ毒を喰らう覚悟で挑むしかない。

じゃなきゃ更なる被害が広がる。


狩りで使う得物を握り締め、思考を殺意で塗りつぶし、この先に進もうとする全てを根絶やしにする。


ロドルフォはそう、腹を括った。

(人間が四人……ガキが二人……)


恩人の言葉に背くのは心苦しい。だが信念のために仲間を今一人失いかけている。


「ひっ」

魔熊や、魔猪などを狩って生きながらえてきた男の皆殺しの決意。

その決意に当てられ、二人の子供は震え慄いた。


(怖えならそのまますっこんでろ。その方が俺も、殺さなくて済む……)


だが、後ろに控えている人間どもは子供達を盾にし距離を置く。

しまいには、

「おい!お前ら早くあいつに距離を詰めろ!お前らが殺さなくてもいいって言ってあるだろ!」

なんて宣っている。


「あいつの攻撃範囲を狭めれば殺すのは容易いんだ!早くいけ!じゃなきゃこうだぞ!」

と、ある男が両手に持つ何かを擦り合わせた瞬間、子供達が悲鳴を上げながら痛がり、のたうち回る。


抑えているのは首元。

そして、その首元には青白い光のようなものが見える。


ロドルフォもその光は見たことがある。

ドルゴに撃つのをやめさせてしまった、ヴォルタリン鉱が発する光……。


「わかったか!?これはお前らの『ママ』のお仕置きだ!お前らの『ママ』に言われてるんだ!お前らが俺らの言うことを聞かないのは反抗だから叱ってやってくれって!これ以上やられたくなかったら、あいつに近寄れ!同族なんだから殺されや死ねえよ!」


その言葉を聞いて、殺意に飲まれる寸前で恩人の言葉を思いだし踏みとどまっていてよかったと、ロドルフォは静かに感謝する。


(あぁ……そうか、このガキどもは、俺たちが憎くてやってるんじゃない。痛みを与えられ、強制的にやらされているだけか……。ならこいつらに罪はねえ……殺意に毒され、闇雲に武器を振り回さなかったのは……よかったかもしれねえ。)


のたうち回っていた子供は立ち上がり、ロドルフォとの距離を詰める。

それに合わせ、人間も剣を構え後ろに付く。


(けど、このガキどもに攻撃できねえなら俺はどうすればいい?もう、わかんねえや……さっきまで怒りで頭が割れそうだったのに、今はもう痛みも感じねえ。すまねぇドルゴ。お前を止めたせいでお前が死んじまうなんて、お前の代わりに俺が盾になって死ねばよかった。すまねぇ……本当にすまねぇ……)


ロドルフォは得物を握る力を緩め、敵の攻撃を受け入れようとした。

「グハッ……」

だがロドルフォの耳に入ったのは子供の小さな悲鳴と。


「ロドルフォ!反撃!」


子供に飛び掛かる小さい黒い影。

その声の持ち主はスコティッシュ・テリアのドゥーガルだった。

子供を押し倒し、抑え付けているドゥーガルを見て、ロドルフォはしばし硬直する。


(なんだよ……。どこから飛び出して来たんだよ?お前らテリアのチビが戦場に出ても人間相手には役に立たねえだろ?だから村の方に逃げろよ……)


ロドルフォの心はそう語りかけている。

だが得物を持つ手は、力を増し、敵に隙ができたと本能が叫ぶ。


それは日頃から狩りをしてきたものの習性か。

敵を殺すことができる隙を感じたことで無意識のうちに、めいいっぱいの力を込め、得物を振り回す。


一瞬のうちの四連撃。

子供という盾を失った人間どもは命を奪うプロの狩人の前に成す術もなく、斬り殺された。


人間どもが即死したのを確認したドゥーガルは子供から手を離し、ロドルフォの胸ぐらを掴む。


「何をしてる!?あんたは厳格なリーダーだろ!?ここであんたが諦め道を開けたら、村が無防備になる!それをわかっているでしょ!?」


二人の身長差は大人と子供ほどある。

少し前のこと、よそ者の真似してタバコを吸うふりなんてしていたドゥーガルを、ロドルフォは叱ったことがある。

そんな子供と思っていた相手に、今叱られている。


「子供たちに厳しくも優しいのは知ってる。この子達を攻撃したくないのもわかる。

それなら子供達の相手は俺に任せろ。俺たちテリアの体格では人間の大人相手には敵わないのはわかってる。役に立たないと思われるかもしれないが、俺たちなりの戦いがある!だからちょっとは頼れよ!」


