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掘る

誓断輪廻せいだんりんね 転生した異世界で課せられた転生者たちのルール『人殺し、死、自殺』


カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称

崖を降り、そしてまた崖へ――

下へ、確実に下へ――!!

一度でも距離を誤れば終わり。

冷静に、確実に――落ちるんじゃない、降りるイメージを持て!!


グレーター「んぎゃあああああああああああ! 怖いぃぃぃぃぃぃ!!」


俗にいうお姫様抱っこでグレーターさんを抱き上げているが、彼はずっと絶叫している。

だけどそんなの今は気にしない。ここで気遣って油断したら逆に死に近づく。


大丈夫、このままいけば死なない。何故だかわからないけど、死なない確信がある。


数段の跳躍を終え、坑道への通り穴が見えてきた。

一瞬だけ後ろを振り向く。奴らは本当に俺だけを狙っているのか? もし予測を間違えれば、この決死の跳躍も全て台無しになる。


だが杞憂だった。黒い波は確実に俺を目掛け、崖を伝って降りてきている。


シアン「その降り方は正直ズルいだろ…!」


体が軽いからって壁を走りながら降りられるなんて、羨ましい。こっちは死ぬ気で飛び降りてるのに!


最後の一段を終え、そのまま穴にスライディング。坑道への通り穴は傾斜になっている。滑り台のように滑り降り、無事に下の坑道まで辿り着けた。


が、肝心なことを忘れていた。


ドルゴ「閉めろ!!!」


ドルゴさんと他のドワーフたちが、通り穴の入り口を大きな岩で塞ぐ。


シアン「痛っっっ!!!」

ドルゴ「どうした!? どっか噛まれたか!?」

シアン「尻尾が痛っ!!」


滑り降りるとき、自分が犬の獣人だということを忘れて、尻尾を巻き込みながら降りてしまった。

正直ちぎれたかと思ったが、分厚い毛に覆われているおかげで流血はしていない。


グレーター「…ドルゴ…グスッ…俺のキンタマ、ついてる? なくなってない?」


あ、ヤバい…。連続で高所からダイブしたせいで、グレーターさんのあそこがタマヒュンしすぎて無くなったと錯覚しているみたい。

正直、俺も似たような感覚を何度か味わったが、俺は自分の意思で降りた分まだマシ。抱えられて何度も飛び下ろされたグレーターさんは覚悟する時間がなかったせいかもしれない。


ドルゴ「ふん!」

グレーター「ぎゃっ!?」

ドルゴ「大丈夫じゃ、大したもんじゃないがちゃんとついとるわ」

グレーター「『大したもんじゃない』とか言うなあ!!」


対応が荒いなぁ……まあ、今はふざけている場合じゃないから、そのくらい荒い方がいいのかもしれない。


グレーター「シアンのアホアホアホアホ!! いくら何でも無茶しすぎだ!! 何度も死ぬかと思ったぞ!」

シアン「ごめんなさい。でも死ななかったので今は許してください。お説教は後でちゃんと聞きますし、地面が削れるくらい頭を下げます」


塞いだ岩の向こうで、ズズズとまた流れが溜まる音と、ギギギギギという――鳴き声なのか、岩を削る音なのか判断できない嫌な音が鳴り響く。

この程度の岩の防壁じゃ長くは保たない。


次の手をすぐに考えなきゃ…。


シアン「ドルゴさん、考えがあるって言ってましたよね!? どんな作戦ですか!?」


俺たちを危険な真似をしてまで連れ戻したのだから、何か妙案があるはずだ。


ドルゴ「ここで一番でかいデトナイト鉱が埋まっている場所まで誘導して、爆破する」


それって――。


シアン「被害が大きすぎませんか? ここの岩盤が保ちますか? 本当にそれしかないんですか?」


思わず捲し立てるように問い詰めてしまった。


シアン「ご、ごめんなさい…出しゃばりました」

ドルゴ「いい。じゃが、これしか方法が思い付かん。まさかあんなに多くのネズミが一斉に出てくるとも思わんかった。それに、岩盤を砕いて出てくるあの凶暴性。今まで見てきたネズミとは全く違う。あれを放置しておいたら、この村のドワーフもテリアも全員噛み殺される気がする。今は危険を冒してでも、ここで止めるしかない」


確かに、ただ逃げているだけでは済まない。だが、うまくいく保証はないし、坑道が崩壊する恐れもある。

今ドルゴさんがやろうとしていることは、ヤケクソに近い――そう感じる。


何か別の方法があるはずだ。考えろ、考えろ、俺……。


「シアン!」「シア〜ン!」

必死に考えている最中、横から聞き慣れた声がする。


シアン「何で下にいるの…? マコト…とルカとララ?」


今朝、朝食後すぐに下に降りたはずだ。

今、マコトたちがここにいるということは、俺がネズミに追われるより前から坑道に降りていた――ということになる。


なぜこんな朝早くからマコトたちはここに来ているんだ? 毎日下に降りてきたがる理由があるのか?


