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親の背中、子の背中

誓断輪廻せいだんりんね 転生した異世界で課せられた転生者たちのルール『人殺し、死、自殺』


カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称

また時は流れ、だんだんと日差しは暖かくなり、南から吹く強い風が春の訪れを知らせてくれる。


門出の春、という本来なら新たな出会いなどの嬉しい言葉もあるが、俺たちには少し厳しい門出になりそうだ。


その理由が…


マット「魔熊(まゆう)と鉢合わせる可能性がある?」

ネス「そう…あくまで可能性だけど…」


アンナの追跡訓練とは別に、洞穴から離れた場所にあるリオンの匂いを追跡していたネスおじさん。そのおじさん曰く、魔熊と思しき痕跡がリオンの進んできた道の導線に残されていたらしい。


しかも最悪なことに、その魔熊の痕跡は真新しく、どうやら通常通りの冬眠を行なっていない可能性が出ている。


ネス「もし、あれが本当に冬眠してなかったとしたら…飢えのせいで相当気が立っているはず。出会えば対応できるような相手じゃないぞ?兄貴」


マット達、大人は今まで狩りで生計を立ててきたプロだ。

そのマット達ですら熊は対応できるような相手はではないと言っている。


数ヶ月前村が襲われた時、男連中は狩りにでていたから武器を持っていた。

だがその武器だって消耗品だ。村にいた時に武器の手入れをしてくれていたのは人間たちで今この洞穴に武器の手入れをできるものはいない。だからあの時持っていた武器はもう使い物にならないほどボロボロになってしまった。そして今俺たちが使っている武器は硬い木の棒と魔獣から剥ぎ取った牙などの骨しかない。小型の魔獣なら狩れるが熊相手は無理。


熊には牙もあるし、相手を引き裂く爪だってある。

手入れのされた鉄の武具でもあれば拮抗できるかもしれないが、膂力と体力、それに防御力だって圧倒的に差がある。そんな相手にその辺のものを活用するだけで勝てるわけがない。


もうすぐ出発しようとしていた時に発生した新たな問題。

どうしてこう、一難去ったらまた一難が現れるんだろう…


けれどどうする?俺一人ならヤケクソになり出発の選択もできるが、みんながいたら軽率な判断はできない。軽率な判断でみんなを巻き込んでしまったら…俺は死んだじいちゃんに顔向けできない。

けどここでのリーダーは俺じゃない。全て決めるのはリーダーの役割。


マット「いや、予定は変えない。ここで出発を遅らせても、おそらくジリ貧だから」


やっぱり俺とこの人(マット)は違う。

どんな局面に直面した時でもちゃんと冷静な決断ができる。

これがリーダーの資質、マットを見ていると本気でそう思う。


トラ「実際出会っちまった時のことは考えてんのかよ?」

マット「あるよ」

シュウのお父さんであり、秋一族(秋田犬)のカニスであるトラさんからの質問にマットは即答する。


トラ「具体的にどうすんだよ?」

マット「今は言えないけどね」

トラ「……お前まさか」


ちょっと。いや、だいぶトラさんの声に怒りが混じっている。それで俺も察してしまう。マットが考えてる作戦を…


トラ「お前の親父さんみたいに犠牲になろうってんなら却下だ。この集団のリーダーはお前で、お前が進むって決めたんだ。自分で引っ張ってきたんだからお前が犠牲になったら引っ張られた仲間はどうなる?いい加減やめろ」


マット「じゃあどうする?進む以外道はないよ?それともこのままここに留まっている?トラが一番知ってると思うけどもう獲物になりそうな魔獣はここ一帯にはもういないよ?定住先を一旦変えてもいいが、せっかくシアンが見つけたドワーフまでの道標になるあの男の匂いが消えてしまう。保留してもいいことなんてないよ?なら遭遇する可能性があっても進むしかないと、俺は思う」


トラ「話がちげえだろ!犠牲にならない手段の話だろうが!お前のそういうとこほんとムカつくわ!おい!ネス!カーネ!お前らからもなんか言え!」

ネス「ごめん…無理。兄貴はもう進むって決めてる…俺に説得は無理」

カーネ「自己犠牲はダメだって!いつも言ってんでしょ〜!!!」


カーネはマットの服を掴みマットのことをグワングワン横に振っているが、肝心のマットの表情は全く微動だにしていない。

マットが自己犠牲になることは俺も反対だが、マットの言っていることも一理ある。

多分ここで保留しても何もいいことはない。


マット「シアンはどう思う?」

シアン「えっ!?」

ここで俺に話を振るか!?俺はまだ見た目小学生程度の男の子だぞ!?


