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窮犬、牙を向く

ミシミシ――入り口を塞ぐ岩が悲鳴を上げる。

ルカとララにはすでに走り出してもらった。

俺は引きつけ役。

この岩が砕けるまでは動けない。まとめて相手しなきゃ意味がない。


体が少し強張る。

前回もそうだった、俺は逃げることでしか物事を解決できないのかもしれない。


女神の言葉が頭をよぎる。

『逃げるのは得意でしょ?』


性格だけじゃない、俺の生き方そのものが逃げ腰だ。

情けない。

異世界チートでもあれば…こんなことしなくて済むのに、と悔しく思う。

でもないものはない。今ある手でどうにかするしかない。


バキッ、バキッ――岩に亀裂が入るたび、空気が震えた。

ネズミの頭がひょこっと出る。

反動で岩は崩れ、先に出た一匹は押し潰された。

仲間の死など意に介さず、ネズミの波は俺を標的にする。


これが鬼ごっこ再開の合図だ。

次のインターバルはない。

ここで決める、この村で安全に暮らすために。

そのための全力疾走。


マコトの“アレ”がわからない以上、他の作戦も考える必要がある。

雷礫での坑道封鎖も手ではあるが、今の異常事態では中途半端な崩落じゃ止められない。

大規模にすれば坑道そのものが崩れる——だからそれもダメだ。

足止めなら、まだ方法はある。


不安がよぎる。

本当に大丈夫なのか?

いや、大丈夫。

三人に話したとき、“できる”という確信があった。


前の世界で一度死に、魔熊に襲われてまた死にかけた経験がある。

だからか、自分の生き死にのラインがわかっている気がする。


ララたちの足跡を追って俺も駆ける。

八つの真新しい足跡があるおかげで迷わない。


後ろを横目で確認する。

ネズミたちは相変わらず波のように群れ、俺を追ってくる。


簡単な防波堤じゃ止められない。

なら、もっと物理的に止めるしかない。

…成功すれば俺も止まってしまうだろうが。


「ごめ〜んシアン」


前方からララたちが戻ってくる…?

何かあったのか? 作戦を大きく変える必要があるかもしれない。


ララ「道間違えた〜!ごめ〜ん!」

シアン「はあ!?」


笑顔で“やっちゃった〜”って顔のララは右の抜け道を再選択し走り去る。

こ、この緊急事態にこの能天気さ…!

ルカもドルゴさんを背負いながら楽しそうに走る。


ルカ「ゲハハハハハ!ジジイ落ちんなよ〜死ぬぞ〜!」


ドルゴさんは真っ青で絶望的な表情だ。

シアン「ドルゴさん、大丈夫ですか!?」

ドルゴ「ダメ…こんな恐ろしい思いしたの…初めて…」


すまない、でもやるしかない。


シアン「この件が解決したら、なんでも言うこと聞きます!」

ドルゴ「…あぁ、終わったらこいつら運搬役として…」


俺の言葉など耳に入らず、ドルゴさんは独り言。

この作戦には彼の協力が不可欠だ。


シアン「ドルゴさん!!もうすぐ着きます!お願いします!!」

ドルゴ「ああ、わかった!声がでかい!!本気でやるんじゃな、シアン!!」


本気も本気、大本気。


ララ「もう着くよ〜!」


狭い坑道の先に、少し開けた場所が見える。

青と水色に輝く地底湖——アクエリ鉱が天井から光を落とす。


ララとルカはU字に分かれ消える。

俺も続いて浅瀬を駆け抜ける。

水が跳ね、足が沈む。

ネズミたちも泳ぎながら追ってくる。


「ドルゴさん!お願いします!」

「任せろ!絶対死ぬなよ!」


ドルゴさんは天井のアクエリ鉱に向け、スリングショットを構え一粒の鉱石——ヴォルタリン鉱を放つ。


キンッ——鉱石がぶつかる音と同時に青白い光が走る。

水面を裂き、電流が全身を貫く。

抵抗力のない生物は全身硬直。俺も――硬直した。


抵抗力を持たない生物なら無条件で筋肉ごと硬直させ足止めできる。

いわば電気による拘束魔法だ。


名前をつけるなら…そうだな……【紫電雷拘】か。

そんなことを俺は全身硬直させながら考えていた。


シアン「アガガガがガガガが」

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