エピローグ
「俺も飲む――!!」
「俺も、俺も――――!!」
シドとタッグも名乗りを上げ、さっそく皿に盛りつけた。
「うめぇ、うめぇよ、最高だ」
「ああ、これぞ、女神の味」
感動しながらもスープを飲み干してくれた。クロード船長がスッと近寄る。
「お前ら、勝手に始めてるんじゃねぇ!! まずはグレンの話を聞け!!」
軽く怒られていたので笑ってしまった。
グレンはグラスを手に取り周囲を見回すと、声を張り上げた。
「今回の航海が無事に終わり、とても嬉しく思う。皆、よく無事に戻ってきてくれた」
大きな歓声が上がる。
グレンが口を開くと場が引きしまる。持って生まれた彼の魅力の一つだろう。
「加えて、俺の妻ルシナが世話になった。その礼と、皆をねぎらうためもあり、この場をもうけた」
グレンの挨拶を皮切りに、ビールの樽が運ばれてきた。
「酒もたっぷり用意した。妻のルシナも料理をふるまう。皆、今日は好きに楽しんでくれ!!」
手を叩き、一気に盛り上がる船員たち。
やっぱりお酒が一番嬉しいのかしら。
皆の喜ぶ顔を見て微笑んでいると、クロード船長がボソッとつぶやく。
「俺の妻、俺の妻って連呼しすぎだろう」
クロード船長の突っ込みに思わず笑ってしまった。クロード船長は私の顔を見てニヤッと笑う。
「どうやら、俺のアドバイスは効いたみたいだな」
「はい、おかげさまでありがとうございます」
クロード船長が素直になって話をすることが大事だと気づかせてくれた。
「良かったな」
浅黒い肌にフッと見せた微笑みは、大人の余裕を感じさせる。
私もつられて微笑んでいると、グレンが近づいてきた。
「おっ、きたな」
クロード船長が楽しそうに片眉を上げた。グレンはクロード船長をジロリとにらむ。
「そんな顔するなって」
両手をヒラヒラさせ、グレンをからかって楽しんでいるのだろう。
二人は昔からの知り合いみたいだけど、いつか二人が仲良くなったいきさつを聞いてみたいな。
「じゃあ、俺はあいつらと飲むか!」
クロード船長はグラスを片手に盛り上がっている場へ向かう。グレンは隣にきて、そっと私の肩を抱いた。
「楽しんでいるか?」
「ええ、とっても!!」
皆が楽しんでいる雰囲気を肌で感じることができて、とても嬉しい。
「スープも好評みたいで、皆が喜んでくれたし、良かったわ」
「そうか。ルシナが嬉しいなら、俺も嬉しい」
微笑むグレンの笑顔がまぶしくて、ドキッとしてしまう。
「今日で感じたのだけど、このお店、今はスイーツがメインだけど、船員の人たちも気軽に寄れるお店にしたいな、って思ったの」
私の申し出にグレンは片眉を上げた。
「陸に戻ってきた彼らに、美味しい食べ物を提供したいと思って。それでね、スープを定番メニューにしたいかも!」
アルベール家にいた頃、父の事業が失敗し、賃金が払えずに料理人を解雇せざる得なくなった時がある。その少しの期間、料理をしていた。その経験が役立っているなんて、不思議な気持ちだ。
でも人生に無駄なことはないのだと、身をもって感じている。そう、私の経験は無駄ではなかったのだ。
すべてグレンと出会ってからいいように導かれている。
「本当は経営を学ぶために任せたのだが、ここはルシナの店だ。好きにするがいい」
「本当?」
嬉しくなり、微笑んだ。
「私もたまに店に出るし、メニューも考案するわ」
グレンはカウンターによりかかり、少し考え込む表情を見せる。渋っているのかしら?
「店もいいけど、俺のことも忘れないでくれよ」
少しすねた表情を見せたグレンに驚くも、笑いがこみあげた。
「忘れるわけがないじゃない。あなたは私のーー」
恥ずかしくてちょっと戸惑うが、勇気を出して口にする。
「大事な旦那さまなんだから」
グレンはあっけに取られるも声を出して笑う。
「かなわないな、ルシナには」
そっと手を取られ、ギュッと握りしめられた。
「ありがとう、グレン」
「礼を言うのはこっちのほうだ」
改めて礼を言うのはくすぐったいけれど、素直になって口にするのはいいことだ。今回の経験を通して学んだことだ。
「ほら、お前ら。二人の世界に入ってないで!! こっちにこいよ!!」
クロード船長が振り返り、手招きする。
グレンは呆れたようにため息をつくと、私の手を引っ張った。
「行くか」
「ええ」
この先もずっとそばにいてね、グレン。
繋がれた手に願いを込めて、強く握りしめた。
****** Happy End ******
お付き合いいただきありがとうございました!