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任け犬の遠吠え  作者: ノライヌ
第三章 嘘
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隠匿の知恵、走る専任者

誓断輪廻せいだんりんね 転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』


カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称


玩狗がんぐ 転生者、転移者たちの総称 

ある日の朝。

いつもと変わらぬ穏やかな日常。


今日もいつもと同じように、家の土台を積み上げている。


シアン「邪魔なんだけど…」

「……」


積み上げた木材の上で、へそ天しながら眠っているオレンジ色の髪の女性。

種族は犬の獣人なのに、猫っぽい仕草をするその少女は…。


「ふあ〜あ」

シバ一族のマコト。


シアン「どこでお昼寝してもいいけど、木材の上はやめてよ」

マコト「……」


マコトは俺のお願いに返事することはなく、器用に足で顎下をポリポリ掻いている。


この子は…。


マコトはこの三年間で見た目以外、『()()()()()()()()()。』


ネズミ事件の時に見せたらしい、何か不吉なものを感じ取ることもなく、リオンのことを話すこともない。

ただ平和に、呑気に、この地で暮らしている。


ただ、変わっていないことが少しだけ問題。

語彙力の低さも変わらず、体だけが成人近くの体型になっている。

他の子供だった仲間も、妹のソラも精神的な幼さは体の成長と共に無くなっていったのに、マコトだけがこの地に来た時と変わらずこのままだ。


人それぞれ精神的な成長速度は違うものだ。

だからそれについてとやかく言うつもりはない。


だがなぜこの子はここまで犬っぽいのだろう?

