コミュ力
誓断輪廻 転生した異世界で課せられた転生者たちのルール『人殺し、死、自殺』
カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称
シアン「ごめんなさい」
みんなの視線が気にはなるが深々とマコトに頭を下げる
マコトとの付き合いも2年くらいになるがマコトが女の子だった知らなかった
今に思えばそもそも性別を気にしたこともなかった
だけどそれは相手を傷つけることに変わりはない
俺のデリカシー不足
なら誠心誠意謝るのがスジだと思う
マコト「なんで謝ってるの?」
マコトは怒っていない。むしろ俺がなぜ謝罪しているのかわかっていない様子
シアン「だって…今まで男の子だと思ってたから」
マコト「そうなんだ?」
あれ?これはもしかしてあれなのか?性自認が自分でもよくわかってない的な…
マロ「あ〜ごめんねシアンくん。マコは自身そういうのよくわかってないみたいなんだ」
マコトのお父さんのマロさんが横から声をかけてくれる
カーネ「そうだったの?私もそれは知らなかった〜え?じゃあ今度から男の子として接すればいいの?」
マコト「う〜ん…」
自分がどっちだかわからないから男女どちらとして接してほしいかもわからないんだろう
頭を抱えたり、たまに首をカキカキしたりして見るからにストレスが溜まってるような仕草をし始める
シアン「マコトが嫌じゃなければ」
これは言っていいのだろうか?性別を間違えて覚えていたのは俺であり
そんな俺がこんな都合のいいことを言っていいものなのか?
シアン「今まで通り接するのでもいい?」
つまり男の子、女の子とか関係なく『マコト』として接するという提案
周りから『今更変えるのめんどくさいから』提案してるんじゃないかと思われないだろうか?
だけど今更女の子扱いして距離を取る方が俺はおかしいと思うし
男の子扱いするのもなんか違う気がする
ならば今まで通りの距離感で接することの方がいいんじゃないか?と俺は思う
これは俺がマコトの立場だったらそう思うかもしれないというだけであり
マコトがどう受け取るかわからない
もしかしたら今まで通り普通に話すことはもうできないかもしれない
だけど
マコト「今まで通りがいい!!」
と元気よく返事をしてくれた
良かった
ならマコトの望み通り、態度を変えたりしないで今まで通り仲良くしよう
だって俺たちは幼馴染であり…数少ない同年代の生き残りなんだから
リオン「ふんふん…なるほどな…これは僕も悪いわな…ごめんな!《《マコっちゃん》》!それにシアンくん」
いきなりブツクサ言い始めたかと思えば元気よく謝ってきたが
この人がなにに対して謝ってるのかさっぱりわからない
それよりも
マコト「マコっちゃん?」
リオン「そ、マコっちゃん。お父さんもマコ呼んどったしええやろ?」
マコト「うん。別にいいよ」
ほんの1時間くらい前にまともに会話した相手ともう愛称で呼んでいる
コミュ力の高さに驚くが多分この人からしたら普通のことなんだろう
仲間たちと会話してるのを見ていてわかる
この人はカニスに対して偏見がない
俺はカニスとして転生したからみんなのことは仲間だと思っているが
この人は人間のまま転移している
それなのに同族ではない相手ともなんら遠慮なく、まるで人間を相手にしているように普通に会話をし楽しんでいる
コミュ力が高いわけだ…相手に気を使わず、偏見も持たずに接しているのだから
俺には到底真似できない…
マコト「ねえ。ボクのことはもういいからさ?ご飯食べようよ」
確かにもう夕暮れ時だ
リオン「あ!!なー?なー?そういえばもう一つお願いしてもええ?」
マット「何が言いたいかはわかる」
リオン「流石やん!僕にもご飯く〜ださい!」
……うん。真似できない
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夕飯
みんな一緒に焚き火を囲み焼いた肉を食べている
味付けなんてないただの肉だがリオンだけ塩のようなものをつけている
リオン「お肉大好き〜せやけどやっぱお米ほしいやんな」
マット「そんなもの高価なものはないよ」
リオン「知っとるよ。ただの気分の問題や」
結構警戒してたはずのマットですら、もう仲良くなっているような気がする
もうこの人のコミュ力について考えるのやめよう
カーネ「ねえ?あなたなんでこの森を普通に歩いてるの?あの馬がすごいの?」
あ…その疑問はあったことを忘れていた…その話はちゃんと聞いておかねば
リオン「あの馬もすごいけど僕もものすごいで」
カーネ「そうなの?」
マット「すごい…だけでこの森を歩けるとは思えない。普通の人間なら魔獣に襲われて死ぬか、それか食べるものにありつけづ餓死するかどっちかだが?」
リオン「なんでやろ?不思議〜」
あからさまに誤魔化そうとしているせいでみんなの視線がリオンに突き刺さる
リオン「あはは、冗談や冗談。ほら、前に弓矢使ってたやろ?あれでバシュンや」
カーネ「なら今日もそれでよかったんじゃないの?」
リオン「あ〜今日はあかんねん」
………今日何回目だろう?この人から『今日は』って聞いたのは
何か事情があるのか?
