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誓断輪廻せいだんりんね 転生した異世界で課せられた転生者たちのルール『人殺し、死、自殺』


カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称

竹。

携行品にも建築資材にもなる万能植物。

そして簡易的な武器にもなる。


これを加工できれば魔熊をも怯ませることができる竹槍のような武器ができるかもしれない。


そう思い、竹をもっとしっかりと触ってみたがこの竹は俺が知っている竹とは別物だということに気づいた。


竹が硬いのは知っている。だがこの竹の硬さと冷たさはなんだ?

まるで鉄でできてるような質感。

鉄分がないと植物は育ちにくいと聞いたことはあるが、植物そのものが鉄のようになるなんて聞いたことがない…

これが異世界ならではの植物なのか…?

とてもじゃないがなんの道具も持っていない俺にはこれをどうすることも…

あれ…?でもこれって…


マット「それは俺たちにはどうにもできないよ」


一人だけ離れた場所にいた俺を追ってきたのだろう。

後ろからマットが話しかけてきた。


マット「それは鉄竹てっちくって言ってね、人間たちでも加工するのが難しく厄介な代物なんだって。他の植物に当たるはずの日光を遮ってしまうから普段なら見つけ次第根から掘り返して焼き払うらしいんだけどこれは自然に生えてたんだろうね。


シアンが何か考えてるのは残念だけどそれをうまく扱うことができる連中なんて、おそらく…」


シアン「ねえ?お父さん…ならなんでこの鉄竹何本か切り取られてるの…?」


俺が指差した先の竹は十数本くらい幹に当たる部分、正確にはかんと呼ばれる部分で綺麗に切られている。

人間でも加工が難しいと言われる植物を、こんな綺麗に切り倒せる野生動物がいるだろうか?

いや、そんなものはいないはずだ。

ならこの竹を綺麗に伐採したのは誰だ…?

マットも不審に思ったのかあたりの匂いを嗅いで確かめている。


マット「シアン…みんなを連れてきてくれる?」


なぜ?とは聞かなかった。

マットの尻尾が大きく動いているのをみて、多分俺の予想と同じだと感じ取ったから…


急いでみんなを連れに戻ろうと走っている途中、

遠くの方から『グォォォォォォォォォォォ』と大きな地響きのような音が聞こえた。


俺たちカニスは人間より耳がいい。

この音が地鳴りや、悪天候からなる雷などのような自然から発生する音ではないことはすぐにわかった。


ならこの音の正体はおそらく…


ネス「シアアアアンン!!兄貴どこ!?」

みんながいる方から逆にネスおじさんが走ってきた。


シアン「お父さんはあっち!というか今の音って…」

ネス「ああそうだよ!魔熊マユウだよ!あいつ、周りに満足できるほどの餌がもうないのか知らないが、俺たちに狙いを定めやがったみたいだ!俺は兄貴にどうするか聞きにいくけど、シアンは!?」


頼むからこの悪い感は外れてくれと願ったが無駄だったようだ。

魔熊まゆうが俺たちを追ってきている…

どこまでいっても俺たちの前に現れる障害…

俺たちが身を隠しながら進め、やつが通りづらそうな道をマロさんが選択してくれていたのに、その努力は無駄だったみたいだ。

魔熊は魔熊で俺たちの匂いを辿って俺たちのことを追ってきていた。


シアン「お父さんが何か見つけたからみんなをこっちに来るよう呼んできます!」


とにかくここで絶望していても何も始まらない。

一刻も早くみんなをマットのいる伐採された竹林の場所まで連れていかないと。


みんなの元に戻るとさっきの魔熊の咆哮を耳にしていたのか軽くパニックになっていた。

ここで無駄な時間を過ごすわけにはいかない。

俺は普段は出さないような大きな声で

「みんなこっちにきて!早く!」と声を張った。


我ながら普段はおとなしい方だと思う。

だからそんなおとなしい男が声を張ったのが意外だったのかみんなは少し驚きながらも俺の声に耳を傾けてくれ、逆に俺が驚くぐらいしっかりと俺のいう通りに動いてくれた。


みんなを連れて戻るとネスおじさんの姿はなく、マットしかいなかった。


カーネ「ねえ?ネスはどこいったの?」

マット「ネスには少し先にいってもらったよ。それよりアンナ!…ごめんまた君に頼らなければならなくなった…」

アンナ「え…?は、はい…!」


突然呼ばれたアンナはビクッと震え上がったが、マットの様子が普段と違うのを察して自分から前に出て話を聞こうとしている。


マット「ごめんね…ここに残っている匂いはおそらくドワーフの村に住んでいるカニスたちの匂いだ。結構濃く残ってるからアンナならこの匂いを走りながらでも嗅ぎ分けれると思う。

ネスが周りに危険な魔獣がいないか先に走り回ってくれてるから、アンナはこの匂いだけに集中してみんなを誘導してくれないかな?

