命の借りと弟分契約
誓断輪廻 転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』
カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称
足先から全身に這い回る白い閃光。
血管が流れる全ての箇所に痛みという信号を与え、筋肉の機能を一時的に硬直させる。
漫画やアニメのように、全身をビリビリと痺れさせ、黒焦げにするなんてコミカルなものではない。
心臓すら動くのを止めたのかと思うほど、全身が硬直し力が伝わらなくなった。
しかもちょうど顔から倒れるところから深くなり、そのまま顔から水の中にダイブ。
全身が硬直しているため、水に浮かぼうとせず、そのまま沈んでいく。
全身に電気が流れる『痛み』は覚悟していたが、硬直して溺れるのは想定していない。
シアン「グボボボボ…」
まずい。
このままだと溺れ死ぬかもしれないと直感した瞬間、ザバンっと誰かが水の中に飛び込む音が聞こえた。
「おい!ジジイ!見ろ!魚!いっぱい浮いてるから大漁だ!」
「バカもーん!まずはシアンを引き上げんかー!!」
水の中からでもはっきり聞こえた、間抜けなやりとりを片耳に、俺の意識はそこで途絶えた。
「…きて!おき…!おにいちゃん!おきろ!」
シアン「ブハッ!」
誰かが俺を呼ぶ声と共に襲う腹部への衝撃。
口から飲み込んでいた水が逆流し口と鼻から流れ出る。
シアン「ガハッゲホッゴホッ!ゼーハー…ゼーハー…し、死ぬかと思った」
一度死んだ経験があるからわかる。
また死ぬ前の真っ暗闇に飲み込まれるような感覚を味わてしまった。
倒れた姿勢から起きあがろうとしたが体が重い。
それもそのはず、俺のお腹の上には小さな白い怪獣が乗っていたのだから。
ソラ「おにいちゃんさぁ…わたしとおかあさんに『むちゃしない』ってやくそくしたよね?」
シアン「しました…」
ソラ「じゃあこれはなに?」
ヤンキーがメンチ切るような眼光で俺の上から見下し睨みつける妹。
怒られる覚悟は当たったが、可愛い妹にここまで怖い顔をされるとは思わなかった。
というか君まだ人間でいうところの三歳程度だよね?
カニスも犬と同様に、幼少期の成長が爆発的に早く、言語能力で言えば六歳程度はあると思うけど…
それにしてもその長年、喧嘩に明け暮れたような眼光はなんなの?
お兄ちゃんはそんな子に育てたつもりはないの…いや、俺が約束守らないせいか…?
とにかく悲しいです。
ソラ「なにかもんくあるの?」
シアン「ゲホっ…ありましぇん」
まだ小さいのにもう怖い…
それよりもなんでここにいるんだろう?
きちゃダメって言わなかったっけ?
あれ?そういえば…
シアン「ゴホゴホっ…それよりもネズミ!ネズミはどうなったの?」
ドルゴ「お前が気絶してる間に全てこの坑道から出て行きよったわ」
出て行きよった?全て…!?
シアン「それってどういうことですか?」
ララ「なんかね?シアンと一緒にネズミたちもバチバチ!って動けなくなったんだけどね。ネズミたちは溺れずにしばらくしたら動けるようになって…ゆっくりだけどみんなまとまって外に出ていっちゃった」
なんだそれ?どういうことだ?
電気ショックにより一時的に動きを止め、その後の運動能力を低下させるつもりあの技。
確か【紫電雷拘】って名前をつけたっけ?
を放ったけど、まさか退散するほど効果があったのだろうか?
というか…気絶している間にネズミの方が早く動いたということは、溺れてる間に齧り殺されていた可能性もあったのか。
自分で考えた作戦ながら隙だらけすぎる…。
あの魔熊の時からなにも成長してないじゃないか。
アンナ「上からネズミが出ていくのを見かけたから、もう安心なのかなって思って下降りたらシアンが死にかけてるんだもん。びっくりしたよ」
ソラ「かえったらおかあさんとせっきょう」
うおっ!アンナいたのか…背後にいたから気づかなかった。
シアン「そう言えばマコトやグレーターさんたちは?あっちは大丈夫なの?」
「大丈夫じゃねえ…」
暗い坑道の奥からグレーターさんと抱えられたマコトの姿。
アンナ「えっちょっとマコト!?大丈夫!?」
アンナが急いで駆け寄るがマコトの反応はない。
グレーター「マコトは大丈夫。寝てるだけで傷ひとつねえよ…」
「「「「「「ふう…」」」」」」
グレーターさんの言葉に全員から安慮の声が出る。
マコトに怪我がないのには安心した、だがグレーターさんもかなりボロボロだ。
シアン「グレーターさんは大丈夫なんですか!?」
グレーター「俺もほとんど怪我してねえよ。これはほとんど返り血だし」
返り血?てことはやっぱりそっちにもネズミがたくさん現れたのか?
