アレ
誓断輪廻 転生した異世界で課せられた転生者たちのルール『人殺し、死、自殺』
カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称
マコトが何を感じて穴を掘りたいのか分からないが、この状況であそこまで掘りたいと懇願してくるのには何か絶対理由があるはず。
詳しい話は全て解決してから聞くとして、俺は俺でやることをやらなきゃいけない。
だが俺だけはただ逃げ回るだけになってしまう。
せめて少しでも動きを止めたいから、今いるこの三人に頼むしかない。
シアン「ルカ、もう一度聞くけど今からドルゴさんを背負ったまま俺と一緒に走れる?」
ルカ「ん〜?」
ルカは答えるより前にドルゴさんの後ろに回り
ルカ「よっと」
ドルゴさんの股下から頭を出し、言わば肩車のような状態になった。
ドルゴ「ひゃあ〜!?やめんかい!!」
ララ「ひゃあ〜だってウケる」
突然のことにドルゴさんも思わず変な声が出てしまったのだろう。
多分俺も同じことやられたら同じような声が出そうだ。
ルカ「楽勝だわ」
ルカから俺の予想通りの回答が返ってくる。
なぜ他所通りかというとルカはシベリアンハスキーのカニス。
犬ぞりを行い、重い荷物や人を乗せ寒い大地を駆け抜けていた犬種で有名だ。
犬の姿であればたくさんの仲間たちとソリを引かなければならないが、今の姿は獣人。
人間よりも筋力と体力があるカニスの体格なら、人を背中に乗せても走行することは可能だと思った。
ならルカにはドルゴさんを担いで走ってもらうことを任せる。
ララ「シアン〜あたしは〜?」
シアン「ララは…普段ロドルフォさんから隠れてるとき、この坑道で走り回って遊んでたんだよね? ということはここの坑道の構造もわかるよね?」
ララ「完璧じゃないけどわかるよ〜」
完璧じゃないのは少し不安が残る。
だけど俺よりは知っているだろうし、それにドルゴさんを背中に乗せて走らせるのも…なんかおかしいから道案内を任せるしかない。
シアン「なら俺たちの前を先行して走ってくれる? できるだけ人気がない道を選んで」
ララ「OK〜」
ララは笑顔で親指を立てて答える。
あとはもう一人の説得。
この人が納得してくれるといいんだけど…。
ドルゴ「んで?そのあとは?儂に何させるつもりじゃ?」
シアン「まず確認したいことがあります。今ヴォルタリン鉱は持ってますか?」
ドルゴ「ああ、雷礫の爆破で一網打尽にするつもりだったから持っとるわい」
そうだよな。そうじゃなきゃ困る。
シアン「今持ってるもののサイズ見せてもらえますか?」
ドルゴ「ん?ああ、ほれ」
この魔法属性の宿った鉱石の威力は大きさで決まる。
だからサイズ選びは慎重にしなければならない。
シアン「これからやることを説明します」
どうなるかはわからない。でも大丈夫な予感はする。
さっきと大穴を飛び降りてきたのと同じ。なんとなくだが大丈夫だと確信がある。
ドルゴ「…お前、頭おかしんじゃないか?」
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シアンが作戦説明している頃。
マコトたちは以前掘った穴をまた掘り起こしていた。
一度掘った場所を掘り起こすのは簡単で、前回掘った場所まで辿り着くのに時間はかからなかった。
ラスティ「この先に何があるんでしょうか? マコトちゃんは何か知ってそうな雰囲気ですけど、全く説明してくれることなく一心不乱に掘り続けてますが…」
全員で一緒に掘っても邪魔なだけなため、ラスティとグレーターは掘って出た土がその場にたまらないように、土を均しながら考えていた。
グレーター「俺だってわかんねえよ」
シアンとマコトの会話は対して長くなかった。
それなのにシアンはマコトのしたいことを肯定し任せた。
本来ならもっと疑ってもいいはずなのに、あっさりと。
それがグレーターにとって少し羨ましかった。
グレーター(こんな一大事の時に簡単に任せるか? というか本当に何があるんだよ?)
