表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/43

油断大敵

誓断輪廻せいだんりんね 転生した異世界で課せられた転生者たちのルール『人殺し、死、自殺』


カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称

洞穴から出発して十日ほどが経った。


この数日は順調に進んでいると思う。


一番の不安要素であった魔熊の痕跡がマットたちの事前調査の通り、俺たちの進む道の導線上に確かに重なっていたが、進むにつれどんどん離れていっているのが確認された。一番の不安要素である魔熊遭遇が解消できたのは大きい。


だが、昨日からアンナの様子がどうもおかしい。

休憩中のご飯の時に落ち着きがないように見えた。


普段ならあまり人の行動に対して詮索したりしないが、今の俺たちは運命共同体だと思っている。

『普段なら』という甘い考えはやめ、夜に思い切ってアンナに話があるからと手を引き、みんなから少し離れた場所に連れていく。


シアン「最近様子がおかしいけど何か隠してる?よかったら話して欲しいな?」


こんな質問の仕方でいいのだろうか?話したくないから隠してるんじゃないのか?

自分がアンナの立場だった時、こんな質問の仕方で答えるだろうか?

はぁ…本当に前世でコミュニケーション能力を培ってこなかったせいでこういう時どういうふうに接するのがいいのかわからなくなるのが本当に情けない。


アンナは顔を伏せている。やっぱり聞くべきではなかったか?

いや…でも今のアンナを放っておくのはできない。

なぜなら俺は、今のアンナの落ち着きのなさに既視感を覚えているから。


アンナ「黙っていてごめんなさい…。実は一昨日あたりからだんだんとあの男の人(リオン)の匂いが薄くなってきてる感じがして…

まだ完全にわからなくなったわけじゃないんだけど、匂いを嗅ぎ分けるのに時間がかかりそうなの…時間がかかったら一日に進める距離が短くなるから…それで…」


それがアンナが焦っていた理由か。


アンナ「このまま時間をかけて進んだらどんどんあの人(リオン)の匂いがわからなくなるんじゃないかって…そしたらだんだん怖くなってきて…私、みんなの役に立てるかなって名乗り出たのに…役に立つどころか逆にみんなを森の奥に迷い込ませてるかも…ああ…どうしよう…」


シアン「待ってアンナ。まだ完全にわからなくなったわけじゃないんでしょ?一旦落ち着いて…」


アンナがつけている仮面の下から、ポロポロと涙が溢れてきている。

考えてみればリオンが進んできた道を逆走しているのだから、時間が経てば経つほど遠くの匂いが薄くなっていくのは当たり前だ。

アンナもそれがわかっているから早く嗅ぎ分けなきゃと焦っていたんだ。


俺にはアンナの気持ちが少しわかる。

それはアンナが今抱えているプレッシャーと比べるのも烏滸(おこ)がましいほどしょうもない話だが同じような経験をしたことがあるから…


学生時代、クラスで空気のような存在だった俺が一度だけ自己主張をしたことがある。それは学生最後の体育祭、その中の目玉であるクラス対抗の障害物リレーに出場するメンバーのうち一人が体育祭の数日前に怪我をしてしまった。

だからそのメンバーの代わりを誰がやるかというときに俺は初めて勇気を出し、挙手をした。


今まで協調性も何もしてこなかったものが、思いつきで出しゃばるとどうなると思う?結果はクラスは最下位。どういう過程で最下位になったのかも思い出したくないほどの最悪な経験を味わった。