グレーター「あ〜もう最悪だったわ。すげえ気分わりい思いしたい。今までの人生で一番嫌な日だった」
ああ、本当に申し訳ない気持ちが溢れてくる。
その姿から察するに、マコトを助けるためにたくさんのネズミを追い払ってくれていたのだろう。
頼んだのは俺。
巻き込んだのも俺。
もうこの人に頭があがらない。
グレーター「最悪だったからシアン。お前は一生俺の弟分な?」
背中を向けながらボソっとグレーターさんが言う。
厳しそうなセリフの裏を読むまでもない。
背にある尻尾が優しく横に触れているのを見て。
『ああ、本当にカニスの仲間たちって手先だけじゃなく、立ち振る舞いも不器用なんだな』
って少しおかしくなってしまった。
ルカ「にしてもお前臭えな!グレーター臭え!」
グレーター「はあ!?仕方ねえだろ!めちゃくちゃ臭えところはしりまわったんだからよ!」
確かにすごい匂いだ。
騒がしく、楽しげな雰囲気とは全く違う、いろんな匂いが混ざった不気味な匂い。
この二人が一体どんな場所を走りぬけてきたのか、後で確認しなければならない。
アンナ「ねえ?シアン…マコト寝てるけど…あの子のこと水で洗ってあげてもいい?当然溺れないように気をつけながら…至る所に血がついているの、不気味だし可哀想だから…」
シアン「そうだね…まず血を洗い流して…大丈夫?一人でできる?」
力なく寝ているマコトを、一人で溺れぬよう気を遣いながら洗うのは困難だろう。
だが俺は男。
寝ている女の子の体を触ることなんてできない。
ヘイミッシュ「では、わたすばあ!ラスティ「ではわたくしがお手伝いしますわ」」
手伝いを名乗り出てくれたのは、マコトたちと一緒に穴を掘ってくれたラスティさん。
なんか一瞬、白い髪の紳士がカットインした気がするけどどこかに吹っ飛んでいき、姿を消した。
アンナ「いいんですか?」
ラスティ「はい。わたくし、穴を掘るまでは良かったですが、穴を掘り終わった後、恥ずかしながらわたくし、あの地獄のような雰囲気に当てられてしまい、穴の入り口でただ、年下のマコトさんとグレーターが勇敢に活躍しているところ見ているだけで、何もできませんでした。本当にお恥ずかしい」
地獄のような雰囲気…?
やはりマコトとグレーターさんの体に大量についている血は、誰も知らない場所があり、そこで浴びた血なのか?
その話は詳しく聞きたいし、体が自由に動くようになり次第、確認しに行きたい…
だけどまずはマコトとグレーターさんの洗浄か。
異臭を放ったまま話をさせるのは可哀想だ。
ドルゴ「風呂入れるなら風呂釜があるから、それにここの水汲んでこれ入れるといいぞ」
ドルゴさんの手には赤い小さな鉱石、確か名前がイグナリス鉱といったけ?が乗っている。
ドルゴ「この小ささならちょうどいい湯加減になるはずじゃし、熱くなったら取り出せばいいから楽じゃ」
熱を宿すその鉱石をうまく使えば、天然のボイラーになる。
ラスティ「あと石鹸持ってきますね。血をお湯で洗い流すだけじゃ匂いが取れませんし!」
アンナ「え!?石鹸あるんですか!!」
なんかマコトを洗ってあげるアンナが一番喜んでいる気がする。
女の子だから石鹸があるのが嬉しいのか。そりゃそうか。
ララ「あたしも洗うの手伝う〜!」
マコトを抱き抱え、女子たち三人は奥の坑道へと消えていった。
残ったのは男子チームとソラのみ。
グレーター「というかお前はさっきから上半身だけ起こしてるけど動けねえのか?」
シアン「はい…」
そう。まだ動けない。
ソラに叩き起こされた上半身は持ち上がったが、電気をモロにくらった足がまだ動かず、ピクピクと痙攣している。
その経緯を説明したら。
グレーター「ばか」ドルゴ「あほ」ジャック「どうかしてる」ドゥーガル「無謀」
いつの間にか加わったジャックさんとドゥーガルさんにもクソミソに言われた。
ルカは魚持ってどっかいった。
ソラ「ばかおにいちゃんにもっといって」
ヘイミッシュ「シアンくんはもしかして、痛いのが好きな変態なんでしょうか?」
グレーター「お前と一緒にすんなよ!この村一番の変態がよぉ!」
シアン「まだ妹小さいんですからそういった発言は控えてください!」
咄嗟に突っ込んだら誰かが「ふふっ」っと笑った。
そしたらおかしくなってきて、みんなして笑った。
ようやく、ようやくだ。
ようやく定住できる地に辿り着き、そしてここでの問題も解決した。
と思ったら一気に疲れが出て起きていた上半身をまた寝かせ、天井に埋まっている青く輝く鉱石を見上げる。
まだ安心できたわけじゃない。外の戦火がここまで広がる可能性は十分にある。
それがいつなのかわからないし、すぐそばなんじゃないかと恐ろしいけど。
でもしばらくは、毎晩何か考えさせられながら寝なくて済む。
問題は後で考えよう。
今日はもう疲れたからもう一度、坑道に浮かぶ夜空を眺めながら目を瞑り眠りにつく。
「寝た?」「ねちゃった」
「俺も風呂入りてえわ」「洗ってあげましょうか?」
「やめろ!変態!」「こら!ソラの前で汚い言葉を使うのはやめんか!」
「へんたいおじさん」
「「「「ははは」」」」
お願いだからずっと、ずっとこの平和が続いてほしい。




