出発
誓断輪廻 転生した異世界で課せられた転生者たちのルール『人殺し、死、自殺』
カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称
今日はついにここを出発する日。
結局俺は、魔熊と遭遇してしまった時にどうすればいいのか思いつかなかった。
どれだけ考えたって俺は所詮、平和な世界で生きてきたただの平凡な男子。
この世界で魔獣狩りに参加したこともないし、前の世界の猟師さんがどうやって熊を狩っていたのかも想像でしかわからない。
これは多少苦戦はしてもクリアをすることが前提にあるゲームではない。
だから選択を一つ間違えるだけでみんなを危険になる可能性だってあるのだから下手な作戦は逆効果とも言える。
こうやって嫌な方にばっかり考えてしまい、いい案を思いついても結局自分で否定してしまい、一つも作戦は残らなかった。
やっぱりマットみたいなリーダーの素質は俺にはないんだろう…
マットには「魔熊に確実に遭遇するわけじゃないから」と言われているがどうしても嫌な予感がして不安になる。
だがどれだけ気にしても出てこないものは出てこないし、それにもう出発の時間だ。
とりあえず森を進むことに意識を切り替えるしかない。
それに俺が気にかけなければならないことは他にもある。
シアン「俺たちのこと…よろしくね?シュウ」
シュウ「……うん」
ドワーフの村までの道中、どんな危険が待ち迎えているかわからないこの森を攻略するために俺たちは簡単な隊列を形成した。
大人組であるマットとネスおじさんは最前列。
シュウの父親のトラさんとマコトの父親のマロさんは最後列に立ってもらい、周囲一体、四方を警戒してくれる。
マットたちから離れた次の列に匂いの追跡をするためにアンナが、追跡に集中しているアンナの誘導と最前列にいるマットたちに方向指示の役を俺が、そしてそんな俺たちを守る役割を与えられたのが、秋一族のシュウだ。
俺には俺でやることができた。小さい子供ながらもよく周りを見る視野の広さとアンナのそばにいても集中を阻害しないからと、この役を任せられた。
まだ小学生レベルの男の子にそんな役やらせても大丈夫なのかと我ながら思ったが、代わりにできる仲間はいなかった。他に適任がいないのであれば年齢なんて気にしてられない。俺がやるしかない…だから今は自分ができることに集中しなければ。
それにシュウが俺たちを守ってくれると思えば、余計なことを考えなくて済む。
シュウは俺たちよりも体は大きいがおとなしい子だ。
最初はアンナもかなり警戒していたが、少し前から追跡訓練に同行するようになってもらった。理由は俺一人でアンナの周りを警戒するのは負担が大きいから。俺の体はまだ小学生くらいに対しシュウは高校生くらい、それに自己主張も強くないからアンナもだんだんと警戒を解いていき心を許し始めていった。今では多少離れていればアンナの集中を阻害しない。
これはアンナとシュウの性格の相性ももちろんあると思うが、それだけが理由ではないかもしれない。
それはトラさんが秋一族の血縁についてこういっていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
トラ「あ〜アンナちゃんはシェパードのカニスなのか。本当かどうか知らねえけど親戚の可能性もあるんだな」
シアン「秋一族とシェパードが…?」
なんだその話は…秋田犬とシェパードが親戚なんて話、聞いたことないぞ?
トラ「いや、俺もほとんど信じちゃいねえんだけどよ」
トラさんのご先祖様から言い伝えでは、秋一族は昔、戦うことに特化したカニスと子供を作りより強いカニスを作ろうという計画があった…とか。その中にはマスティフやジャーマンシェパードもあったそうだ。
トラ「ただよ…なんかおかしいんだよな〜この話」
シアン「なんでですか…?」
トラ「シアンもそうだがマットみたいな…そのなんだ…あんまり言いたくねえけど血が色々混ざってるカニスにはそういうのないんだけどよ。俺たちみたいな一族がある種族には一応掟があってな。あんまり他種族と結婚するなって言われてんだよ。するなら立ち耳、巻尾みたいな容姿が似ている種族にしろって。でもよ?その掟があるのにさっきの昔話はある…掟が先か、昔話が先か。どっちが先に出てきたのかもわからねえし、この話、他の一族にも似たような話あるんだよな…だからよくわからねえから信じてねえ」
確かにおかしい。俺がいた世界の犬の話ならその犬種の特徴を守るためとか理解はできるがなぜこの世界のカニスにまでそんな掟があるんだろう?
いや、そもそも秋一族って名乗ってるがその一族名は本当に秋田犬から取ったんだろうか?ジャーマンシェパードもそうだがなぜ日本やドイツの地名がこの世界のカニスの種族に入ってる?