あの日のトラウマは今も少し残っている。

アンナのプレッシャーが俺のトラウマなんかと同じレベルだなんて全く思わないが、自分から名乗り出て結果が残せないプレッシャーはよくわかる。


わかるが…

今の俺にできるのはただそのプレッシャーが辛いことをわかってあげれるだけだ。

それだけではなんの解決にもならない。


ああ、本当に俺はつくづく何もできないな。

こんな時なんて言って励ましてあげるのがいいのかも思いつかない。


シアン「アンナ、ごめん。俺一人じゃアンナのプレッシャーを和らげてあげれないと思う。だからあの人に相談していい?」


アンナ「え?」


俺はアンナの元から離れ、あの人を連れにみんなの元に戻った。


「なるほどね〜自分が巻き込んじゃった!なんて考えなくいいのに〜」


本来ならリーダー格であるマットに相談するのが筋だと思う。

だがこういう時頼りになるのはこの人しかいない。


カーネ「アンナちゃんが名乗り出なくても結局あの洞穴からは出発することにはなってたと思うし、アンナちゃんがやらずに私たちだけでやったらも〜っと進みは遅かったんだから自分が悪いなんて考えちゃダメだよ〜!それにまだわからなくなったわけじゃないでしょ?」


別にマットが頼りないからではない。

ただ今のアンナは冷静ではないため、苦手な男の人に相談しようとしてもうまく打ち明けれないと思う。


それならあの夜アンナを引き取ってからずっと母親代わりをしてくれたカーネ相手ならアンナも気を張らずに話せると思った。


それにカーネは俺とは違ってポジティブで明るい。

俺には思いつかない解決策が思いつくかもしれない。


カーネ「う〜ん。もし匂いがわからなくなった時、ここから先は勘頼り!っていうのも怖いもんね…?う〜ん…シアンはさ、あのリオンって人ならどういう道を選んで森を進んでくると思う?」


シアン「え?」


そんなのわかるわけない。

特にリオンという男は空を流れる雲みたいな男の印象があった。

道を適当に選んで進みそうな人の思考なんて読めるわけがない。


カーネが俺のこと期待してくれてるのは嬉しいが、流石に難しすぎる。

それにあの人は本当に自分で道を決めていたのかも怪しい…あの巨馬に進む道を委ねてても驚かな…


シアン「あ」


そうか…あの巨馬。


あの巨馬の運動能力はわからないが木が生い茂っているこの森でわざわざ細く通りづらい道を選んだりしないはずだ。

それにあの巨体と括り付けられた大量の荷物。

傾斜のきつい坂道を好んで進んだりはしないと思う。


これから先、匂いの追跡が困難になり二手に分かれるような場面があれば、勘に頼らず消去法を使っていくのも必要な手段だ。


カーネ「ほらほら、なんか思いついたみたい」


カーネは俺が何かいいアイディアを思いついたことに嬉しそうにしている。

だけどなんとなく、俺が思いつくことを予想していたようにも見えた。


この人の明るくポジティブなところは暗く考えていた俺とアンナの思考を明るくしてくれる。

なんていうのだろう?こういうところが母親らしいって言うのかな?とにかくこの人が最も身近な大人のでよかったって思う。


カーネ「あなたたちまだ子供なんだから、抱え込まずにちゃんと大人を頼らなきゃダメよ?」


アンナ「はい…」シアン「ごめんなさい」


カーネ「よろしい!じゃあシアン、アンナちゃん抱きしめてあげて」


…は?


カーネ「アンナちゃん、鼻をたくさん使って頭が疲れちゃってるはずだから。リセットリセット」

シアン「いや、意味がわからない」

カーネ「なんでこういう時だけ察しが悪いの〜?鼻を使っていろんな匂い分別すると頭をいっぱい動かすから疲れちゃうの知ってるでしょ!?だから落ち着く匂いでリセットしてあげて!」


それは以前からアンナの追跡訓練に連れ添っていたから知っている。だけど…


シアン「それならお母さんでいいじゃん?」

カーネ「お母さんじゃダメです〜!ほら、ソラだってそうだし!マコトちゃんだって…マコトちゃんは逆に噛み嚙みモードになるからだめか…

とにかくシアンの匂い嗅ぐと落ち着くじゃない?シアンってそういう匂いしてるの!アンナちゃん癒すために男らしく嗅がれなさい!」


男らしく嗅がれろってなんだよ!?


シアン「でもアンナだって嫌だと思うし」「嫌じゃないよ?」

え?

