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洞穴

「 きて…、 か さん 起きて、お母さん」

カーネ「…ん、んん〜…」


シアン「ごめんねお母さん、けどもう朝ごはんの時間だから起きてくれると嬉しい」

カーネ「ん…ん〜?あ、おはようシアン」

シアン「おはようお母さん」


カーネ「お父さんは…?」

シアン「他の大人の人たちと外の見回りに行ったよ」


あの最悪の日から数ヶ月が経った…

突然村を襲われた俺たちは命からがら逃げ出すことができたが、多くのものを失ってしまった。家、仲間、そして家族。

助かったのはごく一部のカニスのみ。

村で一緒に住んでいた人間たちが助かったのか今の俺たちにはもうわからない。


ただわかっているのは…あの夜襲ってきたものの目的は獣人《カニス》の捕獲と邪魔者の排除ということだけ。


あいつらは言っていた…

『繁殖に使えそうなやつだけ捕まえろ』

『雑種?毛色が汚えやつはいらねえ!殺せ!』

『その白い髪の女は繁殖に使える。殺さずに生け取りにしろ!』


奴らの狙いは転生者である俺ではなく、白く美しい髪を持つ母カーネの方だった。

奴らの目的がなぜカーネだったのか…奴らが言っていた言葉を思い返せば自ずと想像はつく。


繁殖の母体


俺らを人間と同等の存在ではなく、犬と同じレベルの家畜だとこの発言だけでわかる。


もしあの時に捕まっていたらカーネはどうなっていたのかを想像しただけで吐き気がする。


奴らは執拗にカーネを追いかけ回していたが、それでも俺たちが無事逃げ切れたのは全て《《じいちゃん》》の助けがあったから。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


グラン『カーネちゃん早く逃げろ!ここは俺が食い止めとくから!』

カーネ『でも!お義父さん!そんなことしたら!』

シアン『やだよ!じいちゃんも一緒に逃げようよ!』


『んだ!?このおいぼれが!てめえみてえな汚え年寄りには用がねえんだよ』


グラン『うるせえぼけなすども!年齢で言ったらてめえら人間と大差ねえわ!それ俺はまだまだ現役!シアン!安心しろ!じいちゃんってのは孫のためなら無敵になれるんだよ!』


グラン。


俺の祖父にあたり、俺の父の父であるカニス。

犬種は俺と同じく雑種、本人は『俺の種類はマタギだ』とよく言っていた。


『おらどけ雑種のじじい!殺すぞ!』

グラン『雑種、雑種うるせえんだよ!じゃあてめーら自分の血統を証明してみろってんだコラッ!!!!!』


グランじいちゃんは持っていた斧を振り回し、俺たちを追っていたものたちを食い止めてくれている。

だけどそれが一時的にしか効果がないことはわかっていた。


だって相手の数が違う。

いくらカニスが人間よりも力で優っていても、二十人近くを一人で相手にできるわけがない。


俺はこのままだとじいちゃんがどうなるのか、簡単に想像できた。

だから俺は年甲斐もなく、子供のように泣きじゃくった。


シアン『待ってお母さん!じいちゃんが!やだ!じいちゃんも一緒に早く逃げようよ!お母さん!おろして!このままだとじいちゃんが!!!』

カーネ『ごめんなさい…ごめんなさい…お義父さん…』


カーネは泣きじゃくる俺を抱きかかえ走り出す。


俺の体はまだ子供で、じいちゃんの加勢なんてできない。

それに狙いはカーネだ。俺がここで足を止めれば母親であるカーネはどうする?

俺を置いて一人逃げ出すか?そんなわけない。

俺を守るために自分もここに残るだろう。ならここで俺が無駄に時間を使えば

俺たちを逃すために時間を稼いでくれているじいちゃんの邪魔にしかならない。


この選択をしたらじいちゃんが死ぬ。だが、ここで足を止めれば…俺とじいちゃんは死にカーネは繁殖の母体として死ぬまで犯され、孕まされる。


俺は抵抗をやめ、カーネに身を預けた。

普段から俺は諦めが早い方だと思っていた。

だけど今日ほど、この諦めのよさを嫌った日はない。


どうしようもない負け犬だよ。大好きな人が死んでしまうかもしれないのに、指を咥えて見てるしかできないなんて…


ごめんなさい。じいちゃん…ごめんなさい…



シアン「はい。お母さんの分の食事ももらってきたから」

カーネ「ありがとう〜」


そして俺たちが村から逃げ出して辿り着いた先がこの大森林のどこにあるかもわからない洞穴。生活レベルは中世から一気に原始時代レベルに逆戻り。

あるのは草木で作った寝床だけ、他に家具なんて当然ない。


生活のレベルが一気に下がったが気にならない。

そんなことを気にしたら、身を盾にしてくれたじいちゃんに申し訳が立たないから…


ただ…一つだけ気にしていることがある。


カーネ「ごめんね。シアンに色々させちゃって」

シアン「ううん。お母さんはお腹に赤ちゃんいるんだから極力安静にしてて」


カーネは逃げ出したあの日、すでに妊娠していた。

ここよりもっと安住できそうな場所まで移動したかったがこの大森林はとても深く、

そして魔物がいる。


そんな危険な森をお腹が大きくなり始めた妊婦を連れて移動するのは危険すぎるということで、一度この洞穴を生活拠点にし、定住することを決めた。


自分一人だけならこの環境も気にならないが、こんな原始レベルの環境下でカーネは無事出産などできるのだろうか?それだけが心配だ。


だからカーネが自分でしたいこと以外は極力負担を減らすために俺が身の回りの世話を手伝っている。今の俺にはそんなことしかできないから…


俺の年齢はそろそろ五歳になろうというところ。人間でいえば十歳程度か?