いや、猫か?柴犬は犬の中で一番猫っぽいというから種族的にはどっちも正しいか…。


少年っぽい見た目はそこまで変わっていないが、少し胸も出てきた。

そろそろその無防備っぷりをどうにかしてほしいが、マコトの中には性自認がどっちなのかもわかっていない。

だから俺からはそのようなデリケートな指摘はできないが…。


「あ!マコト!薄着で男の人の近くいっちゃダメっていつも言ってるでしょ!」

マコト「…アンナめんどくさい〜」

こうやって身近な女性に叱られることになる。


アンナ「めんどくさくない!シアン。マコトがこういう格好している時はちゃんと叱ってよ」

シアン「えぇ…?無理だよ…」


ただでさえ叱るとかできない俺が、そんな真似できるわけない。

別にマコトの体を見たいからとかそんな欲望もない。


というかいまだに俺の中でマコトは女性として意識したことがない。

胸の膨らみも、だらしないな。これを凝視しただけでこの村での立場が危うくなるんだろうな。

くらいにしか思っていない。


かなり失礼なことを言っているが、多分マコトも俺を、いや…もしかしたら全てのカニスの性別を気にしていないかもしれない。

そんな気がする。


ネズミ事件の後、マコトを同じ転生者と疑うような目で見てしまった時期もあったが、それももう無くなった。

マコトのことはよく知っている。

マコトがもし転生者だとしたら、この村でも多少警戒心を持って住むはずだ。

へそ天なんてしながら外で昼寝なんてしないだろう。


それに、俺が同じ村に住むものを疑心暗鬼の目で見ることが嫌になった。

それが一番の理由。


目の前の仮面の女性、アンナだっていまだに出自は不明なのに疑っていない。

それなのに、同じ村で育った幼馴染を疑いの目で見続けるのは、正直いうとしんどい。


もし、騙されていたとしたらそれは俺が間抜けなだけだ。

それでいいと思っている。


シアン「とにかく、仕事の邪魔はしないでね?」

マコト「……」


でた。

目を瞑り、鼻と耳だけピクピク動かして、聞いているのかよくわからない表情。

この顔をするときは大体、話を右から左に流している。


こうなったら話はあまり聞かないから、無視して仕事しよう。


マコトが乗っている木材を後回しにし、他の工程を進めるようとした矢先。


「お〜いシアン。来てくれ〜」と遠くから呼ぶ声が聞こえる。


なんで呼ばれたのかはまだわからないが、こちらの区切りもいいし一旦作業をやめ、呼ばれた声の方に向かうことにする。

するとさっきまで座り込んでいたマコトがスッと立ち上がり、走り出す。


シアン「何?マコトも行くの?」

マコト「うん。なんか面白そうな予感がする」

アンナ「とりあえず胸元隠しなさい!」


アンナの忠告を無視し、駆けていくマコトの後を俺とアンナでついていくことにした。


ドルゴ「見ろ!」

グレーター「ジャジャーン!」


ドルゴさんとグレーターさん二人が、『ある物』の両脇に立って両手を広げて披露している。


シアン「ああ、大きさ的にはちょうど良さそうですね」

間にあるものは皮と金具でできた、『ある兄妹用のハーネス』


この村の防衛機能の高さゆえに、起きる弊害。

この村は、まず大穴のある螺旋道を降り、そこからドワーフたちが掘った坑道を抜け、さらに坂道を登った先にある天然の要塞。


つまり、食料になる動物が空を飛びやってくる鳥か、もしくは川を泳いで降ってくる魚くらいしかいないため、大穴の外にある、大森林で狩りをして補うしかない。


自分たちが身を隠すためとはいえ、大掛かりな隠れ家を作ったことにより、食料獲ってくるだけではなく、獲った食料を運搬することさえ、一苦労になっていた。


このハーネスが長年のこの村の議題を解決してくれるアイテム。


最初は色々試行錯誤した。


大穴の頂上から、一段一段杭を打ち、ロープで下ろす方法や、ハシゴをかける案。

鉄竹を加工することで、レーンを作り、トロッコを走らせる案なども考えた。

だけど楽な方法を選べば選ぶほど、俺たちがこの先に隠れています。と自分たちで痕跡を残しているだけになっていく。

それだと本末転倒。

なんのためにカモフラージュしているのかわからない。

だから最終的に最も原始的な運搬方法にすることになった。


ドルゴ「ほれ、着けてみろ」

と、兄の方にハーネスが手渡される。

腕を通しカチャカチャと金具の音を鳴らしながら固定し、装着が完了。


ルカ「窮屈」

ララ「ダサ〜い!可愛くな〜い!」

ハーネスを装備したルカの姿は、高所作業をする現場作業員のようで少しおかしかったが、様になっていた。

ダサいなんてことはないし、機能美というものは可愛くないものなの!


結局は誰かが運搬係を担当することが、一番いいのではないかと結論が出た。


その役目がルカとララ。

本来はソリ犬の犬種、シベリアン・ハスキーのカニス。


ロドルフォさんが長年、この二人に狩りを教えようとしても覚えようとしない。

サボって至る場所を走り回るだけなのであれば、もう走り回るのを仕事にしてしまえということで、この役を彼らに与えた。


ドルゴ「窮屈とはいうが、走れんことはないじゃろ?」

言われたルカは、頭をポリポリ掻きながら「まあ」とだけ答える。


少しテンションが低いが、不満なんじゃなくて、多分窮屈なのが嫌なだけなんだろう。

そのうち慣れれば、すぐにいつもの残念なイケメンに変わる。


グレーター「思ったんだがよぉ。上で狩りが終わって運搬したい時、もしくは下から上になんか運びたい時に、ここにルカララがちゃんと待機しているのか?こいつらすぐどっか行くじゃんか?大丈夫なのかジジイ」


