団欒と夜風の寂しさ
誓断輪廻 転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』
カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称
玩狗 転生者、転移者たちの総称
「おかえりシアン」
自宅の前、自宅の扉を開けて帰宅しようとしたとき、後ろから声をかけられる。
それは同じタイミングで帰ってきていた、父マットだった。
シアン「ただいま。お父さん。そちらこそお帰りなさい」
マットはこの新天地でも変わらず狩りを担当している。
シアン「今日はどうだったの?」
マット「でかいやつが獲れたよ。まあ獲ったのは俺じゃなくてシュウだけどね」
世代交代が進みつつあるのか、現場でのエースはアキ一族のシュウに変わってきているようだ。
マット「俺ももう歳かもね」
シアン「そんなことないでしょ?」
マットの年齢は二十歳。
俺とは十歳離れているが、人間年齢で言うと四十歳。
肉体年齢は俺よりも倍の年齢がある。
シアン「シュウは確かに優秀だけど、まだまだ狩りをするには、お父さんやトラさんみたいなベテランがいないと不安だって、シュウが言ってたよ」
それは至極真っ当な不安。
シュウも俺と同じ十歳。
狩りの経験としてはまだ四年程度。
群れの中で一番体力はあるかもしれないが、村のリーダーをやるには経験が乏しいと言わざるを得ない。
だからまだまだ、マットやトラさんたちには引退してもらえそうにない。
マット「そっか。それもそうだね。でもそろそろ次の世代、いや孫世代がみたいなって思うようになってきたよ」
マットが横目でチラチラと俺の顔を見てくる。
シアン「ぐっ…」
それはつまり、俺やシュウの子供がみたいということだろう。
だが、俺にそんな予定はない。
というか、そんな相手がいない。
マット「アンナちゃんと…」
シアン「うわあああああ!」
また始まった!
家の玄関前でその話はしないでほしい!
シアン「ほんとやめて。お父さん!そういうの良くない!」
万が一家の中にアンナが居て聞かれでもしたら気まずくてしょうがないことになる。
マット「そうなの?最近の子はそうなんだ」
最近の子がそうなのかは知らないが、俺が嫌なの!
俺は…確かにアンナのことを異性として意識しているところはある…。
でもアンナはおそらく、俺のことを家族のようにしか意識していないと思う。
それがどうなのか今まで確認をしたことはないが、本当にそうだったと確信するのが…怖い。
マット「まあ、女の人が苦手なのは俺譲りか。だから今、いい人がいないのはしょうがないと思うけど、本当に好きな人ができた時のために、今のうちに一つだけアドバイスをしておくよ」
確かにこの人も俺と同じで女の人は苦手だ。
母であるカーネ以外の女性と世間話以外で話しているところを見たことがない。
だから俺に似たこの人からのアドバイスは無駄ではないはず。
大体の予想はつくけど…。
マット「女の人なんてこの世に一人、好きな人だけいればいいって思うこと」
だと思った。
予想通りの答えで少し笑えてくる。
バカにしているわけじゃない。
だってこの人はカーネ一筋だもん。
本当にこの人らしい答えで、笑えてしまった。
モテたいとかそういうのとは無縁の人。
だから他の人のアドバイスよりも何倍も説得力がある。
シアン「参考にするね」
俺にもマットにとって、カーネのような存在が現れたら、俺も同じような恋愛がしたいから。
そう一言だけ返して、扉の取手をひねる。
そして、そこにその説得力をさらに強化する存在が、俺を迎え入れてくれる。
「おかえり!」
この三年間で新しく増えた家族。
俺とソラの妹であり、マットとカーネがいまだにラブラブであるという証明。
シアン「ただいま。シノン」
シノン「おかえり!おにいちゃん!」
名前はシノン。
俺と名前がよく似た妹。
顔立ちはマットにもカーネにも似ていて、髪色も右半分が黒で、左半分が白と、父と母、二人の髪色をちょうど半分で分けたような髪色をしている。
年はまだ二歳だが、ソラの小さな時と同じで語彙力はとても高く、人間年齢四歳児とは思えないくらいよく喋る。
そして、三年の月日が経ち、現在六歳。人間年齢十二歳を超えた妹のソラはというと。
