開拓と女神のおもちゃ
誓断輪廻 転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』
カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称
シアン「坑道を掘った先の地に、新たな村を作る?」
ドルゴ「そうじゃ」
マコトへの疑念は晴れないまま、時は過ぎていく。
平和の中に、時に不安が見え隠れするが、ネズミが去った後、このエルデの村で特別な問題は起こっていない。
森の外でどのくらい戦火広がっているのか、僻地にいる俺たちにはわからないが。
その戦火から逃れる術である、坑道はもうすぐ完成に向かっている。
マット「それは万が一の避難所。ということですか?」
ドルゴ「いや、違う。全員そちらに移住し、お前らが今住んでいる住居はダミーに使う」
全員移住し、ダミーにする?
ドルゴ「万が一、人間どもが森を抜け、この地に辿り着いても、空の住居を見たら『この地には住んでいた痕跡はあるが、随分前に移動している』という考えになるはずじゃ。そうすりゃ多少、周りを散策はすれど、この地に価値はないと去るはず。戦火に巻き込まれずにすむ」
おお!
シアン「それってすごくいいアイディアですね!」
本当にすごいいアイディアだ。
これでプリムスの村のように、不意打ちで襲われる可能性はかなり低くなる。
だが、その先の地は安全なのだろうか?
ダミーよりも先にそっちが見つかってしまう可能性だってありうるのでは?
ドルゴ「とかなんとか考えてるじゃろ?土の精霊舐めるなよ?」
シアン「え?いや、舐めてはないですけど、けどどうするんですか?」
ドルゴ「そんなもん、最初から見つからない場所を目指して掘っていたに決まっておろう?その地の周りは、絶壁に囲まれた盆地。馬や人間じゃ踏破不可能の地じゃわい!」
おお…それってまさしく、カニスやドワーフにとってのユートピアのようなもの。
たまにゲームである、後半になってからじゃないと訪れることができない隠しステージのようでワクワクする。
ドルゴ「まず、ここまで辿り着き、空の住居を確認。その後、大穴が怪しいと下におり、狭い通路を越え、坑道に出た後、さらに坑道という地下迷路を越えた先にある場所なんざ簡単には辿り着けんじゃろ?」
「「おお!確かに!」」
あまりに複雑な攻略法に俺とマットは声を揃えて賛同した。
これなら俺のような転生者とは関係のない、カーネやソラたちが安心して暮らせる。
そうなれば、俺は満足。
大切で無関係な人たちを、これ以上巻き込みたくない。
ドルゴ「じゃからお前らにはその地の開拓を手伝ってもらいたい。道具や住居の細かいところは儂等が作る。お前らは整地や、力仕事。持ちつもたれず。どうじゃ?」
そんなの願ってもない頼み。断る理由なんて何一つない。
故郷を奪われた俺たちが、自分たちで新たな故郷を作る。
そんな嬉しいこと、手伝わないわけがない。
シアン「俺、なんでもやります!だからまた色々教えてください!」
ドルゴ「はい!今なんでもやるって言ったな〜?マットも聞いたな?」
あ、やばい。めちゃくちゃこき使う気だ!
マット「聞いたよ。まあシアンならすぐに覚えるから、なんでもやらせてください」
ああ、失敗した!そのうち現場監督のようなことまでやらされる気がする!