マコト「シアン! この間の場所! やっぱり掘りたい!」


今はそれどころじゃない。だが、耳を傾けざるを得ない気がした。


シアン「マコトはあそこを掘って何がしたいの?」

マコト「なんかある! あいつと同じ! あれがある!」


「あれ」って何だ? マコトは何を感じ取っているんだ? 問い詰めたいけど余裕がない。

それにマコトは語彙が少ない。問いただしても、俺が理解できる答えが返ってくるとは思えない。


ただ、マコトが一番「感」がいいことは知っている。もし今、彼の感が冴え渡っているのなら、信じるしかない。


シアン「わかった。ドルゴさん。デトナイト鉱を爆破するという件には反対します。今まで掘ってきたこの坑道が持つかもわかりませんし、被害が想定できない。それよりも、マコトがそこまで言うには必ず理由があるはずです。埋めてしまったあの場所、掘ってみてもいいですか?」


俺はドルゴさんの目をまっすぐ見て問いかける。


ドルゴ「そんなことしてる場合かぁ!? と言いたいところだが、そんなしゃべり方をしてる奴がこの場でふざけたことを言うとも思えん。わかった。爆破は一旦見送りだ。マコト一人にやらせるよりも、精鋭数人で一気に掘ろう。ジャック!ヘイミッシュ!ドゥーガル!ラスティ!お前らも手伝え!」


ジャック「わかった!」

ヘイミッシュ「え! 私たちも掘っていいんですか! やったー!」

ドゥーガル「…」

ラスティ「無事に終わったらみんなで水浴びしましょう。あ、男女別ですけどね」


水浴び……そういえばここには地底湖があるんだっけ……?


ドルゴ「じゃが、その間あのネズミたちをどうする? 一回掘って土が軟らかくなったといっても、掘るのには時間がかかるぞ」

シアン「あれは多分、俺を追ってくるはずです。だからその間、また走って引きつけます」


グレーター「おまっ!? そんなのいつまでも続けられねえだろ!?」


確かに、ずっと引きつけ続けるのは無理だ。だが、マコトたちが掘っている間、誰かが引きつけなければならないのも事実だ。


どうする? どうしたらいい? ああ、こんな時、相談できるマットがいれば……!


ララ「ねえ〜シアン〜? 何するの〜? あたしとルカは〜? 何かすることない〜?」

ルカ「ふああああ〜ん」


ララは俺の肩に頭をもたれかけ、ルカは大きなあくびをしながら顎をかく。

この二人がなぜ下にいるのか、本当に緊張感がない。


シアン「二人は何しにここに来たの?」

ララ「え〜? ロドおじがさ〜、いつも『お前らどうせやることねえんだから狩り手伝え』って言うんだけど、狩り楽しくないから嫌なんだもん〜」

ルカ「上に隠れてても匂いでバレるから、下に隠れるようにした。下を走るのも面白いし」


要するにサボりだ。ネズミが出る場所で遊んでいたのか。緊張感がなさすぎる……。


シアン「ララ」

ララ「なに〜?」

シアン「ここを走って遊んでたってことは、この地下道のルートが分かるってこと?」

ララ「わかるよ〜」


シアン「ルカ」

ルカ「あ?」

シアン「ドルゴさんを背負って走ることって可能?」

ルカ「できんじゃね? 小せえし」

ドルゴ「は? 何? 儂に何させるつもりだ?」


思いついた。これなら時間を稼げるし、ネズミの動きを多少止められるかもしれない。


シアン「グレーターさん、マコトのそばであの子を守ってもらえますか?」

グレーター「は!? お前に付くんじゃねえ! 俺もあっちに行くんだ!」


シアン「はい。多分、俺についてきたら――さっきよりもっと怖くて、痛い目を見るかもしれないから」

グレーター「お前…何をしようとしてんだよ…?」


今後の投稿時間の変更のお知らせ


日曜12時に投稿をしてましたが、今後の投稿は日曜19時に変更します。

引き続き本作品をよろしくお願いします!

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