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誓断輪廻せいだんりんね 転生した異世界で課せられた転生者たちのルール『人殺し、死、自殺』


カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称

俺たちは鼻がいいから、逆に油断していたのかもしれない。


一難去ってはまた一難を繰り返していたから()()()のことが完全に頭から抜け落ちていた。


俺たちは目指す場所があり、軌道を外すことができない。

それに対して()()()は目指す場所はない。

あるとしたら縄張りに入った()を求める時だけ…


最初に気づいたのはネスおじさんだった。

ネスおじさんは高鼻も使うが、食べ物が何かないかと地面に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ地鼻も使う。

その行儀の悪さが今回はみんなを救うことになった。


ネス「まって兄貴!この先にある匂い…!」


その言葉を聞いたマットも急いで鼻を使いあたりの匂いを嗅ぎ始める。


マット「…ああ、魔熊(まゆう)の匂いだ…」


魔熊の痕跡があった場所はもう何日も前に通り過ぎている。

魔熊が進む道の予想をマットたちが最大限の警戒をしながら確認し、俺たちが進む道とは大きく外れていたからもう出会わないと思っていた。


マット「なんでもっと早く気づかなかった…」


マットは嘆いているがこれは仕方ないことだと思う…

強い匂いというものは下の方に溜まると聞く。


それに風は俺たちの進む道と同じで山の方から下に降りるように吹いていた。

つまりは追い風、高鼻を使っていても俺たちの方に匂いが流れてきていなかった。


アンナ「え、えっと…あの…ただ…道は…あってます…あの人の匂い…今見つけました…」


俺たちが悩んだ末に選んだ道は正しかった。

だけどこんな大きな障害があるのは予想していなかった。

もう俺たちは進路を変えられない…食料は残り少なく、この辺りで補給できそうな小型の魔物もいない。


そしてもっと最悪なのが…


トラ「やべえぞ?魔熊の鼻は俺たちよりいいって聞く。俺たちが魔熊の痕跡に気づいたように、あいつも俺たちの匂いに気づくはずだ」


魔熊の嗅覚は犬以上にあり、今通っている場所はもうあいつにとっての縄張りになるということ…


ネス「最悪…これみてよ兄貴…」


いち早く魔熊の匂いに気づいて先行していたネスおじさんが戻ってきたが明らかに動揺している。手に持っているのは異臭を放つ…魚?


ネス「川に魔熊の食べ残しであろう魚の死骸が何匹かあった…死骸の状態から腐り始めたのはここ最近…つまり俺たちは今、あいつが近くに潜む縄張りの中にいる…」


アンナ「ごめんなさい…一番匂いを嗅いでいる…私が気づかなくて…」

マット「アンナは悪くないよ。俺こそ周りを警戒していたのに気づけなかった…ごめん」


カーネ「誰が悪いとか今はそういう話じゃないでしょ?この後どうするか考えようよ?」


そう。

これは誰が悪いとかそういう話ではない…

あまりにも立て続けに悪い状況が重なっているだけ。

何一つミスなく進むなんて不可能だ…

今は解決方法に頭を働かせた方がいい。


だけどどうする?進む道は合っているがこれから先、魔熊に遭遇する確率は高い。

みんなで固まって進めば全滅する可能性だってある。

だけど今二手に分かれるのは危険すぎる気もする…


「じゃあ〜僕が頑張る時かな〜?」


それはあまりにも意外な人物で一瞬誰だかわからなかった。

マコト「お父ちゃん?」

マロ「マコはみんなと一緒にいるんだよ〜?」


マコトの父親のマロさん。

黒柴を思わせる黒い髪と麻呂眉が特徴的で、普段からおっとりしているというか、何を考えているのか正直よくわからない人。


普段ならこういう時でものほほんっとしてる人だから、今何をしようとしているのかさっぱりわからない。


マロ「マット〜僕が先に走って安全か確認してくる感じでいい〜?」

マット「大丈夫?俺がやろうか?」

マロ「ううん〜ほら〜川を越えた森の中見てよ〜?」


マロさんが指差した先にある森の中、そこには少し高めの草が生い茂っていた。


マロ「あそこを走るなら僕の方がいいでしょ〜?」

マット「そう…だね。お願いするよ」


走る…?なぜ…?

