侵略
誓断輪廻 転生した異世界で課せられた転生者たちのルール『人殺し、死、自殺』
カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称
ここはシアンたちがたどり着いたドワーフが住むエルデの村より遠く離れた都市。
ネイ=ディ。
アルビオン王国の領土であるこの防衛都市はこの国の入り口である山岳と山岳の間に位置する場所にあり、貿易なども盛んに行われていた。
その防衛都市が今、灰と瓦礫の山となり、他国の旗が掲げられている。
ネイ=ディは決して簡単に陥落するような都市ではなかった。
この国に忠誠を誓っていた大貴族のブルーノ・バッシーノは王から授かりしこの地を絶対に落とさせない工夫をいくつも施していた。
王都から一番離れた場所に位置しているが、兵力は常に保ち。
近隣諸国とはうまく関係性を築き。
自分の財を蓄えることよりも、いついかなる時でも最前でこの国の盾となるよう心がけていた。
そこまでしていたにも関わらず、この都市は今日滅ぶ。
ブルーノ・バッシーノは瀕死の中、一体何が原因でこの都市が落とされるのか考え続けた。
原因はわかっている。
だけど認めたくなかった。
自分たちが重んじてきた騎士道が完全に逆手に取られていたことを。
礼儀、名誉、慈悲、正義、信仰。
敵はそれを全て利用し、踏み躙る。
敵軍に信条などない。
あるのは効率的な破壊のみ。
全ての始まりはおそらく数日前に壁外で保護した男。
身体中にアザがあり、痩せこけ、酷く衰弱し意識はなかった。
このまま放置すれば死んでしまう恐れがあったため、騎士たちはその男を医療修道会のある砦『白銀の手』まで運んだ。
騎士であれば当然の行為。
その時はそう思っていた。
「これ…この人の体にあるこれはなんでしょうか?」
治療を進めてすぐに男の体に違和感があることにあるシスターが気づいた。
腹部に子供の握り拳くらいの膨らみ。
何かの腫瘍かと思い触ってみるが、人間の体内で自然にできたものにしては硬すぎる。
それにすぐそばには縫い合わせたような傷跡…
仲間を呼びどう対処するか相談。
「とにかく開いてみるしかないだろう」
『白銀の手』で一番人命救助の経験がある神官でもこのような腫瘍は過去見たことがなかった。
腫瘍摘出用のナイフを手にし神官は恐る恐る男にある傷跡を開いてみると。
中から出てきたのは少し大きめの石と線で繋がれた小さい石。
血で濡れているから色は正確にはわからなかった。
神官やシスターたちにはそれがなぜこの男の中に入っていたのか理解できず、戻すわけにもいかないので完全に摘出してみると…
小さい方の石からパチっと何か弾けるような音がした。
それが合図。
男を保護し治療していた『白銀の手』のある砦はその瞬間、文字通り爆散していた。
生き残ったのはたまたま窓を開けるために窓際に立っていたことで爆風で外に吹き飛ばされたシスターただ一人。
何が起こったのか、なぜ自分が外に吹き飛ばされたのかシスターにも理解ができなかった。
落ちた時に背中を打ったためうまく呼吸ができないし、身体の至る所が痛くて冷静になれない。
わかっているのは保護したあの男の人が爆発したことだけ。
なぜ爆発したのかもわからない。
自分が窓際に居たため外から黒煙壺などの爆発物を放り込まれたとも考えにくい。
もし仮にこの爆発が敵の魔法による攻撃だとしても姿を見せないであれほどの爆発を起こすのは不可能。
この世界における魔法というのは威力の大差はあれど、超遠距離からピンポイントで建物の中を吹き飛ばすような細かい指定はできない。
ただ単純に詠唱したものの付近に火や水を発生させられる程度。
爆発は砦の中から発生した。外側が爆発していたら中にいたナースは外まで吹き飛ばされていないはず。
だから爆発物を投げ込まれたのでも、外から魔法を撃たれたのでもない。
考えられるとしたら、保護した男性の体内にあった鉱石が爆発物だったと考えるしかない。
この世界の過去の戦いの歴史全てが語り継がれているわけではないが、このような非人道的な不意打ちをした国は過去存在しない。
だから誰も人命救助を警戒することがなかった。
そこを突かれた。
突然の砦の爆発に騎士たちが急いで駆けつけ、砦の外で倒れているシスターに、何があったのか状況を聞いている。
だが吹き飛ばされた時、鼓膜は破れ呼吸もまだ安定していない、シスターは騎士たちに状況を説明したくても説明することができない。
砦が混乱に包まれる中、防衛都市全体に鳴り響く鐘の音。
「ちょっと待てよ…」「なんだよあの数…」
城壁の上から外を見る騎士はその大軍に足を震わせた。
なぜ誰も気づかなかったのか。
あれほどの数の軍が動いていたら周囲に住む村の住人や、国家間を移動している商人、冒険者たちから警告の知らせが流れてきていてもおかしくないはず。
