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任け犬の遠吠え  作者: ノライヌ
第二章 土とドワーフとテラニスと
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疑惑と首輪

誓断輪廻せいだんりんね 転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』


カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称


ネズミ退散後、当然俺はカーネにこっぴどく叱られた。


それはそうだ。

選択肢がなかったとはいえ、また無茶をしたのに変わりはない。


カーネとソラにあらゆるところをツネられ、痛がっているのを狩りから戻ってきたマットが微笑みながら見ている。


それを見て、またカーネが怒る。

カーネ「マットがそうやってシアンの無茶を肯定するから、この子は無茶をやめないの!」と


誰よりも、俺が無茶したくないと思っている。カーネとした約束を破りたいなんて思ったことはない。

ただ何度もいうが、別に無茶をしたくてしているわけではない。

選択肢が他にあるのであれば、俺自身がそっちを選択したいと心底思っている。


もし、俺にチート能力があり、なんでも解決できればと何度思ったことか。


そう。

俺が渇望する、問題を解決できる特殊な能力。


今回俺が動いている裏で、マコトが奮闘していた話をグレーターさんから聞いた。


最奥にあったドワーフですら見限っていた無価値な場所。

そこにネズミが巣を張り、縄張りにしていた場所。


そこが知らぬ間に大量のネズミの死骸と、血と腐臭が渦巻く地獄になっていた。


ここのリーダー格のジャックさんですら、その地獄を目の当たりにした時、動くことができなかったというのに。


マコトは気にせず駆け抜けていたという。


グレーターさんは、なんとか無理をしながら進めたらしいが、その後「もう二度とあんな場所近寄りたくねえ」

と言っていた。


だが、ネズミが去った後、あの場所に「近寄りたくない」というものはいなかった。


俺もその場に後日入ったが、確かに腐臭と血の匂いは酷かった。

だが、気分が悪くなり動けなくなるなんて症状はなかった。


他のカニスたちも皆、そう言っている。


じゃあ、なぜその時、ジャックさんたちは動けないにも関わらず、マコトだけが平然と動いていたのか。

そして、その時マコトが「入れるようにするために」何をしたのか。


もう、こう考えるしかない。


「マコトは柴犬とは全く関係ない能力を持っている」


そんなこと、本当は考えたくない。

同じ村で育ち、同じ場所に逃げ、小さな頃からずっと一緒だった幼馴染を、『俺と同じ転生者』だと疑いたくはない。

だが、明らかに柴犬となんの関係もない行動をしている。


俺はマコトと、女神が定めた『どちらかを蹴落とすまで終わらないゲームのプレイヤー同士』として争わなければならなくなる。

俺はマコトと争いごとなんてしたくない。


だが、最後の一人を決めるまで、このゲームは続くと女神は言っていた。


そして敗者には、地獄への片道切符が用意される。


『誰かを手にかける』か『どちらかが死ぬか』、俺かマコトどちらかは来世、確実に地獄に落ちることになる。


だからマコトが転生者でないことを祈りたいが、マコトが取った行動が、より一層猜疑心を生むことになる。


グレーターさんの証言を聞くと、明らかに他のカニスとは動きが違う。


この地に何かあることをいち早く気づいたこと、銀の棒を叩き割った行動、そしてその後、正気を戻しこの地を去ったネズミたちの一連の流れ。

勘がいいから、とかそういうレベルの話ではない。

確信めいたものがなければできない動き。


それに、マコトが何度も言っていた「アレ」の正体。


割った銀の棒の形状と、以前あのネズミの巣あたりで目撃された『ある人物』の証言を照らし合わせると。

ある男の姿が思い浮かぶ。


この地で大ネズミを退治し、去った男は間違いなくリオン。

そして、その放った矢が、どうやらこの地を狂わせていた原因のようだった。


マコトはそれを知って、折ったように見えたと、グレーターさんは言っている。


なぜ、リオンはその矢をこの地に打ち込んだ?

なぜ、マコトはその矢が原因だとわかった?


リオンは転移者だと、自ら自供している。

それに彼は俺のことが転生者だとすぐに気づいていた。


俺が知らないだけで、本当なら転生者や転移者はお互いを察知できる能力があるのだろうか?

マコトはその能力を使い、リオンが打ち込んだ『呪い』を解除したのだろうか?

ならマコトは俺が転生者だと知っているのか?


わからない。


線と線が繋がりそうで、繋がらない。


リオンの行動も、マコトの行動も不可解すぎる。


特にリオンはなんなのだ?

「このゲームにかけらも興味はない」と言っていたはずだ。

それに自ら脱落したような言い振りだったが、そうではないのか?なぜ呪いのようなものを残す?


いや、そもそもあの男は本当に脱落しているのか…?


ゲームの脱落者ならば、その時点で盤面から下されるのが普通だ。

それはつまり、ルールを破った瞬間死ぬということじゃないのか?

