表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/43

匂い

誓断輪廻せいだんりんね 転生した異世界で課せられた転生者たちのルール『人殺し、死、自殺』


カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称

リオン「なんやねんキミ、いきなり失礼なやつやな」 マコト「だって臭いもん」 リオン「臭ないわ!めっちゃええ匂いしとるやろ?」


リオンから発する匂いなんて全く気にしていなかったが、マコトに言われて意識を向けると、少し離れている俺でも不快に思うくらいのきつい匂いがする。この匂いは…


リオン「多分これちゃう?この香水」 男が巨馬の鞍に括り付けている鞄から取り出したのは手のひらサイズの瓶。 栓はしてあっても、犬並みの嗅覚を持つ犬の獣人(カニス)にはその匂いは強烈だ。


香水なんて、人間の時はそんなに不快だと思うことはなかったんだが、犬並みの嗅覚を持つとこんなにもきついのか…


マコト「ああ!それ臭い!嫌い!」 リオン「なんやワンコは鼻がええのは知っとるけど、香水ってそんなあかんのかい」


多分あの男が持っている香水の匂いは柑橘系だ。犬は柑橘系の匂いは不快に感じると聞いたことがあったが、これほどとは…。なんていえばいいんだろう?とにかく鼻が痛い。しかもリオンから感じる不快な匂いの正体はそれだけじゃない。


シアン「あ、あと煙の匂い?もかなりします…」 リオン「煙?あ〜それはこれやね」 男が嬉しそうに胸元から取り出したのは一本の棒のようなもの。いや、棒ではなくて細い筒だろうか。


リオン「ンフフ〜ええやろ〜これ?」 と男は目の前でその筒をフリフリ振ったり、軽くキスしたりしているが、一度も使ったことがないそれが、果たして上等なものなのかどうかわからない。


ただその筒の形と煙の匂いで、その道具がなんのために使われるものなのかはわかった。男が持っているのはキセル。タバコを吸うために使う喫煙具だ。


タバコと香水の匂いのダブルコンボは、犬の嗅覚にはきつすぎる。 多分使用しているリオンは何とも思ってないと思うが、俺たちには異様な匂いのオーラを纏っているようにも見える。


リオン「タバコが君たちの鼻にはあかんことは流石に知っとるから今は吸わんけど、犬の獣人(カニス)はあれやな?酒もあかんのやろ?何を生きがいに生きとるん?」 シアン「それは…」 マコト「肉」 人それぞれ嗜好があるのだからわからないと答えようとしたら、マコトが間に入って答えていた。まあいいか…こんなことでこの人と長話してもしょうがないし…


リオン「肉かぁ〜確かに肉はええなぁ!僕も肉食いたなってきたわ〜前にいた街でな?ごっつ旨い肉の塊食べたんやけど…それ食べて、酒飲んで、食い終わってからの一服。あれができんなんて犬の獣人(カニス)かわいそやなぁ〜」


ニヤニヤしながらリオンは肉の旨い焼き方や食べ方をマコトに説明し始めている。 なんというかこの人は変な人だな… 会って間もない少年に旨い肉の食い方を自慢するように説明するなんて… そんなことをするもんだから、マコトが想像してしまい、ぴょんぴょん跳ね始めたぞ…


……しかし、マコトに言われるまで意識してなかったが、この人の匂いはきついな。 しかもこの大自然の森の中ではかなり異質…意識したらどこを歩いてきたかわかる気がする。しかもこの匂い、雨が降ろうと残る気がする。天然な果実から抽出した香水ではなく、何か混ざっているのか?


………あれ?今俺の頭の中に何か思い浮かんだ…だけどその何かがまだはっきりと思い浮かばない… 冷静になれ俺。今リオンに対して思ったことを思い返してみろ。


匂いがきつすぎる。うん。その匂いは森の中ではかなり異質。そうだ。 どこを歩いてきたかわかる…雨が降ろうがこの匂いは残る…?


シアン「っっ!?あの!!…あなたってどこからきたんですか?」 リオン「どこから?森やん」 そうじゃなくて!!


シアン「森に入る前です!街がどうとか言ってましたよね!?」 リオン「街は随分前やで?俺がこの前にいたのはエルデの村っちゅうとこやな」


エルデの村…今まで一度も聞いたことがない村だが。もし、その村からここまで、この人が歩いてきた道に、この人の匂いが残っていたら…? そしたら進むべき道が決まる。 目指すべき場所が決まっているなら、魔熊のこと、食料のこと、安住できる場所。 今まで悩んでいたこと全て解決できるかもしれない。


やばい。いきなり解決方法が見つかって心臓がドキドキしてる。 この人と会ってから、血の気が引いたり、興奮したり、情緒を乱されっぱなしだ。 ここは冷静になろう。この人がここにいつまでいるのかわからないし、聞ける情報も限られるかもしれない。大切なことを一つずつ…確実に把握しよう。


シアン「すぅ〜…はぁ〜。そのエルデの村ってここからどのくらいかかるかわかりますか?」 リオン「なんやいきなり?顔青めたり赤めたり忙しい子やな?ん〜?どのぐらいやろ?森に入ってから一ヶ月くらい適当に歩き回っとるからな〜?」


一ヶ月!?しかも適当に歩いてきたってなんだよ!? だめだ…そんないい加減な答えじゃここからその村までの距離が予測できない。 いや、待てまだ諦めるな。これは俺一人で判断できる問題じゃない。 だから情報だけ集めて、あとでマットたちに聞きどうするかが大切。 次は何を聞くべきだろう?


