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任け犬の遠吠え  作者: ノライヌ
第三章 嘘
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森の先で見つけたもの

誓断輪廻せいだんりんね 転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』


カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称


玩狗がんぐ 転生者、転移者たちの総称 

俺とマットの覚悟の違い。

それは今、考えるべきことではないのかもしれない。


ただ、もし同じような状況になった時、マットと同じような判断ができるように覚悟をしておく必要はある。

今はそれだけでいい。

まずはアンナの無事を確認しなければならない。


シアン「マコト。アンナの匂いはまだわかる?」

マコト「うん。あっち」


マコトの指差す方向に急ぎ、駆け出す。


俺にもアンナの匂いを見つけることができた。

だけど、アンナだけじゃない。

この森では嗅いだことがない複数の匂い。


それは先ほど嗅いだリオンと同じ香水の匂いや、先ほどの男が放っていた不快な匂いだけでなく。

たくさんのカニスと人間の匂いが入り混じる、脅威の匂い。


なぜカニスが人間といるのか。あの男のようなゲス野郎に加担するカニスもやはりいるのだろうか?

俺が今まで出会ってきたカニスが、いい人なだけでやはりカニスにも悪人はいるのだろうか?


不安がどんどん強くなっていく。

さっきの男のようなゲスはともかく、父が同族と殺し合いをするところなんて見たくない。


頼むから、何かの間違いであってくれ。


そう願い追いかけている最中、いきなり手を掴まれ走るのを遮られた。


マット「待ってシアン。この先に何かたくさんの気配がする」


相変わらずマットは匂いで察知はできないが、数多の狩猟経験から鋭く気配を読み取る。

俺たちは木の影に隠れながら、先の様子を伺った。


そこに目にしたのは、異様な風景だった。


遠目から見える姿。

頭頂部に耳、腰のあたりから生えている尻尾。

体から現れる人間とは違う特徴が、彼らが紛うことなきカニスであることを表している。


ただ、それだけではない。

見える姿は全て身長が低い。

明らかに子供のカニスだ。年端は五歳くらい。

人間でいうところの十歳くらいかもしれない。


そして何より異常なのが、大人のカニスの姿はなく、彼ら子供が人間の大人と行動を共にしていること。

異様な組み合わせ。しかもここは、人間が容易に入り込むことなどできない大森林。


そして俺は、子供たちにある特徴があることに気づく。


シアン「白い髪のカニス…」


そこに見えるカニスの子供たちの髪は、白いものが多かった。

ただ、純白ではない。所々に(ぶち)があるもの。耳だけ茶色や黒くなっているもの。

カーネやソラのような、全身純白のカニスは一人として見られなかった。


その情報が俺の中の点と点を結びつけ、なぜ彼らが人間と共にしているのか、その理由を理解させた。


シアン「あの子達…もしかして…」


それは考えたくもない、最悪のシナリオ。


五歳という年齢。純白ではない、不完全な白い髪。

プリムス村の襲撃。そして、奴らの目的。


さらに、先ほどマットに殺された男がマコトに向けて放った「使う」という言葉。

あの男がマコトの体でまず見ていたのは、能力の高さなどではなく、その毛並みだった。


プリムス村を襲った連中が放っていた言葉も同様だ。


――繁殖のための母体の確保。

白い髪のカニスは売れる。ただその理由だけで、奴らは襲撃してきた。

マコトの髪は白くないが、白柴なんて種族も地球にはいた。

もしかしたらそれを考えていたのかもしれない。


もし、仮に繁殖した結果、髪の毛が純白ではない子供が生まれたら、その子供はどういう扱いになるだろうか?


俺がいた世界でも、美しい毛並みの子犬は高値で売られ、そうでないものは「不要」だと処分されるケースを耳にしたことがある。


もし、仮にあの子たちが、プリムス村か他の村で襲われた仲間たちの子供だとしたら……?

いや、そんなまさか……もしそんなことを平然とできたとしたら……それは悪魔のような所業じゃないか……。


「誰かいる!」


まずいッ! 見つかった!

そうだ。あの子たちも俺たちと同じカニス。姿を隠していても、匂いを隠すことはできない。


どうする? 逃げるか? でもここまできて引くという選択は……。


マット「いくよシアン」


またも確信めいた動きで先行するマット。

現場で鍛えた「目」というのは、これほどまでに判断が早いのか。

子供たちに見つかりはしたが、人間たちが俺たちを追うよりも先に動いたおかげか、追っ手はもたついている。


カニスがいるが、まだ子供だ。

速さ、体力で俺たちが追いつかれることはないだろう。

だから、今いるこいつらを対処するよりも、目的のアンナを見つけ回収する。

その後のことはまた考えればいい。最悪、坑道を爆破し封鎖するという手もある。


森のさらに奥。

開けた場所に、三つの影があった。


一つは、俺たちが鳥だと思っていたもの。だが、それは鳥ではなかった。

体に翼はあるが、羽はなく、鱗。

長い尾、凶暴そうな牙、蛇のような瞳。その正体は……。


シアン「ひ、飛竜…?」


思わず小声で、その名を口にしてしまう。

いつだったか、グレーターさんと話した記憶がある。

この世界には竜がいて、あの大穴で死んだと。

あの大穴の大きさに比べればかなり小さい。種族でいうところのワイバーン程度だろうか。


そして、飛竜の足元には。


マコト「アンナ!」

見つけた喜びからか、声を落とすことを忘れ、マコトは吠えてしまう。


もう一つの影に細い首を掴まれながらも、必死に抵抗しようとしているアンナの姿があった。


アンナ「マコト!?…ッッ!?待って!お願い!シアンとマットさんは来ないで!」


なぜ、俺とマットを拒絶するのかわからない。

だけどアンナの姿がおかしい。

そもそもアンナはカニスだ。力は人間よりも強いはずなのに、抵抗しきれていない。


そして、いつもと違うのは。


マット「アンナちゃんの顔…仮面が………あっ」


異変に気づいたマットの様子が、今度はおかしくなった。

目から光が消え、どこか恍惚な表情を浮かべている。

この緊迫した場面でそんなだらしない顔をする人じゃない。


シアン「お父さん!?」


肩を掴み、必死に揺する。

それが効果あったのか、マットはハッと我に返り頭を左右に振る。


マット「俺は…今一体何を考えた…?」


あの子供たちを前にしても混乱せず、即行動に移せた冷静なマットが混乱している。

何が起きた? アンナを掴んでいる奴の能力か?


「な〜に? あんた達、この女に操られてるわけじゃないの〜?」

アンナ「やめて!」


影の声を遮るように、アンナは悲痛な叫びをあげる。

操られてる? なんの話だ?


「てっきりお前ら山犬どもが、この女の能力で操られて守られてるから、こんな奥地にまで逃げ出せたのかと思ったのに〜? それとも、この仮面をつけると効果が切れるとか〜? あの便利な女にもっと詳しく聞いとくんだったわ〜」


気の抜けたような声の中に、聞き捨てならない言葉を並べる。

能力、操る、仮面の効果。

それが何を意味をするのか、マットとマコトは訳がわからないという顔をしている。


マット「ヤマ…イヌ?能力?なんのことだ?」


だけど、俺は違う。

そしてもう一つの言葉から、この影もまた……俺と同じなんだろう。


「じゃあ、なんでお前らはこの『転生者』の女に義理立てしてるわけ〜? こいつ、よそ者だよ〜?」


この世界に犬は存在しない。だから山犬なんて言葉も存在しない。

だからつまり、こいつも俺も、そして今捕まっているアンナも…女神に選べれた転生者なのだろう。

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