シアン「なんで今日はダメなの?」
聞くか聞かないか迷ったが何度も聞いていたら理由が気になる
リオン「そういう日やから」
答えになってない気がする…けどあんまり刺激したくないし…
カーネ「答えになってないじゃない」
あ、まずい…やっぱりこの質問は良くなかった気がする
リオン「なんや奥さんやらしいな?そんなに僕のこと知りたいん?」
マット「ッ!?」
あ…せっかく警戒心を解いたマットがまた警戒心マックスになってしまった
カーネをリオンから隠すように抱きそせる
リオン「あ〜あかんあかん。いつものノリやってもうたわ。冗談や冗談!この話題は堪忍してください!」
そういうと手を合わせ頭を深々と下げる
それほど話したくない内容だろうか?
もしこの森を踏破できるほどの能力があるとしたら自慢したくなるはずだが…
マット「………食料は狩りでなんとかなるのはわかった。水はどうしている?」
カーネを抱きしめながら会話を続けるマット
なんか警戒を理由にいちゃついてるようにも見える
リオン「水?あ〜それならこれや!みてみて〜」
と立ち上がり馬の方に向かう
そして馬の鞍に括られた革状の袋のようなものを外し持ってくる
なんかアニメとかでみたことあるなあれ
リオン「じゃじゃ〜ん!」
マット「皮の水筒だね?それが?」
リオン「うわ、リアクションさぶ!いやそうなんやけど持ってみい?」
マットが水筒を持った時、中から何かが動く音がした
マット「何か入ってる?」
リオン「せやねん!中に入ってるのがこの石!むっちゃええよこれ!」
リオンが取り出したのは水色の綺麗な石
宝石か水晶だろうか?
リオン「この石をな、この布で巻くと〜原理はさっぱりなんやけど水が滴ってくんねん!それを利用して〜水筒の中に入れとけば無限に水を確保できるちゅうわけ!な!むっちゃええやろこれ?」
す、すごい!ここにきてやっと異世界らしいアイテムのようなものをみた気がする
カーネ「え〜!すごい!なにそれ!聞いたことない!」
マット「村にもあったよ?井戸の中に落としていたらしいけど」
カーネ「え!?そうなの?知らなかった…」
マット「かなり希少らしいからあんまりみんなに話さないって親父が言ってたよ」
井戸とは本来水を汲む場所なのになんで入れたんだろう?
みんなに話さなかったってことは隠したかった?