ならリオンが生きているということは、まだ脱落してないとも取れる。


あまりにもルールの説明が適当すぎるせいで、何がどうなっているのかわからない。


そうなるともしかしたら、リオンは俺たちがこの地に来ることを確信していたのか?


…いや、それはおかしい。

俺たちとリオンが森で出会ったのは完全に偶然のはずだ。


もし、狙って遭遇していたとしても、リオンの匂いを頼りにし、この地を目指す提案をしたのは俺だ。

それにあの人と過ごしたのはほんのわずかな時間だが、そんな回りくどいことするような人には見えなかった。


それに、リオンに「ネズミが暴れている」と相談したのはドワーフたちらしい。

リオンが動いたのは事実だが、リオンがそこまで考えた作戦だとは思いづらい。


ああ、ますますわからなくなってきた。

リオン本人に直接問い詰めたい気分だ。


森であったあの人が、本当に裏表がない人物だったなら普通に答えてくれるような気がする。


だが、マコトにはどう聞く?

俺がマコトを問い詰めれば問い詰めるほど、マコトは俺を転生者だと疑い始めるはずだ。


そしたら俺たちの関係は完全に壊れるような気がする。

せっかく命をかけてこんな遠い地まで来て、どちらかが脱落するのを罪を犯すのを願いながら過ごすのか?


それはとても嫌なことだ。

だが、このままマコトを一方的に疑い続けるのももっと嫌だ。


ああ、どうしたらいい?

せっかく手に入れたはずの安心が、すでに形をなしていない。


俺は正直、神のゲームなんかに勝ちたいとは思っていない。

元々勝負事から逃げてきた負け犬だ。

その考えはまだ変わってはいない。


ただ、このゲームは自ら勝ちに進むためには誓いを守り続けなければならない。


そうすると、自ら動くよりも、誰かをけしかけ、相手が脱落するのを待つのが得なルールになる。


親を悲しませないために、俺自身死にたくはない。

だから俺がマコト勝たせるためには、誰かを手にかけるしかない。


来世、地獄に落ちるという脅しよりも、人を殺す方がよっぽど地獄。


なんてルールを作るんだあの女神は。

完全に転生者たちを、ゲームの駒として使い遊んでいる気がする。

いや、違う。

どの転生者たちが我慢強いか、遊んでいるんだ。


まるでルールという首輪をつけて。

誓いを守る、忠実な犬のようにして。


マコトに問うべきか、家で頭を抱えている最中、カーネが思い出したように俺のある話をし出した。


カーネ「そういえば、もうすぐ夏ね。シアンもそろそろ誕生日じゃない?もう七歳だっけ?早いわね〜」


そうか。もうそんな時期か。

プリムスの村にいる頃は、夏になると祝ってくれて嬉しかったが、村が襲われた後のここ二年くらいは全然頭になかった。


カーネ「シアンだけだもんね。夏生まれ。シュウくんもマコトちゃんも冬生まれの子だし」

シアン「そうだな」


そういえば、俺だけ少し早く生まれたんだった。

そんなことも忘れ…あれ?

そういえば…


()()()()()()()()()()


頭の中に、女神との会話がまた再生される。

もう七年も前のことなのに、昨日のことのように、正確に。


俺はあの女神に、確かにそう言われた。

他に転生者がいる中、『最後』、だと。


リオンのような転移者という例外もある。

だが、マコトは俺よりも後に生まれてる。

つまり転移者でもないし、女神が選んだ転生者でもないはずだ。


そうするとマコトの能力の説明はどうなる?

あの確信と行動に説明がつかなくなる。

マコトへの疑念がより一層深くなるのに、時間だけが過ぎていく。


結局俺はマコトに聞けないまま、数週間の時が経ってしまった。


そして、その間にまた新たなマコトに対する疑問。

それはソラの成長が進むほど顕現化していった。


ソラの語彙力の高さはすごい。

カーネが毎日喋りかけているからもあるだろうが、まだ三〜四歳児くらいなのにかなり喋ることができる。


それに対して、マコトは逆。

体は成長しているのに、語彙力が増えない。

同い年の俺やシュウと見比べるとかなりの差がある。


もし、俺と同じ転生者だとしたら、それはおかしい。

女神に選ばれ魂ならば、前世の知識や知識があるはず。

それならマコトの場合、五〜六歳くらいの魂が選ばれたということになる。


複雑な制約を設けている誓断輪廻という首輪をつけるのに、そんな幼い魂を選ぶとは到底思えない。


ああ、線と線が繋がらない、なんてものではなくなってきた。

線と線がより一層複雑に絡み合い、出口の見えない思考の迷路のようになっていく。


マコト。君は何者なの?

俺はその言葉を言えないまま、さらに長いこと過ごすことになる。

本日は二話連続投稿になります。

47話「開拓と女神のおもちゃ」の投稿は21時予定です。

ぜひ続けてお楽しみください。

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