原因
誓断輪廻 転生した異世界で課せられた転生者たちのルール『人殺し、死、自殺』
カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称
この地に到着してから新しく知ることが多かったのでリオンがこの地で何をしていたのか聞いていなかったな…
普通の行商人であれば気にはならないが、あの人は俺と同じ世界から来た人間。
ここに来た理由は衣服の仕入れと本人が言っていたからわかるが、本当にそれだけなのだろうか?
正直リオンが何をしようとしているのか俺には分からない。
以前会った時に言っていた、衣服屋を本気でやるつもりなのだろうか?
その場合、リオンは女神から言われているサバイバルゲームをどうするつもりなんだろうか?
リオンだけ例外…なんてパターンもあるのだろうか?
転生、転移者について知らないことが多すぎる。
ここにいる人たちに転生、転移者について聞くことはできない。
だからリオンがここで何をして、どういう風に思われていたかを知り、リオンの目的を探ることにする。
シアン「そのクソボケと言われてる人は…もしかしてリオンという人間…ですか?」
ドルゴ「!?なんじゃシアン。あいつのこと知ってるんか…!?」
俺はリオンとの出会いから再会までの話をドルゴさんに簡単に説明した。
ドルゴ「あのクソボケ、ある日急にいなくなったと思ったらそっちの方に行っとたんか…!」
先ほどヘイミッシュさんたちにしていたお説教の時にも見せたことのない青筋を額に浮かべ怒っている。
このリアクションから考えなくてもわかる。あの人はここで何か問題を起こし、森の中に逃げたのだろう…
リオンにはこれまで二回も助けてもらったこともあるので、彼は無害な人なんじゃないかと心のどこかで期待していたが、やはり俺の考えは甘いのかもしれない。
ただ…クソボケとドルゴさんは言ってるだけで、リオンがここでやったことの全容が見えない。
何したんだ?あの人は…
シアン「リオンはここで何をしたんですか?」
ドルゴ「あ?…あいつここで何やったのかお前らに言ってないのか…そりゃそうか。シアンは大人びとるがまだ子供じゃもんな…。軽率なあいつじゃが流石に子供相手にそんな話はせんか…」
子供には言えない話。残虐非道な行いか?
リオンが弓矢で人を射抜くところは目の前で見た。
だからここでも同じようなことをし、トラブルに発展した可能性は十二分にあり得る。
シアン「俺は子供ですけど、あの人とは少なからず関わりを持ちました。だから教えてくれませんか?あの人はここでどんな酷いことをしたんですか…?」
ドルゴ「マットよぉ…子供には少し刺激の強い話じゃが、話てもいいんか?」
マット「…?大丈夫。うちのシアンはしっかりしてるんで!」
親からの了承も出た。
刺激が強い話らしいが多少のことなら驚かない…
ドルゴ「うちの娘の処女を奪って、ヤリ逃げしよったんじゃよあのクソボケは」
……?
ショジョ?いや…書状?
………今なんて言ったの?
シアン「ごめんなさい。なんて言いました?」
ドルゴ「うちの娘を抱いて逃げやがったって言ったんじゃ」
それは抱擁を意味する抱く…じゃない…よね?
え?つまりはあの男はドルゴさんの娘さんとエッチしてそのまま…消えたってこと?
ドルゴ「ドワーフという種族に女が生まれることは稀じゃ。だからうちの娘は宝石のように大切に育ててきた。いずれいい男と結婚するまでは軽率な真似はするなよと教えて来たというのに!!
それをあのクソボケが!!ここにきてすぐに娘目掛けて話かけるなら儂等も警戒して近づけんかったのを!一週間は距離を置き、儂等の話を聞いたり、等価交換したり、依頼を請け負ったりと。近寄るそぶりを見せんかったからドワーフの女なんて興味ないんじゃなと思っとたら!!
いなくなる前日の夜!
『ドワーフの女の子ってちょっと興味あんねん。お酒たくさんあげたんやし、ちょっと娘さんと飲ませてや〜』ってこっちが気分よく飲んでた隙に、娘と二人きり!流れるように人気のないところへしけ込みやがったんじゃ!」
こ、子供にしちゃいけない話ってそっちか…!!
精神年齢的にそういう話を聞いても問題ない年だけど、俺にそういった経験はない。
だから……困る!!
ドルゴ「そしてあいつが去った日にあった手紙がこれじゃ」
くしゃくしゃになった紙を胸元から取り出し広げ書かれていた内容は。
『お酒持ってまた来ます』
……頭痛くなってきた。話を聞く限り滞在期間は一週間かそこら…
その短い期間で、ドワーフとたくさんの交流をし、娘さんの初めてを奪って立ち去る。それだけならまだできる人はいそうだけど、また来るって書き置き…?
コミュ力とメンタルが強すぎて同じ世界から来た人とは思えない…!
