あなたの寿命を教えます
某月某日、博士と助手の青木は世紀の大発明を成し遂げた。
「よし、完成じゃ!」
「遂にやりましたね、博士!」
「ああ、長年の研究が、ようやく実を結んだよ!」
「人間の寿命は、すでに生まれたときから遺伝子によって決められているという説が、これで証明できるわけですね!」
「もちろんだとも。ただし、不慮の事故や生活習慣病による発病は、その限りではないが」
「それでも凄い発明です! この寿命計測マシーン『TENJU』は!」
「うむ。このベッドの上に三分ほど寝れば、たちどころに自分の寿命が計測されるというわけじゃ! どれ、私自身が実験台の第一号になってみよう!」
「えっ……!? だ、大丈夫ですか、博士!? もしも、余命があと僅かだと示されたりしたら!」
「青木くん、こう見えても私は三十代の君よりも健康だと思っておるぞ。研究員というと一日中、部屋の中に閉じこもっているイメージじゃろうが、ちゃんと毎日、軽く汗を掻くくらい身体を動かすようにしておるし、食事だって塩分やカロリーなどに気を遣っておる。さらには半年に一回は必ず人間ドックで健診を受けて、これまでに一度も悪いところが見つかったことなどないのだからな!」
「そ、そうですか。そこまで仰るのなら、別に構いませんが……」
「心配性じゃのぉ、君も。私はな、まだまだやりたい研究が沢山あるんじゃ! 可能な限り長生きするつもりでおるぞ! 見ていたまえ!」
良からぬ結果が出てしまうのでは、と危惧する青木に向かって高らかに宣言すると、博士は完成したばかりの『TENJU』で自分の寿命を計測してみた。
「……は、博士! 結果が出ました!」
「どれどれ……なぬっ!? きゅ、『九十九歳』じゃと!?」
「すっ、凄い! ということは、まだまだ三十年以上も研究を続けることが出来るってことですね!」
「ほれ見たか、青木くん! だから健康には自信があると言っただろうが!」
「お見逸れしました、博士」
「君も研究ばかりに没頭せず、私のように健康に留意したまえ」
「はい、そのお言葉、肝に銘じておきます」
「それにしても九十九歳とは、我ながら驚きじゃ……何だか、急に研究意欲が湧いてきた気がするぞ! よーし、私はもっともっと新しい発明をするからな!」
意気軒昂にそう誓った博士であったが、青木と祝杯を挙げた帰りに居眠り運転のトラックに撥ねられ、息を引き取るまで植物状態になってしまおうとは、このときはまだ知る由もなかった。