希少性が高いから井戸に入れておけばただの地下水だと思うし
それに井戸が枯れることもないから…?そう考えれば納得いくな…あとで聞こう
リオン「これほしい?」
マット「…ほしい」
いや、それはほしいと思う…初めてみる異世界アイテムだからとか希少性があるからとかそういうのじゃない
これから俺たちは森を抜けドワーフのいる村まで行かないといけない
食料は保存食か道中で狩りをして補えばいいが
水を大量に持ち運ぶのは体力的にも厳しいし水源を探して道を外すのも効率が悪い
それをこの石一つで解決できるなら食料確保だけに専念ができる
喉から手が出るほどほしいはずだ
リオン「じゃ、あげる」
あまりにもあっさりとマットの手にその石を渡す
マット「なんで?俺たちはまだ何もあげてないぞ?」
リオン「くれとるや〜ん!ほらここに!」
と食べ終えた骨の残りを指差す
リオン「これで貸し借りなし!ええやろ?」
ええやろって…等価じゃないだろ…
カーネ「希少なんじゃないの?」
リオン「それがな…ドワーフの村行った時な、あいつらが掘ってる洞窟の中に何個かあってん。なんや勿体無いな!ってドワーフに聞いたら
ドワーフ『酒が湧かねえからいらねえ』
って…あいつらアホやろ?たまたま持ってた酒樽と交換せえへん?って聞いたら
『うおおおおおおお!』って二個すぐくれたわ」
希少性があるものをそんな簡単に…けど昔は地域によって価値が全然違うものとかあったらしいしそういうものなのかもしれない
リオン「どっかで売ろうかな思うとったけどあの時の酒が今日の晩御飯になっただけやし気にせんでええよ?」
気前が良すぎる気もする…
だけど今日話しただけでこの人が相手の足元を見て交渉するタイプじゃないことはわかる
その時気づいた
同じ異世界人で本当なら敵同士かもしれないのに
この人のことをだんだん疑わなくなってきている自分がいる…大丈夫か?俺
リオン「さてと〜獣の皮も手に入って〜腹も膨れた、ほなもう僕は行くわ〜うまかったわ!ご馳走さん」
シアン「あ…」
いろんなところを歩き回っているこの人にもっと聞いておいた方がいいことあるんじゃないのか…?同じ異世界人からみたこの世界のことやいろんなことを
だけどみんながいる前じゃ無理か…だからと言ってあとでみんなから離れて一人こそこそ聞くのも怪しい
だからここでお別れするしかない
リオン「じゃあねシオンく、じゃなかったわシアンくん!とシアンくんのご両親とマコっちゃんとその他え〜っと名前知らんかったわ!カニスの皆さん」
また間違えそうになってる
カーネ「また会ったときは別の形でお礼するね?」
リオン「いらんいらん!貸し借りなしいうたやん」
マコト「バイバイ、水浴びしなよ」
リオン「どういう意味それ?臭ないいうとるやんけ」
リオン「ほな、みなさん頑張ってドワーフのいるエルデの村まで行ってや〜さいなら〜」
馬に乗り森の中に消えていく男
さっきまで騒がしいくらいだったのが嘘のように静寂に包まれる
カーネ「シアン〜そろそろ洞穴帰ろう?寒くなってきた」
シアン「うん」
あの人とはまた会うのだろうか?いや、多分きっとどこかで出会う気がする
『ねえ〜そういえばアンナちゃんどこ言ったの〜?マット知ってる?』
『あれ?そういえば…いつも水浴びしてるから水浴びでもしに行ったのかな?』
『え〜流石に寒いから今日はもうしないと思うけど〜?』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ねえ?
なんやもうお戻りか?だる〜
酷い
いつものことやん
あの子危険だよ?
あの子って誰やねん?
あの黒と白の髪の男の子
シアンくん?
そう。あの子※※※※※※※だから
なんや?聞き取れんわ?
はぁ…あの子のせいだ…
だからあの子あの子言われても主語がないからわからんわ
あのカニス達に優しくしたって次会った時にはまた嫌われてるんだよ?
そんなんしらんわ
あの子…このままこの森でののたれ死んでてくれないかな…
……………
もし次会うことが会ってもあの子には近寄らないでね?
そんなの僕の勝手やんけ
だから…あの子は※※※※※※※だから危ないの
だからそれなんていうてるかわからんちゅうねん
リオン「はあ…久しぶりにめっさ楽しい夜やったのに最悪の気分やわ…」
真っ暗らな夜の森を動いているのは馬とその上に乗る男のみ
空には満天の星と糸のように細い二日月だけが浮かんでいた