ドルゴ「マットお前にも娘がおるじゃろ?お前の娘にこんなことしておいて責任も取らず逃げおったら「殺します」じゃろ〜?」
まあ…リオンは見た目もイケメンだったし、女好きな感じはした。
そういえばカーネ相手にちょっと変な口説き方しそうになってマットに警戒されてたこともあった気がする…
もしかしたらリオンにとっては問題を起こした自覚なんてなくて、これが普通のことなのかもしれない。
シアン「…娘さんはなんて言ってるんですか?」
ドルゴさんが怒る気持ちもわかるが、だが結局のところ娘さんがリオンのことをどう思っているかが問題だと思う。あいにくこの場にはいないし、俺には本人にそんなことを聞く度胸がないため聞けないが、女性を悲しませてすぐに逃げたのであればリオンが責められるのは当然だと思う。
ドルゴ「シアン…それは…聞くな!!」
ドルゴさんはストップ!っと言わんばかりに手のひらを前に突き出してきた。
ああ、そのリアクションからもう察しがつくが、娘さんはリオンにされたことに文句言ってないんだろうな…
それがまた腹が立つのかもしれない。怒りのやり場をぶつける前に逃げられたわけだから…
なんだ…やっぱり悪人ではなく、ただの陽キャな人なのかもしれない。
結局問題らしいことはその程度で、ここの人たちから本気で嫌われてるわけじゃ…
「また来ます。なんて書き残していったが、あの男にはもう二度とこの地に戻ってきてほしくはないかな」
爽やかな声とは裏腹に言っていることは辛辣で、誰が言っているのか分からなかった。姿を現したのは意外な人物…ジャック・ラッセルのジャックさんだった。
ジャック「あいつがこの地にきてからネズミの挙動が以前よりもおかしくなった気がする。きっとあいつが何かしたに違いない」
ドルゴ「それに関しちゃあいつがここにいた時期と会わないから関係ないって結論出したろう」
どういうことだろう?
ネズミは以前からああいう感じではなかったということか?
そうなると話が変わってくる。
シアン「それについて詳しく聞きたいです。ネズミはリオンが来るまではああいう感じで暴れてはいなかったんですか?」
俺の質問にドルゴさんは頭を掻きながらなんて答えようか考えている。
だがジャックさんは違う。
ジャック「あいつが来てからネズミたちはおかしくなったんだ。坑道にネズミが出たとしても、わずかな食料を漁るだけで、俺たちを襲うことなんてなかった。あいつが来る数日前からだ。ネズミがやけに騒がしく暴れ始めたのわ」
ドルゴ「確かにそれはそうじゃが、あいつがここを去ってからしばらくはネズミどもも姿を見せんかったじゃろ?お前はあいつを敵視しすぎるあまり、あいつのせいにしようとしすぎじゃ」
…リオンが現れる数日前からネズミは以前よりも活発になり、去ってからしばらくは姿も見せなかった。
それがここ最近またネズミの活動が活発化し始めた…という感じか?
それなら確かにリオンが関わっているのかは分からない。
だけどなんか引っかかる。
シアン「ジャックさんがリオンを敵視しているのはなんでですか?」
ジャック「……むしろ君はあいつのことを知っているのに敵視してないのかい?あいつから感じる嫌悪感はあの大人しいドゥーガルですら牙を出して威嚇するほどだったよ?」
ヘイミッシュさんはなんというか変な人ってイメージだが
その横にいたドゥーガルさんはクールなイメージがあったがそんなドゥーガルさんもリオンに牙を向けたのか…
けどジャックさんが話すその光景と同じものを見たのを俺も覚えている。
それはリオンと初めて会ったあの夜のこと。
プリムスの村が襲われ、森に逃げるかどうするか決断しようとしていた時。
俺らの前にふらっと現れたあの男に対して、たくさんの仲間が牙を向け威嚇していた。
冷静で普段は優しい父であるマットですら、毛を逆立て敵視全開で対峙するほどだった。
マット「俺もあいつと初めて会った時はジャックくんの言っていることと同じ感想だったよ。あいつから感じる気配は尋常じゃなかった。今まで会ったどんな生物よりも不気味に見えて近寄りたくなかったけど森の道中で再会した時はそんなことはなかった。なぜなのかは俺にも分からない。ジャックくんはそんな感じはなかったの?」
マットの言った言葉に思い当たることがあったのかジャックさんは少し黙ってしまった。
ドルゴ「お前らもあいつがここにきた時は警戒していたが、最後の方はそんなことなかったろう?じゃから考えすぎじゃ」
娘さんのこととネズミのことはしっかりと分けて考えられるドルゴさんは大人だな。
もしかしたらあの男のことを結構気に入っていたのかもしれない。
話を聞く限り、ネズミが暴れ始めたことと、今いないリオンに因果関係はおそらくないだろう。
それよりも『今』暴れ始めた原因の方が気になる。
シアン「ネズミが最近暴れ始めたのっていつ頃ですか?」
ドルゴ「正確には覚えてないが二月くらい前か?お前らがここに辿り着いたあたりじゃよ」
俺らがここに辿り着いたあたり…?
リオンが現れた数日前と、俺らが到着した時期にネズミが暴れだした…?
それってネズミが暴れ出した原因は…転移、転生者に反応しているんじゃないのか…?




