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7.怪しむ私

 グレンは頬杖をつき、ジッと私を見ている。正直、視線の強さに萎縮する。

 おずおずとフォークをテーブルに置いた。


「あの……とても美味しいのですが、食べないのですか?」

「ああ、俺はいい」


 相手はあまり甘いのは得意ではないのかと思えた。

 やがてジールがカートを押し、扉に向かう。


 ああ、行かないで。また重苦しい空気に戻ってしまう。


 だが私の願いもむなしく、ジールは退室した。

 そしてまた二人きりになる。


 えっと、さすがに本題に入ろう。食べてばかりはいられない。背筋をしゃんと伸ばし、彼をジッと見つめる。


「――式の日取りを決めよう」


 相手がいきなり言い出したので、驚いて目を丸くする。


 えっ、いきなりそれ!?

 私たち、お互いをよく知らないのに??


 相手の台詞に度肝を抜かれた。


 驚いて目をパチパチと瞬かせる。だけど、政略結婚ってこんなものなのかな。

 お互いを知らなくても利害関係が一致するなら問題ないってこと?


「希望はあるか?」

「いえ、特には……」


 実際、自分が結婚するのはまだ先だと思っていたので、希望を聞かれてもすぐには出てこない。


 あっ、でも一つだけ困ったことがある。

 ドレスなどの準備、どうしましょう。我が家にドレスを購入する資金があるとは思えなかった。かといってドレスも準備できないとなると、申し訳なくて気が引ける。

 だが、私の落ち着きのなさを見て、相手は悟ったようだ。


「ああ。すべて準備はこちらでする」


 その発言を聞き、ホッと胸を撫でおろす。厚かましいような気もするが、なりふり構っていられない。


「君は身一つで嫁いでくるといい。なんの心配もいらない」


 真っ直ぐに見つめられ、かけられた言葉にドキッとした。


「あの、一人だけメイドを連れてきても構わないでしょうか? 昔から仕えている者なのですが」

「別に構わない」


 返答を聞き、安堵する。

 シルビアと一緒なら安心する。彼女も喜んでくれるといいな。


 しかし会話が続かない。


 年齢はいくつぐらいなのだろう。私より少しは上だと思う。

 しかし、お父さまぐらいの年齢かと思ったけど、全然違うじゃない。


 それに金髪碧眼でとても素敵だ。


 ちょっと無口だけど、まだ最初だし、これから知っていけばいいのかしら。


 その時、扉がノックされ、若い使用人が顔を出した。


「失礼します、旦那さま。スコール家から先日の投資の件で、早急に返答が欲しいと遣いの者がきています」

「ああ、わかった」


 どうやら彼は忙しいらしい。

 でも、ちょうど良かった。席を立つにはいい口実だ。


「では、お忙しいようなので、本日はこれで失礼しますわ」


 にっこり微笑んで立ち上がったところで、扉が開く。

 勢いよくジールがすっ飛んできた。


「そんな!! せっかくいらしてくださったのに、ゆっくりなさってください!!」


 ジールは隣に立つ若い使用人に、鋭い視線を向ける。


「客人が来ている時に、そのようなことを告げるべきでない!!」

「ですがスコール家の遣いの者が待たれていますし……」


 ジールは若き使用人にいらだちを見せたあと、深くため息をついた。


「すみません、私の教育不足です」

「いえ、気になさらないでください」


 ジールはすっかり恐縮している。逆にこっちがいたたまれない。


「旦那様、この日のために整備した庭園を一緒に回られてはいかがですか?」


 ジールが慌てて引き止めてくれるが、これ以上、息苦しい空間にいるのは私もつらい。

 

 これはもうさっさと退散した方がいい。


「いえ、今日は顔合わせということで。また日を改めますわ」


 そっとソファから離れ、エントランスフロアに向かった。


「私が気の利かないばかりに、ルシナ様を早々に帰す羽目になるとは……。執事頭失格です」


 しょげている彼を励ます。


「そんなことないです。それに、忙しいのに時間を作って下さったグレン様にも感謝いたしますわ」


 グレンに顔を向けるが反応が薄い。いまいち感情が読めない。


「では、失礼します」


 来た時と同じ、使用人総出で見送られ、屋敷をあとにした。

 馬車に乗った瞬間、ぐったり疲れが出て、座席に深く腰掛けた。


「上手くいくのかしら、結婚(これ)


 正直、想像以上に見た目の麗しい相手だったのでびっくりした。同時に相手との意思疎通のできなさにも驚いた。


 でもやり手の実業家って話だったから、頭は切れるはずよね? 会話も上手だと勝手に思い込んでいた。


 思い返してみると、まともな会話をほぼしていない気がする。

 もしや政略結婚の相手と仲良くする必要はないとか思っている?


 いまいち彼の考えが読めない。


 帰り際、ジールが教えてくれたのは、グレンは二十二歳。私より少し年上だった。

 私が屋敷にくるこの日を、心待ちにしていたという話だったけど、怪しいものだ。


 やはり上手い話など、そんなに転がってはいないのだ。

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