ドルゴ「儂に言うな。この配置を決めたんはシアンじゃ」


まあ、確かに。

それは他でもない、ルカとララのサボり癖のせいでの評価だ。

そういう疑問が出てもしょうがない。


シアン「なのでこれも作ってもらいました」

と手のひらに乗っている銀の棒をグレーターさんに見せる。


グレーター「なんだこりゃ?」

シアン「俺たちにしか聞こえない笛です」


揶揄とかではなく、本当の意味での犬笛。

本来は人間の耳にも微かに聞こえる高周波を出す犬笛だが、勘のいいマコトとドワーフたちで実験し、人間やドワーフにも聞こえないレベルまで改良してもらった。


この地に人間がいない為、絶対ではないと思うがドワーフで聞こえないのなら聞こえないだろう。


この笛には利点が二つある。

一つは、運搬時にルカララの二人を招集すること。


そしてもう一つ、短く連続で吹くことで緊急事態を知らせること。


本来は遠吠えがいい。

だが、遠吠えだと俺たちの位置までわかってしまう。


敵に気づかれぬように、ひっそりと、でも迅速に緊急性を伝えたい時に絶対に役に立つはず。


グレーター「はあ〜ん。なるほどね。じゃあ今後の運搬はルカララ兄妹にやってもらって、俺はお役御免だな!」

やったぜ!と言わんばかりに蹴伸びをしながら開放感に浸っているグレーターさんだが、

ドルゴ「そうじゃな。お前は今日から無職じゃ」


という、言葉を耳にし、自分の立場が怪しくなったのを、グレーターさんはようやく気づいたらしい。

顔を青ざめさせて、俺に頼ろうとしている。


マコト「ボクも欲しい」

シアン「マコトの体格だとちょっと運搬役は厳しいよ」


申し訳ないが、兄貴分への職の斡旋までは面倒見きれないので無視させてもらう。


ドルゴさんがルカのハーネスにソリをつけるとタイミングよく、高音の突き抜けるような音が大穴の上部から鳴り響いた。


シアン「上で働いていたお父さんが帰ってきたみたい」

笛はすでにリーダー格であるマットとロドルフォさんに渡してある。

あの二人なら遊びで吹いたりしないし、持つべき人格者だと思っての判断。


ドルゴ「そうか。ほれ、ルカいい機会だから上に行ってこい」

ルカ「お?おお?」


ズリズリとソリを引きずる感覚を慣らしているのか、不思議そうな顔をしながらルカは走り出す。

だが、すぐに走りやすい感覚を掴んだのか

ルカ「ギャハハ」

と笑いながら螺旋道を駆け上がっていった。


ララ「ねえねえ?あれ引いて走ったらあと残るじゃん?それってバレないの?」

隠蔽するために、いろんな案を却下したのだ、その疑問はもっともだと思う。


ドルゴ「大丈夫じゃ、ここは魔力を秘めた鉱石が集まってる場所。つまり土そのものにも魔力がかなり詰まっている。上から突き抜ける風とその魔力で、轍なんかは一日もせんうちに消えるわ」


というこの地ならではの、自然による隠蔽が可能なのだ。

人間では痕跡を辿ることはできない。


ララ「そうなんだ〜すごいね」

多分興味がなくなったな、このリアクションは…。


ソリを引くルカがシャーっと小さな音を立てて、上から戻ってきた。

遅れて、マットやトラさんたちが降りてくる。


トラ「いや〜この螺旋道降りるのしんどかったから、ルカに専任してもらえると助かるわ。あんがとな!ルカ!」

ルカ「もう一回やらせろ」


楽しかったのか、それとも有り余るスタミナに火がついたのか、ルカはまだまだやれるとアピールしているが、無駄に体力を使う必要もないので、この後の坑道内を走ってもらうことにする。


人力車よりもさらに過酷な労働に見える絵面のため、本人が嫌がったらやめようと思ったがそれも杞憂だった。


マット「ただいま。シアン、アンナちゃん」

シアン「おかえり。お父さん」


アンナ「…」

シアン「アンナ?」


アンナ「え?あ、ごめんなさい!お帰りなさいマットさん」


もうマット相手にも普通に話せるようになったアンナが少しおかしな反応をしていた。

何か気になることでもあったのだろうか?


シアン「どうかした?」

アンナ「え?あ、ううん。少し気になったことがあっただけ。多分勘違い」


アンナがそういうならそうなんだろう。


「え〜!ていうか、坑道の運搬はあたしの仕事じゃん!ルカ変わってよ」

「やりたんねえから無理だ」


気づけばもう、みんな坑道まで降りていた。

シアン「アンナ。戻ろう?そろそろ夕食だし」


声をかけた時、まだアンナの心はここにあらずというか、上を…大穴の入り口あたりを気にしていたような気がする。

その時に俺が気づけばよかったのかもしれない。


この後起きる、事態の前触れに。

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