アンナ「シアンの匂いはなんか落ち着くから嫌じゃない」


シアン「へ、あ、え…?えっと…?じゃ、じゃあ?」

何度もいうが俺は女の人と関わったことがほとんどない。

だからただ抱きしめられ匂いを嗅がれるのは、今まで経験したことがない恥ずか示唆がある。正直言って誰か変わってくれるなら変わってほしい!


だけどこれもアンナのため、アンナがこれからも頑張るために必要なことと…

そうやって必死に自分に言い聞かせ、俺は石のようにガチガチに固まりながらアンナに匂いを嗅がれるのを受け入れた。


あ、カーネがニヤニヤしている…!?

アンナの疲れをリセットさせるのに俺を選んだのは、戸惑う姿が見たいってのが本当の魂胆だな!?あの母親は!


だがその母親の悪戯?おかげでアンナは次の日から焦りの姿はなくなり、俺も分岐点に遭遇したら冷静に状況を分析できるようになった。

プラス思考で、雰囲気を変えてくれるカーネに相談して良かったと本気で思っている。


だけど安心したのも束の間、俺たちのことを嘲笑うかのように一難去ってもまた一難がやってくる。


今度は分岐が四つ。うち三つは巨馬でも簡単に進めそうな道幅をしている。


アンナは一生懸命匂いが残っていないか集中しているが、どの道にも匂いは残っていない。

マットや他の大人たちにも相談してみたが今回はあまりにもヒントがなさすぎる。


ここまできて三分の一の直感を頼りにするのか?

出発してからもう二十日は経っている。

もうそろそろ食糧の補充がしたいのに、ここ最近簡単に狩れそうな小型の魔獣の姿を見ていないと大人たちから聞いている。

ここで道を誤ると時間を無駄にし今度は飢えという困難まで俺たちを襲うことになる。


だけど今回ばかりは推測でどうにかなると思えない。

どうすれば…


「あっち」


岐路の前で勘に頼るか悩み、座り込んでいた俺の頭にマコトが顎を乗せ、俺が唯一選ばないだろうと決めていた、細くて少し下り坂になっている道を指差した。


シアン「マコト…その道は少し細いしそれに坂道だからあの巨馬が通るには少し厳しいと思うよ?なんでそっちだと思ったの…?」


俺はてっきり「勘」と一言返ってくると思った。


マコト「あっちから水の匂いがする。多分川がある!あいつ(リオン)は変な匂いしたけど、服は綺麗だった!」


だけどマコトはマコトなりに考えていた。


マコト「あと魚がいそう!」


あの人(リオン)は水が無限に湧く石を水筒に入れて携帯していた。

その水筒のサイズはだいたい大きいペットボトルくらい。


飲むには困らない量だが、水浴びをするにはちいさすぎる。

リオンも俺より前からこっちの世界にいるのだからもう慣れてきてるとは思うが、元々は一日一回はお風呂に入る習慣があったはずだ。

水浴びができる場所があるのなら立ち寄ることも予想できる。


それにマコトがいうように本当に魚がいるとしたら、俺たちの食料補給にもなる。


これからあとどのくらい進むのか予測がつかない。

それなら正しい道よりも食料補給を優先すべきだ。


それに俺たちは自分たちの歩いてきた道を迷わず戻れる嗅覚がある。迷わずに戻れるから多少寄り道しても問題はない。


シアン「そうだ…そうだよね…あははっマコト…!すごい、すごいよ!」

自分には俺はマコトのモチモチのほっぺたをモミモミしながらたくさん褒めてあげた。まるで本当の柴犬とスキンシップするように…


そうと決まったら一番細い道を進むようマットに言いに行かなきゃ。


俺はこの時、誰かに頼れば何かしらの解決策が浮かぶことに気づき安心し、油断していたのかもしれない。


食料補給ができる川が俺たちだけが利用する場所ではないことをすっかり忘れ…

十五話までの編集、改変作業のために二週間くらい更新できませんでした。

来週からまた日曜のお昼に更新できるように頑張ります!


ただ、もう一匹の犬の手術があるので…更新できるかは未確定です…!ごめんなさい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