歳の差はどのぐらいだろうか。少なくともドゥーガルの年齢はシアンよりも年下。

そんな少年からかけられる正論の言葉。


ロドルフォはここに来て三年以上経つが、心のどこかで同族意識を持たずに、子供だと見下していたことに気付かされる。


(ああ、そうか。体の大きさも全然違う。生まれた故郷も違う。だけど俺たちは同じカニスと呼ばれる種族だったな……)


答えを得たのも束の間、坑道の奥から大きさの不揃いな足音が近づいてくる。


(数は、十以上あるか……ガキの足音もまだあるな……)


イースト・シベリアン・ライカ。

鼻だけではなく、耳も使い狩りをする種族。


先ほどはドゥーガルの不意打ちが見事決まったからうまくいっただけだとロドルフォは気づいている。

同じ手が通用するとは思えない。


だからもう一つの作戦に切り替える。


ロドルフォはドルゴの近くに寄る。

まだかろうじて息をしているドルゴの顔に手を当て、ロドルフォは小さく尋ねる。


「苦しいところ悪い。ドルゴ……あれはどこに埋まってる?」


尋ねられたドルゴは意識朦朧の中、ロドルフォが何をするのか察し、指だけでその場所を示す。


それを確認したロドルフォは、ドルゴの近くに散らばる鉱石を一つ拾い上げる。


「何をしている?」

ドゥーガルからしてみれば、何をしようとしているのか想像できない。


ロドルフォが手に持つのはヴォルタリン鉱。

天然のヴォルタリン鉱は、定期的に電撃を放ち、ロドルフォの持つ手に強烈な刺激を与える。


カニスでは通常、この電撃に耐えられない。

だが、ロドルフォはその痛みに耐えながら、ドルゴが指差した方に進む。


もう一つ坑道を曲がったら、また人間と子供達が来る。

ドゥーガルが子供を一人二人抑えただけじゃ、手が足りない。


(本当ならもっと早くこうすべきだった。俺が人間どもを憎んでいて、復讐するチャンスが来たと心踊らされていたからこうなっちまったんだ。ならこれは俺の責任)


痛みに耐えながら、膝を曲げ、跳躍の構えをする。


(ドルゴの持つ道具でやりゃあいいんだが、あれは俺たちには使えねえ。手先が不器用ってのは不便でならねえな。投げれればいいが、ヴォルタリン鉱の力のせいか、手が思うように動かねえ。だから……くれてやるよ。この右手)


今から飛ぶ、その一瞬の間にロドルフォはドゥーガルを横目で見て、呼びかける。


「おい。お前が一番得意なこと、任せるわ」


ドゥーガルはこの時、何を任されたのかわからなかった。


だが、ロドルフォが上に飛び、右手に持っていたヴォルタリン鉱を、天井に埋まっているオレンジ色の鉱石が見え、自分がするべきことを悟った。


「ちょっ!バカか……!」


ドゥーガルが気づいた頃には、ロドルフォの拳はすでに石を叩いていた。

鉱石と鉱石が触れ合った瞬間、バチッという音と共に、文字通り空間が弾けた。


それはもう一つの作戦。

坑道の封鎖。


本来はドルゴが持つ、スリングショットで、ヴォルタリン鉱をオレンジ色のデトナイト鉱に当て、起爆し坑道を塞ぐ作戦。


だが、ドルゴの負傷によりそれも敵わず、カニスは手先が不器用で、弓やスリングショットのようなものを扱えない。


だから、残されたメンツでできることは右手ごと直接当てる犠牲が出る策しかない。

そしてロドルフォがドゥーガルに任せたのは。


「生き埋めになったあと、俺のことを助けたいと思うなら……お前が掘り返してくれ」という合図。

土を掘るのが大好きなテリアに任せた、一か八かの賭けの一撃。

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