ソラ「チッ。もう帰ってきたのかよバカにい」
絶賛、反抗期を迎えていた。
反抗期を迎えた理由は他の誰でもない。
俺が理由であるのはわかっている。
魔熊の時、ソラを無視して駆け出してしまったこと。
ネズミの時、無茶しないと約束した次の日に、約束を破り、溺れかけ死にかけたこと。
そして、この村での開拓期、仕事優先で遊んであげられなかったこと。
やるべきことが多すぎて構ってあげることができなかった俺の落ち度が、こうやって反抗期として返ってきている。
だからこの反抗期は俺のせい。
それに俺以外には少し口調が悪いが、普通に接している。
シノンの情操教育的には良くないから、口調を直してほしい気持ちもあるが、自分が原因だから言い出せずにいた。
それにその教育の役目は俺ではなく
カーネ「ソ〜ラ!そういう汚い言葉シノンの前で言わないでって言ってるでしょ!」
ソラ「は〜い」
カーネがしっかり言ってくれるからだ。
シノンの前でなければ汚い言葉を俺に使うのはいいのか?という野暮なツッコミもしない。
シノン「パパもおかえり」
マット「うわあうちの娘可愛い!ただいま!」
マットはここで定住するようになって、安心したせいか少しキャラがおかしくなった。
昔はもっとクールでかっこよかったのに、シノンを前にすると骨抜きになってしまう。
まあ、これが平和である証拠なのだろう。
アンナ「おかえり。シアン」
シアン「ただいま」
水浴びをする前に一度会ってはいるのだが、お互い挨拶をし合う。
ふと気づけば、この家の男女比もプリムスの村にいた頃は男3女1だったのに男2女4で逆転されてしまったな。
この場にグランじいちゃんも居てくれれば、どれほどよかっただろうと毎日思う。
グランじいちゃんが居たらもっと騒がしかったろうか?
ソラやシノンにはどれほど甘かっただろうか?
どれほどシミュレーションしても、答えは出ない。
アンナ「どうしたの?」
シアン「ううん、なんでもない」
少ししんみりしてしまった。
せっかくご飯だ。暗い気持ちで食べたら味が落ちてしまう。
食事中。
ふとマットが思い出したように聞いてきた。
マット「そういえばドルゴさんと話していたんだけど、シアンはエルフの元に行くの?」
あ、そういえば…ドワーフの村、エルデに漂流した当時はカニスのことをもっと知らなくちゃいけないって思っていたからな。
ドワーフたちはカニスのことをよく知らないし、カニスのことをもっと知るためにはエルフの住む森までいかなければならないと思っている時期もあった。
だが、今はやること多いから頭の中からすっかり抜け落ちていた。
シアン「あ〜いつか。機会があれば行きたいけど…どこにあるかわからないからな…」
カーネ「川を下っていけば着くって聞いたけど?」
シアン「誰から聞いたのそれ?」
カーネ「ラスティさん」
ああ…。
ワイヤーフォックステリアのラスティさんか。
あの人、変にいろんなこと知ってるからなあ。
カーネと二人でよく話しているからそれで聞いたのだろう。
それにしてもよくあのラスティさんのマシンガントークを聞いてられるな。
俺はもうあの人とは、挨拶以外の会話ができそうにない。
カーネ「で?どうするの?」
シアン「う〜ん」
いずれこの地を離れた方がいいのかもと思う日もあるが、今聞かれても即答できない。
ソラ「どうせ勝手にいなくなるんでしょ。バカにいだもん」
シアン「……」
ソラの辛辣な言葉に、胸にちくっとした痛みが走る。
マット「あはは、勝手には居なくなったりはしないと思うよ。ネスやルカたちじゃないんだから」
笑いながらマットが訂正してくれたが、あの二人がよくやる、ふらっと居なくなるサボり癖と、ソラが俺に向けて言っている『居なくなる』っていうのはちょっとニュアンスが違うような気がした。
シアン「この村から勝手に居なくなったりはしないよ。ソラ」
ソラ「ふんっ…」
そんな寂しいことは、俺だってしたくない。
だけどいつか…
この村から去る日を決めなくちゃいけない日が来ると。
背中に流れた冷たい夜風が、そう告げているような気がした。
編集とは別の新年初めての更新です。
今年も毎週日曜19時更新で頑張りますので、よろしくお願いします。