唐突に自分に話題を振られテンパってしまいオタオタしてしまう。


カーネ「シアンは確かに賢い子だけど、そんな大事なこと聞かないでよ!」

賢い…とは自分では思っていないが、それはそうだ。そんな大事なこと小さい息子に聞くな!


マット「でも親父も言ってたけどシアンは俺なんかよりも賢いよ?」

シアン「ッ…」


グラン『シアンは賢いな!』

じいちゃんは俺によくこのセリフを言ってくれた。

俺は転生者だから、他の子供よりも圧倒的に賢いのは当たり前なのに…

それを知らないじいちゃんはいつも嬉しそうに俺にいろんなことを教えてくれた。


火の起こし方、狩りの仕方。村や他の都市の歴史…

俺はじいちゃんの話を聞くのが好きでいつも一緒に散歩しながら話を聞いた。


マット「親父によく言われたよ。シアンは教えたことをどういう時に使うか考えながら覚えてるって、お前もシアンと同じようにどんな時でも色々考えろってね。そのおかげで俺はみんなをまとめる立場をもらえるようになったんだ」


そんなのおかしい。俺はあなたの背中を見て、あなたのような男になりたくて、あなたを模範としてきた。それなのにあなたは俺の背中を見ていたってこと…?


マット「だからシアンは今どんなことを考えてるか教えて欲しい」


改めて、俺はこの人を尊敬する。

自分は子供のおかげで成長したって、みんなの前で告白できる大人がどれだけいるだろうか?それに子供からもちゃんと意見を聞こうとする姿勢。

普通なら親としてのプライドが邪魔して、子供に意見なんて聞こうとしない。

だけどそんなプライドよりも、解決策の方が大切なんだ。


ああ、なら…ちゃんと答えなきゃ。


シアン「お父さんの意見には賛成する。ここに長く居ても、せっかく保存しておいた食料を消費するだけで生活はどんどん苦しくなり、いざ出発したいときに備蓄が不足していたらまた狩りをして、の繰り返しになると思うから」


自分でもわかってる。この受け答えが小学生くらいの男の子が答える内容ではないと。でもマットは息子の俺がそのくらい答えてくれると信じてくれている。


村が襲われたあの夜から、年相応の子供のような演技はしないようにしていたけど、これからは聞かれたらちゃんと自分の考えを偽ることなく答えるようにする。

変な子供だと、周りには気味悪がられるかもしれないが、変なプライドを持たずに息子に問いかける父親に対して、それが誠意というものだと思うから…


シアン「ただ、囮になる案は大反対。お父さんがいなかったらみんなどうすればいいのかわからなくなる!それに俺はもうじいちゃんが俺とお母さんを逃がそうと戦ってるのを見て、本当に苦しかった。だからもうそんな思いさせないでよ!」


カーネ「そうだそうだ!バカバカバカ!残される方の気持ちにもなりなさいよ!ソラなんてまだ一歳にもなってないのに!あなたがいなくなったら私たちどうすればいいのよ!」


カーネがマットの胸に飛び込み、ポカポカとマットの胸を殴っている。

俺も感極まって、ちょっと泣いてしまった。


マット「ごめん。犠牲になるなんてもう考えないから…シアンもカーネも泣き止んで…」


ネス「おぉ…いつも一度決めたら曲げない兄貴が…流石の兄貴もこの二人には弱いか…」

トラ「バカ言ってんじゃねえよ当たり前だろ?お前も早く結婚しろ」

ネス「今ここでそれいうかね…」


ネスおじさんとトラさんがなんか言ってるけどよく聞こえない。

そうだよ。あなたがいなかったらみんな迷っちゃうんだ。

だから犠牲になんて絶対にならないで。俺も一緒に、解決策考えるから…



けど実際、魔熊に出会ったらどうする?倒す武器もない状態で…?

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