それからは毎日楽しかった。
生い茂った草花を刈るために大鎌の振り方を学び。
鋤簾と呼ばれる農具で、残った根を土から掘り起こす。
それを繰り返し、大地を整地していく。
家を作るための土台作り。
それが終われば、今度は森に木材を調達しにいく。
斧で、木を両断し、ノコギリで木の形を整える。
そうやって家を作る準備が進んでいく。
俺の生きていた時代には、もう行われていない古い建築技法だが、古の人たちもずっとこうやって家を建ててきた。
それが楽しかった。
まず最初の家を一軒建てるのに、一年以上もかかったが、それでも全然、苦に思うことはなかった。
マコトへの疑念や、女神のゲームの不条理。
あの思考の迷路から逃れるように、俺は開拓に没頭した。
そうやってやりがいと、生きがいをこの地に見つけてから、もう三年の月日が静かに流れていった。
一方、シアンが開拓に没頭している裏で、また物語が動こうとしている。
玉座に座る男。
その前にひれ伏す水色の髪の女。
頭の高さだけでなく、服装、態度、全てが対象的な二人。
「バカな女だな。神からもらった力を、人助けなぞに使いおって。だからこうして捕まるのだ」
玉座から頬杖をつき、対峙する女を心底見下しながら男は言う。
水色の髪の女の取った行動は、皇帝ダミアーノ・ヴェルン・ファルケンハルトにはまさしく理解できない行動だったからだ。
「その力があれば、自分一人だけでも逃げることはできたろうに。貴様は女神から『誓断輪廻』の説明を受けていないのか?」
「……」
女は答えない。
「答えぬか。まあよかろう。なら答えたくなるようにするまで」
そういうとダミアーノは控えていた男を手招きし、
「一つ質問に答えぬごとに、この女と一緒にいた村のもの、誰かの首を一つ刎ねよ」と指示した。
その言葉に女は恐怖に顔を歪ませ、バッと顔をあげ「し、知っています!」っと、焦りながらも答えてしまった。
答えた瞬間、女の頭の中に声が響く。
『ミリア様。その回答の仕方は悪手です』
ダミアーノの耳には微塵も届かない。
ただミリアと呼ばれた女性にしか聞こえない、女神が授けた能力。
ミリアの反応を見て、ダミアーノは鼻で笑う。
このゲームの本質を最も理解している男には、その行動は滑稽だった。
(自ら弱点を晒すとは、本当に間抜けな女だな)
このゲームにおいて、『優しさ』というものが、いかに自分の首を絞め、苦しめるのか理解していない時点でミリアの勝ち筋はすでになかったとダミアーノは悟った。
神に授かりし力は、自分が勝つために使うものであって、他者を守るために使うものではない。
『利他的』に能力を使えば、それが『神に授かりし力』として噂になる。
そうすれば、自分が転生者だということを、わざわざ他の転生者たちに吹聴するようなもの。
その結果がこれだ。
ミリアはその力を使い、多くの弱者を助けようとした。
そして、噂が立ち、帝国に居場所を知られ捕縛され、今現在ダミアーノの前に突き出されている。
逃げる術はあった。
ミリアの頭の中に流れる声が、逃げるための最善の策を用意してくれる。
だが、ミリアはその声に耳を傾けようとしなかった。
『この村のものたちは、あなたを神の使いだと思っています。メリアを守るよう命令し、その隙に逃げましょう』
それは確かにミリアだけが助かる術。
他者を犠牲にし、自分だけが助かる道だった。
せっかく助けたものたちを、盾に使うことはミリアにはできなかった。
「貴様の頭の中で、逃げる算段を出してくれたのではないのか?なあ『知恵の女神』に選ばれた転移者よ?」
「っ!?」
ミリアは驚愕した。
ダミアーノには全てばれている。
己の行動が浅はかだったために、転移者だとばれたのはわかる。
だが、なぜ『知恵の女神の転移者』だとばれたのかがわからない。
「己が前任者を呪うのだな。その力を使い、『あらゆることを調べ、答えを書物に残した』前任の知恵の女神の転生者を」
(前任の…?)
ミリアは知らされていなかった。
自分のよりも前に、知恵の女神に選ばれ、この世界に転生したものがいたことを。
『目の前の男が言っていることは本当です。あなたがこの世界に転移する200年前、この世界にはあなたと同じようなものが召喚されています』
どうして教えてくれなかったのか。と頭の中の声を恨もうとしたが、ミリアはやめた。
自分がその問いに至らなかったのだ。
この世界のことを知ることよりも、この能力を使い人助けすることを優先した。
なんて間抜けなのだろう。
この男がいうとおり、自分の能力で自分の首を絞めていた。
「お前も、神に弄ばれていた。ということがわかったか?あいつらがお前に力を与えこの地に呼んだのは、お前に使命を与えるためではない。お前の能力、【知神の啓示】に聞いてみろ。俺やお前のような、転生者、転移者の総称を」
神はミリアに、選ばれたものと言っていた。
だからその言葉を信じていた。
志なかばで死んだ自分を救ってくれる神だと、信じていた。
だが、【知神の啓示 スティグマ・エンケファロウ】から返ってきた答えは。
『あなたたち転生者、転移者の総称は』
『玩狗です』
その言葉を聞き、ミリアは自分がこの世界をよくするために選ばれたのではなく、物語を盛り上げるためのおもちゃだったのだと知り、絶望した。
ここで一旦シアンたちの舞台は3年後まで飛びます。
シアンは十歳(人間年齢で二十歳)になります。
この投稿で一区切りつけ章分けを行います。
ここまでが第二章になります。
そして、今後の方針として、不定期更新ではありますがキャラの掘り下げをする外伝
任け犬の遠吠え〜日常編〜を来週の日曜から連載開始しようと思います。
こちらは月に2回の更新目指して頑張りたいと思いますので、皆様どうぞよろしくお願いします。