俺はこの洞穴に来てから年相応の男の子の演技をするのはもうやめた。


平和な生活をしている時であれば、年相応の男の子を演じていた方が色々と疑われないし、転生者とバレる可能性が低いから演技を続けていたと思うが…

今はもうそんなことしていられる状況ではない。

例え両親に子供っぽくない変な子だと思われてしまっても、今は周りを助けることの方が大切だと思うから。


今はカーネの後ろに回り、綺麗な白い髪にできている寝癖を手櫛で治してあげている。


そうすると洞穴の入り口の方から


「おはようカーネ、シアン」


一人の男の人が帰ってきた。


シアン「おかえり、お父さん」カーネ「おかえり〜」


「ただいま。これから朝ごはん?」

カーネ「うん…あなたは?」

「俺はもう食べたから大丈夫だよ」


この男性の名前はマット。

黒髪で尻尾にだけ白が混ざっている雑種のカニス。

俺の父親であり、じいちゃんの息子。


マット「お母さんのお手伝いしてくれてありがとねシアン」

そういうと俺の頭を撫でてくれる。

正直いうと力加減が下手で、俺ぐらいの男の子でもこの力加減はちょっと痛いくらいだ。だけどそれがこの人らしいというか、不器用なこの人なりの愛情表現なんだなって思う。


シアン「ううん…これくらい大したことないよ?それよりもっと頼ってほしい」

マット「…もう十分頼ってるよ」


前の世界で人と関わってこなかったせいなのか…

こんな俺でも誰かの役に立てる。それがとても嬉しいから、この悪環境でもあまり苦にならないのかもしれない。


俺を見るマットの視線が、俺のさらに後方に動く。


マット「あ、《《君も》》も起きたんだね?」


話しかけたのは俺でもカーネでもない、あの夜に新しく増えた家族。


それはあの日の夜、じいちゃんと離れた後のこと…


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


俺を抱えカーネは走り続けた。


カーネが向かった先は、有事の時にみんなが集まるようにしていた大森林手前にある大広場。危険だと思った何組かの家族もすでにそこに集まっていた。


マット『カーネ!シアン!良かった!無事だった!』

カーネ『マット!よかった…私たちは無事…だけどお義父さんが…!』

マット『ッッッ!?』


カーネは詳細を話していない。

だけどマットはグランじいちゃんがどういう行動に出たのか、それだけで察していた。


『ちくしょう!誰だ!誰がこんなことしやがった!』

『俺の家族はどこだよ!?おい!どこだ!?いないのか!?』

『あいつら完全に俺たち男が狩りに出てる最中狙いやがった!』


そう。あいつらはカニスの男連中が、森に入り狩りに出てる最中を狙っていた。


『人間だ…やったのは人間だった…』『なんで人間が俺たちを襲うんだよ!?』

合流した男連中の大半は冷静さを欠き、混乱している。


『これからどうする!!』『そんなの決まってるだろ!村を救うために戻るんだよ』


マット『いや…だめだ…遠目で見てもわかる…襲ってきたやつの数が多すぎる…』

『ビビってんのか!?』『いや、マットの言う通りだ…戻るのは無理だって!』


『俺は戻るぞ…息子が…息子がいねえんだ…』『バカ待て早まるな!』


だめだ。冷静に止めようとしてるものもいるが、衝動的になりすでにもう村の方に駆けてしまったものがいる。混乱が混乱を呼び、状況を制御できていない。

燃えている村の方からは多数の人影が俺の目にも確認できる。

これからどうすればいい…じいちゃんを残して逃げてしまった罪悪感で俺も頭がうまく動かない…


マット『森に逃げよう…』


『おまっ!?正気か!』『今度は森の魔獣に襲われるだけだぞ!』

『自殺行為だ!』

その提案に周りの仲間たちは否定的だ。

それは森に入ることの危険性をみんながよく知っているから。


だけど、この時…マットの言葉に一番最初に賛成した人物のことを俺は多分一生忘れないと思う。


『虎穴入らずんば虎子を得ずってやつですかね?いや〜この状況でもかなり冷静な判断できるんやな〜お兄さん』


今まで聞いたことのない声、しかも口調は関西弁。

みんながその声の人物に視線を向けると…


『ん?意味おうとるかこれ?ちょっとちゃうな…というかこの人ら虎じゃなくて犬やん!犬相手に虎っておかしいな!あはは!』


巨大な馬に乗り、浮世離れした黒髪の男が森の方から姿を現した。

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