マットはマロさんが何をしようとしているかわかっているみたいだが俺には状況が掴めない。


シアン「なんでマロさんが先の方がいいの?」


俺がその質問をした時にはマロさんはもう走り出していた。

このままマロさんが何をしようとしているのか知らないとすごいモヤモヤしそうだからマットに説明を求める。


マット「これはシバ一族の特性なんだけど…」


昔から疑問に思っていた。


秋田、北海道、甲斐、紀州、四国。


日本犬と呼ばれている犬種の名前は地名が由来なのに、なぜ柴犬だけには地名が入っていないのか…その理由がマロさんの行動に由来していると初めて知った。


柴とは『小さい』『雑木(ぞうき)』という意味。

あまり馴染みにない言葉と思うかもしれないが、日本人ならほとんどの人が聞いたことがあるあの昔話に使われている文言…


『おじいさんは山に柴刈りに…』


俺も勘違いしていたが、おじいさんが狩りに行ったのは芝生の芝ではなく柴、山野に生える背丈の低い雑木を意味する言葉。

さっきマロさんが指差した腰くらいの高さの草木がそうだ。


その背丈の低い雑木を掻き分けて走れる、日本唯一の小型犬だから柴犬。


マロさんの身長は小学校高学年くらいの俺と大差ない。

だからさっき指差した草木の中を走っても、外から見たら草が動いているだけで姿は見えず、どこを走っているのかわからない。


俺たちが進む道がもう安全ではないとわかったからにはゆっくり匂いを嗅ぎながら進むのは危険。

だからまずは安全かの確認をするためにマロさんが姿を隠しながら先行するというわけだ。


正直俺は柴犬という犬種を誤解していたかもしれない。

名前の由来は誰かの人名か地名くらいで特に意味なんてなく、気難しくてマイペースな日本犬くらいに思っていたが…

その名前にはちゃんと意味があり、特性が隠れていた。


柴犬がマロさんのように偵察のように使われていたわけではない、こんな特性の活かし方もあるのか…


ジャーマンシェパードは匂いを嗅ぐのが得意で、柴犬は小さい体を活かす。

秋田犬は勇猛果敢。


じゃあ俺は…雑種の俺には何がある…?


……

………今はそんなことを考えている余裕はない。やめよう…


マロさんが安全を確保してくれた道を全員で進む。

リオンの匂いからはもう外れてしまっているがこれは問題ないとマットは言った。


マット「もうあの男の匂いに頼るのはやめよう」


トラ「それで本当に大丈夫かよ?」


マット「大丈夫かは保証できないけどあの男の痕跡にずっと縛られていたらいずれ魔熊に遭遇する可能性の方が高い。

ここまでかかった日数的にそろそろエルデの村も近くなっているはずだし、

あの男はエルデの村にもカニスがいると言っていた。

そのカニスたちが森に狩りに出てる時にできた痕跡があるかもしれないから、

なら今はそっちを発見するのに賭けたほうがいいと思わない?」


トラ「あ〜!!もうわかった!お前は普段言葉数少ないくせに言い始めるとせきを切ったように話し出すからめんどくせえ!色々考えてるんだったら文句はねえよ!お前の指示に従うわ!」


俺は走りながらも後ろに回った二人の会話が気になって聞き耳を立てている。

何やら少し喧嘩のようにも聞こえたが、トラさんの口調が強いだけで喧嘩ではないようだ。


マット「それにね…俺たちは少しアンナに頼りすぎたよ…もうあの子に負担をかけたくない。そろそろ大人の俺たちがしっかり誘導しなきゃ…って言おうと思ってたんだけど、まさかそれを一番最初に言うのがマロだとは思わなかったよ」


トラ「あっはっは!それは俺も思ったわ!普段なら後ろでのほほんとしてるあいつがまさか先導するなんてな!」


ああ、なんだろうな…この気持ちは…二人の会話を聞いていると少し…

ううん…すごく羨ましく思う。


食料は残り少なく、魔熊に遭遇する確率が高い。

その今の状況を考えればこの二人の会話は少し緊張感がないように聞こえる。


だけどそれがすごく羨ましい。


マットもトラさんも、マロさんが先導してくれてることを驚いてはいるが信用しきっている。その証にマットはいつも先頭で周りを警戒しているのに今は後ろに下がっている。


三人は親友なんだろうな。

俺にはそういう相手はいなかった。

だからこの会話を聞いているのはすごく楽しくて、そして羨ましく思う。


それに…やっぱりマットはすごい。

本当に色々考えている…アンナの負担のことまでちゃんと考えているなって…

俺なんて遠く及ばない。

本当のリーダーだ。


カーネ「ちょっと後ろで笑ってるおバカ二人!ちゃんと後ろも警戒しなさいよね!」


うん。これは少し言われてもしょうがないと思う。

警戒は大事だ。




マロさんの誘導のおかげで魔熊と遭遇することなく、一日を走り抜けることができた。ここまでくれば魔熊とかなり離れたかもしれない。

ただエルデの村の手がかりはまだなく、食料も残りわずかになっていた。


刻一刻と俺たちに残された時間がなくなっているような気がしてそれが俺を焦らした。

みんな何かの役に立っている。

なのに自分は何もできていないんじゃないか?

マットとカーネは俺がよく考えているというが、魔熊に遭遇した時どうすればいいかまだ俺は思いついていない。


考えていないわけではない。

考えても考えても打開する方法が思いつかないのだ。


魔熊のサイズは俺の想像している熊より大きいのに、大人たちが持っていた武器は数ヶ月間使い込んだせいでもうただのなまくらになってしまった。

魔熊と遭遇した時、撃退する手段はもうない。

もしまたやつが俺たちの進む道に現れたらもう逃げる以外の手段はないのか…?


そんなことを考えてたら休憩場所から少し離れた場所に一つ気になるものが目に入った。


それは遠くから見たら黒い塊で、近づくにつれ黒い棒のようなものが何本もまとまって生えているのがわかった。


森の中であまりにも異質すぎるその黒い棒が気になって近づいてみて手で触れてみてその物体がなんなのかようやくわかった。


シアン「これ…竹か」


この世界で初めて竹を目にした。


秋田、北海道、紀州、四国、甲斐

そして柴

天然記念物として登録されている日本犬は全部でこの六種類です。


土佐犬は?と名前に地名も入ってますし思う方もいると思いますが、

土佐(高知)は元々は四国犬に海外の犬マスティフなどの血を混ぜて作った闘犬なので

天然記念物としては登録されていません。


あと日本スピッツやちんも海外伝来の犬なので登録されていませんね。

日本スピッツは主人公の母親役カーネのモデルとして登場させていますが

土佐や狆は今後登場させるかは…ちょっと考え中です!

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