シアンは今まで通りアンナが匂いに気を取られて足を踏み外したりしないかフォローしてあげて。

シュウは魔獣がいきなり現れたときお願いね。他の仲間はできるだけアンナたちから離れないようにひたすらついていって。おそらく村はそんな遠くないからできるだけ早く、それと…カーネ…ごめんね。みんなのこと、子供達のこと…よろしく…」


この間トラさんが言っていたように、またマットが堰を切ったように指示を出し始めた。

だが最後の方は明らかに指示じゃない。


カーネ「待って待って!どういうこと!?いきなりそんな一遍に指示出されて!しかも大半が子供達宛じゃない!あなたはどうするのよ!?」


マット「……カーネもさっきの咆哮は聞こえただろ?もう俺たちは完全にあいつに狙われている。このままみんなで走って逃げたらおそらく一番最初に追いつかれるのは君とソラだ…だからやっぱりここで誰かが食い止めなきゃ無理だと思う…」


ああ、だめだ…

このままじゃ…また…


マット「だけど多分俺一人じゃ一秒も止められない。だからトラ…こんなこと頼めるの君しかいないんだ…俺と一緒に…」


また同じことを繰り返す。

グランじいちゃんの時と同じ…誰かを犠牲にして…また逃げ続ける日々…

結局俺は解決策を何も思いついてない…何が賢いだ…

俺は別に頭がいいわけじゃない…

他の子達より特殊な生まれ方をしてるだけだ…


トラ「はあ…こうなったらしゃあねぇわな。おい!シュウ!このあとはお前がみんなを守れよ!できるよな?俺の息子なら!」


シュウ「っ…!?」

シュウもオロオロとし困っている。

それはそうだ…いきなりそんなことを子供が託されても困るだけだ。

何もかも急展開すぎる。


カーネ「ねえ!これしかないの!?本当に…この方法しかないの!?」

当然だがカーネも納得していない…最愛の人がなんの相談もなくあっさりと自己犠牲で解決しようとしているんだから怒って当然だと俺も思う。


マット「うん。残念だけどもうこれしか方法はないと思う。

それにカーネは知ってるでしょ?俺が誰の息子か」


誰の息子か…無論マットはグランじいちゃんの息子だ…

その言葉を聞いて、俺もカーネもグランじいちゃんの犠牲の上に立っていることを思い出し…言葉が出なくなってしまった…

この危機を回避するには『また』誰かを犠牲にしなければいけないのか…?


マットの決定を否定しなきゃいけないのに言葉が何も出てこない…

なんとかしてマットも連れていく案を捻り出そうとしてる時、

一瞬遠く山の上に焦茶の物体が見えた。


それはまるで山道を駆け降りるトラックでも走っているのかと思えるほど俺の想像よりも大きかった。


遠目に見てあんなに大きいのだ。

いくらカニスが人間よりも力があるからといって、あれを止める術なんてない。


それは俺が一番よく知っている。

だって俺はトラックに弾き飛ばされて死に、この世界に転生したのだから。


トラさんとマットがどうやってやつを食い止めようとしているのかは聞いてないからわからないが道具もなしにあれを止めるのは不可能だ。


ならどうする?俺ならどう止める?

カニスの力があっても止めることができないトラックをどう止める?

もしトラックが走ってきて、止める術があるとしたら…それは…


シアン「あ…」


そうか…そうすれば…

だけど普通にやったらだめだ…あいつを…らなきゃ…


シアン「みんな…俺のいう通りにしてほしい…」


カーネ「…シアン?」

これしかない。

とても怖いけど…勇気を出すしかない…


シアン「アンナ…もう匂いの方向はわかった?」

アンナ「え!?う、うん!わかったよ!」

シアン「よかった…トラさんとお父さん以外はアンナの指示する方に全力で走って、お母さん…アンナのことよろしく。あとシュウもみんなのことよろしくね?」


カーネ「ねえ?ちょっと…だめだよ?シアン?お母さんそんなこと許さないからね?」

カーネが何を言いたいのかわかる。

息子《俺》がマットと同じように犠牲になろうとしてるんじゃないかと勘違いしてるんだろう。

けど俺はそんなこと考えてないよ…


シアン「安心してお母さん。俺はあの日、グランじいちゃんを置いて行ってしまったことを今でも後悔してるし何もできなかった自分を今でも恨んでる。

だからまたあの日と同じことを絶対に繰り返したくない。

それにここでお父さんもトラさんも死なせない」


そうだ…誰も死なせたくない。

グランじいちゃんのことだけじゃない…転生するきっかけになったトラックとの衝突事故の時助けれなかったあの女の子のことだっていまだに引きずっている。


ここで失敗したら終わる。しかも俺だけじゃなくてマットとトラさんまで巻き込むことになる…そう考えたら手も足も震えるけど…

これは俺にしかできない唯一の作戦。

ならやらなきゃ、俺も役にたつってここで証明しなきゃ…

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