トラ「話が外れちまったな…アンナちゃんとうちのシュウが仲良くなるのはいいことだが…シアンいいのか?」
シアン「…?何がですか?」
トラ「だってアンナちゃんは男の中じゃシアンにだけ心開いてたのによ〜他の男にも心開いたら妬いちまうもんじゃねえか〜?」
シアン「そ、そんなことないです!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そう、そんなことはない。
今はそんなこと考えてる余裕なんてないし、アンナがいろんな人と仲良くなるのはとてもいいことだ。
それにシュウとアンナがこれからどう発展していっても俺には関係ない話だと思うし。
…話を戻そう。
最前列と最後列を大人の男たちが囲むように警戒し。アンナが追跡、俺とシュウでアンナの周りを警戒、そしてその後ろにカーネにソラ、それにマコトやみんなのお母さんたちがついてきている。女性陣は主に休憩などの時の支援が役割かな。
完璧とはとても言えないが、適材適所に配置できているとは思う。
あとはこのままあの人の匂いを辿り、ドワーフの村まで何も問題なく進めればいいんだけど…
ソラ「やあだあああああああお兄ちゃんと一緒にいる!」
早速問題発生。
ソラがぐずり出した…あれからスクスクと育ち、お兄ちゃん子になってくれたのはとても嬉しいのだがこれから出発という時にこれは困った。
俺は妹にはとても弱い。基本わがままを言われたら聞いてしまう。
カーネ「だ〜め!お兄ちゃんはやることあるの!わがまま言わないで!」
ソラ「やあだああああああ!」
おんぶしながら進むてもあるが、流石にそれは体力をかなり消耗しそうだ。
俺にもやるべきことができた以上、足を引っ張るわけにはいかない。
流石に兄バカは今は自重しなければならない…
シアン「ソラ、ごめんね。休憩の時とかにいっぱい遊んであげるから今は我慢してね」
ソラ「うううううう」
納得してない様子。困ったなぁ…
ソラ「じゃあ、お兄ちゃんの服一枚ちょうだい」
え?リオンから服はもらえたがそんなに枚数持ってるわけではないんだけど…
けどそれでグズつかなくなるならいいか。
にしても何に使うんだろう?着るのかな?
ソラ「今着てるのがいい」
シアン「えぇ…」
なんだろう…ちょっと嫌になってきた…けどこれでおとなしくなるならいいかと、
今着てる服を脱ぎ、着ていた服をソラに渡す。するとソラは…
ソラ「スンスン…お兄ちゃんの匂いがするぅ〜」
シアン「いや、待って!匂い嗅ぐのはなんかすごい恥ずかしいからやめて!」
もしかしてうちの妹は変態になってしまったんじゃないか?と不安になる。
カーネ「これはしょうがないの。小さい子が懐いてる相手の匂い嗅いで落ち着くなんてよくあることなんだから。まあ普通はお父さんの匂いがいいはずなんだけどね〜」
何それ?犬が飼い主と離れたら泣き始める分離不安みたいなもの?
というかマットがなんかすごい落ち込んでる。
マット「シアンって、俺に似てるけど女の子と懐かれるところは似てないね?」
こんな時に何いってんだろうこの父親は…?懐かれるっていうけど実の妹なんだから別に変なことじゃないでしょ?
カーネ「え、やだ…マットに顔がそっくりのシアンが女たらしになったの想像したらなんかすっごい嫌だった…絶対やめてね?」
俺が女たらしになんてなれるわけないから安心してください。
アンナ「私もそれ欲しい」
シアン「ああ!もう!これから出発って時に何いってんの!?もう!ふざけるのは終わり!ソラもお母さんと一緒に後ろ行ってね!」
全く!みんな緊張感なさすぎ!しかもアンナまで悪ノリして!いつからそんな子になっちゃったんだ!
もう出発するのになんか変なテンションになっちゃったよ!全く!
シアン「すぅ…はぁ…」
一旦深呼吸し気持ちを落ち着かせ、後ろを振り向く。
後ろにあるのはなんの飾り気もないただの洞穴。
この森のどこにあるともわからないこの洞穴にもう一年以上いたんだ…俺たちは。
あのとても怖い夜から逃げ、流れ着くように身を隠したが、ここがなかったら俺たちは全員森でのたれ死んでいたかもしれない。
そう考えれば本当にありがたい場所だった。
バイバイ、そしてありがとう。第二の故郷。
もうここに来ることはなさそうだけど、もし俺たちみたいに逃げ迷った人がいたら、助けてあげてね。