それなのになぜ報せがこの防衛都市に一切入ってきていなかったのか。
騎士たちが今どれだけ頭を巡らせてもすぐには答えが出ない。
本来なら敵国を攻めるのにはまず宣戦布告をするものだ。
どれだけ悪と罵られた国でもこの禁忌は破っていない。
なぜならそんなことをすれば周辺国家全てを敵に回すからだ。
それでは不意打ちを成功させても、敵を作り過ぎてしまう。
だがその考えこそがネイ=ディの騎士たちの弱点。
こうあるべき、こうすべき。こういうことをしてはならない。
その固まった思考の死角をつくからこそ効果は発揮される。
騎士たちは急ぎ隊列を組み、敵を迎撃する準備を試みる。
だが眼前の敵の数にどう対処すればいいのか全くわからない。
防衛を試みたところでこちらの陣営は治療、回復を担っていた『白銀の手』が先ほどの爆発で隊員の大半が死傷した。
持久戦は不可能。
先ほどの爆発で城壁の一部が破壊されている。
籠城などの戦略も打てない。
正面からやり合いたくても敵の数が多過ぎて負けは必須。
ならば逃げるしかない。
それなのに、逃げれない。
誇りが…王から授かりしこの土地を捨て逃げることを恥だと。
逃げることを許さない。
それにまだネイ=ディの民たちがいる。
ネイ=ディの騎士たちは民が逃げるまでの盾にならねばならない。
それが騎士道。
自分たちがどうするべきか悩んでいる間にまた敵は騎士たちの弱点を突いてくる。
防衛都市ではあるが万が一の時に民が脱出できるための退路がある。
それをどうやったのか敵は簡単に制圧し、民が逃げる道を塞いでくる。
どこやって裏に回ったのかもわからない。
また混乱している間に、今度は民が人質に取られる。
民が人質に取られては敵に反撃することも許されなくなる。
騎士たちは矛を納め、降伏以外の選択肢が奪われる。
これでネイ=ディの陥落という形で戦は終わる。
と、騎士たちは思っていた。
敵は無抵抗になった騎士たちをまず殺し、民の中から男と老人、女と子供に分け。
男と老人を一か所に集めて焼き、女は犯し、子供達は売買のために連れ去った。
騎士道だけではない、この敵には倫理そのものが欠落している。
「こんなことが許されていいものか…」
と、ブルーノ・バッシーノが空につぶやいた時、瀕死の彼の前に一人の男が歩いてくる。
その男は敵国の中にいるというのに帯刀もせず、ただ悠然と歩いている。
もしかしたら生き残りの騎士が最後の力を振り絞って刃を向けてくるかもしれないのに、そんな脅威などこの場所には存在しないと確信しているように。
「ご自慢の騎士道精神だけでは戦には勝てないと痛感したか?」
横たわり天を見上げるブルーノ・バッシーノのすぐそばに立ち男は話しかけてくる。
「……このような悪逆無道な行いをすればどうなるかわかっているのか?…貴様の行いは我が国だけだけじゃない。近隣国家全てを敵に回すだけの大義名分を与えたのだ…はぁはぁ…貴様の父である先代ヴィオレンティア皇帝は強く、恐ろしかったが貴様のような無法ではなかった。どれだけ強くとも、他国を一斉に敵に回すような蛮行は行わなかった」
倫理のない奇襲でこの防衛都市を落としたとしても、結果的には近隣国家に同盟の理由を与え、自ら敵を増やしたことになる。
大義名分もなく侵攻すればそういう結果を招くということだ。
今回ネイ=ディは負けてしまった。
だが最後は結束したアルビオン王国が勝つことになる。
「そうだな。だがそれが最も効率がいい方法だと考えた結果がこの侵攻だ」
男の答えを聞き、ブルーノは何を言っているのかわからなかった。
効率がいい?近隣国家に同盟の大義名分を与え、経済的にも追い込まれ苦しくなるはずだ、自国の衰退を早め苦しめるだけのこの奇襲攻撃のどこに効率がいいと言える要素がある?
「近隣国家と同盟?したければすればいい。だがお前が想像しているような結果にはならないと思うぞ。あの国は騎士道に反する真似をした。大義名分がある。
その程度の理由で戦争に加担する奴がどれだけいるだろうか。
この世で最も重要のなのは自分にとって有益かどうかという利己的な考えだ」
見た目は赤髪の優男のような印象を受けるがその行動は印象とは真逆で、容赦無くブルーノの顔を踏みつけまた言った。
「俺はな、別にお前らの国を奪い我が領土にしたいとかこの世界から滅ぼし、歴史上からも消し去りたいとか。そういった野心でこの防衛都市を攻めたわけではない。
俺がここを攻めた理由はな…世界が戦争という混沌に落ちた時、
『女神から授かったこの力があれば世界を救えるかも』と表舞台に出てくる英雄願望を持ったバカな転生者、転移者を引き釣り出すこと。
そしてそいつらをありとあらゆる手…お前らがいう悪逆非道な手を使い尽くしてでも、女神の考えたくだらんゲームから脱落させ、最後に俺が勝利し、次の人生をまた勝ち組として謳歌することだ」