穴を掘る組もマコトにこの先に何があるのかまだ聞いていない。
ドゥーガルは無言で一生懸命掘り、ヘイミッシュは嬉しそうに顔を泥だらけにしている。
だがジャックだけはだんだんとこの先にあるものに不安を感じるようになった。
最初は自分もここを掘ることを推奨していた。
だがだんだんと掘り進んでいくにつれ、首元に嫌な寒気を感じるような。
そんな気がしてきた。
ジャック(なんだか不安になってきた。この先に何がある? 何を感じてこのシバの子はここを掘ろうとしている? ああ、くそ…この感じ。不安と同時に興奮する何かが襲ってくるこの感じは…以前何かで感じたことがある。 いつだったか…そんな遠くない日に…あれは…?)
ジャック「そうだ。あの男がここにきた日に感じた嫌な感じだ」
ジャックは思い出し、掘る手を止めて立ち尽くした。
ヘイミッシュ「どうしました? アイビィー?」
ジャック「なあ? ヘイミッシュ? この先に感じる嫌な感じ。あの男がここにきた時に感じたあの感覚と似てないか?」
ヘイミッシュ「あの男?」
ヘイミッシュは気づかない。だけど察しのいいドゥーガルはその男が誰なのかすぐに気づく。
ドゥーガル「リオン…?」
その名前を聞いてヘイミッシュも違和感にようやく気づく。
この毛が逆立つような、ムカムカするような…それでいて不安になる気持ち悪い感じ。
ヘイミッシュ「あのリオンという男がこの先にいるってことですか?」
「違う」
ようやくマコトが口を聞いたと思ったが手は止めず、掘り続けている。
マコトは小さな手を泥だらけにしながら、四つん這いで地面に爪を立て、泥を掻き出す。
息は荒く、耳は少しピクピク動き、尻尾も小刻みに揺れる。
マコト「あいつはいない。でもアレがある」
さっきからずっと言い続けている、アレ。
それがなんなのか肝心なところをマコトは答えない。
だが、決して答えたくないわけではないし勿体ぶっているわけでもない。
ただそれがなんなのかマコトの中でも言語化できていない。
マコト「いいから掘って! その後はボクが…」
マコトが一瞬振り向き、掘るように促そうとした時。
小さな影がテリアたちが立っている隙間をすり抜け飛びかかる。
グレーター「うお、シアンの方だけじゃなくてこっちにも! 来やがんのかよ!!」
誰も反応できなかずマコトに飛びかかった影をまたグレーターだけが反応し、首元を掴みシェイクし、叩きつける。
マコト「ああ、もういいから手伝って! こいつらがおかしいのも全部アレのせいだから!」
マコトはまた掘るのを再開し、一心不乱に掘り進める。
ジャック「アレがなんなのかわからないが、どうやらネズミがおかしくなった理由がこの先にあるみたいだ。 ならやるしかないか…」
ジャックは乗り気ではなかった。
なぜならこの先に進んだら自分もあのネズミたちのように暴れてしまうような気がしたから。
だが、このまま何もしないわけにもいかない。
もうネズミたちは暴れ回り、シアンたちに襲いかかっている最中。
この先に見たくないものがあったとしても、進むしかない。
掘って掘って、掘り進めること二十分。
ようやくマコトが辿り着きたい場所まで掘り進めることができ、開けた場所まで出ることができた。
が、そこに広がっていた景色は嫌な予感なんて生やさしいものではなかった。
自然発光する鉱石が、足元を照らしている。
そこに広がっていたのは大量のネズミの死骸。
右も、左も、正面も、あたり一面、死骸の山。
ここで何が起こったのか、想像することしかできない。
だがその死骸が物語っているものがある。
生まれたてで毛も生えそろっていない子ネズミの死骸と、その近くで倒れている母ネズミのような死骸。
子ネズミは頭がなく、母ネズミは腹を噛みちぎられたようなあとがある。
ジャックは恐る恐る死骸の状態を確認した。
ジャック「これってもしや…」
よく観察することで予測は確信に変わる。
ジャック「あのネズミたち…産まれた子供も、産んだ母親も、共食いしてたのか…?」
マコトが辿り着きたかった場所。
そこはドワーフの住むエルデの村に隠れていた地獄。
不覚にも風邪をひいてしまいました。
本当は毎週数話、前半の話の微調整をしたのですが今週はそれが叶いませんでした。
体調が戻り次第、修正の方も手がけていきます。
まずは話を進めることを優先!