シアン「えっと…その村はどういう…」 リオン「駆け引き下手くそさんが色々考えながら聞いても鈍臭いだけやで?その村行きたいんやろ?」 シアン「ッッッ!?」 リオン「単刀直入に聞いてくれたら素直に答えたるから普通に聞きや?」


俺はやはり心のどっかで同じ異世界人であるこの人を警戒していた。 だから欲しい情報だけ聞き出そうとしたが、俺にそんな器用な真似ができるわけがない。駆け引き下手くそが小賢しいまねをすれば、イラつかせるだけだ。 ここは素直に俺たち犬の獣人(カニス)がどういう状況なのかを説明し、村までの情報をもらった方がいい。


シアン「実は…」


リオン「は〜ん。熊ねぇ?いつだか忘れたがそういやでっかい熊おったな」 シアン「え?その熊とどうなったんですか?」 リオン「弓矢ピュンって射ったら逃てったから知らへん」 なんだその軽い答えは!?こっちは生き死に関わる重要な相手なのに!


シアン「死んではいないんですよね?」 リオン「基本的に気に食わん相手か、食べるための狩りか…それ以外の無駄な殺生せえへんから死んでへんよ?」


殺してくれていた方が助かるのに!とも思うがそれはこちらの事情。 この人の言うとおり、無駄な殺生は良くない。 それはどれだけ苦しい状況でも同じだ。殺しておいて欲しいなんて、言うべきではない。


リオン「んで?エルデの村までどう行くん?勘で進む!な〜んて荒いことしたないから僕に色々聞いたんやろ?」


ここも素直に答えるか… シアン「あなたの匂いは、その…」 マコト「臭い!」 リオン「うっさいわ!」


シアン「おっほん…この森の中では嗅ぐことがない異質さを放っています。だからあなたの進んできた道を逆走すれば、もしかしたらその村まで辿り着けるかもしれない…って」


リオン「……」 リオンは目を瞑り黙りこくってしまった。何か気に触ってしまっただろうか? やはり匂いがきついからどこ歩いてきたかわかりますなんて失礼だったろうか?


リオン「おもろ〜!なんやそれ!すごない!そんなこと考えつくん?変態やん!」 シアン「変態じゃないです!」 リオン「いや、これ僕が女の子やったらキミ変態やで?」 ぐっ…確かに匂いを辿って歩いてきた道を遡ろうなんて変態っぽいけど…


リオン「なるほどね〜!おもろい!そんなおもろいこと考えてるんなら村のこともっと教えたるわ!」 何かスイッチが入ったのか、まるで子供のようにはしゃぎながら村の説明をし始めた。


リオン「そのエルデの村はな。ドワーフのおっちゃんたちの村やねん。酒と鉱石しか興味ない髭モジャで頭も鉱石でできとるんちゃうか?ってくらい堅物ばっかりやったけど案外おもろい連中やったわ。それにキミたちのお仲間の犬の獣人(カニス)もそこそこおったで?」


ドワーフ…ファンタジーでは定番の種族。確かにイメージとしてはこの男が言っている通り、髭が生えていて、酒が好きの鍛冶屋ってイメージだ。 犬の獣人(カニス)を捕まえ人間に売り払うとかそういうことをするイメージはない。 それに犬の獣人(カニス)もいるのか…共生しているのが本当ならば俺たちが辿り着いても受け入れてくれるか…?


リオン「ンフフ〜考えてることが顔に書いてあるで?そのおっちゃんたちなら受け入れてくれるわ」


もうやだこの人。この人に心理戦とかで勝てる自分が想像できない。 とにかくこのことは大人たちに報告を…


いや待て…そういえばこの人はみんなから嫌悪されていたな?…一体なぜ? 俺は異世界人だからいきなり森から現れた浮世離れしたこの人のことを警戒はしていたけど。 毛を逆立て、牙を剥きたくなるほどの嫌悪感はない。マコトだって臭いとは言っているが普通に話したりしている。 なんでこの人はあんなに敵意を向けられていたんだ?それにそんな敵意を向けていた人から得た情報をみんなは鵜呑みにしてくれるのだろうか?


せっかく希望の光が見えたのにだんだん不安になってきた。


リオン「そういえば」


ん?


リオン「あの娘(アンナ)元気にしとるん?」


あの娘(アンナ)…というのはこの人から預かったアンナのことを指しているんだろう。 この人からあの夜に預かった孤独な少女。この人に聞きたいことはたくさんある、だけどアンナが自分から告白してくるまでは詮索しないとみんなで決めたんだ。 この人から今、アンナの情報を聞き出すことはない。だから


シアン「アンナは…元気です」 とだけ答えておく


リオン「そっか!ならええわ。ちょっと不安やってん。男苦手やろ?あの娘」


その情報は知っているのか…まあ今はそれはいい。俺が考えるべきことは他にある。


ソラ「うぅ…」 ああ、ここに随分長いこといたから、今まで大人しく寝ていたソラが起きそうだ。 もうそろそろカーネの元に帰らねば… その時にみんなにこのことを報告しなきゃ、ああ!だけどその報告の仕方をどうするかまだ考えついていない。どうしよう…


リオン「もうお家帰るん?」 シアン「はい。ソラがそろそろお腹空かせてきたみたいなので」 リオン「僕も行ってええ?」


シアン「は?」


いや、犬の獣人(カニス)にめちゃくちゃ嫌われていたの忘れたのか!?この人は!?

誓断輪廻せいだんりんね 転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』


カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