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53.向き合う決意

「街でシルビアに会った。一人でいるのを不思議に思って問いただしたら、あの店でマリアンヌと会っていると聞いた。嫌な予感がしたからすぐに向かったんだ。そしたらマリアンヌの姿があった」


 そうか、私がベンと去ったすぐあとに、駆けつけたんだ。


「マリアンヌは俺の姿を見て慌てた様子だったから、おかしいと思って問い詰めた。すると、君とあの元婚約者が元鞘に戻るとかいきなり言い始め――」


 私の手をギュッと握る彼の手は温かい。


「頭に血が上って、無理やり行き先を吐かせたんだ」


 ぬくもりを感じ、安心しきると涙がポロポロとこぼれ落ちた。


「あのね、私――」

「今は無理をしないでくれ」


 そっと肩を押され、寝るように促された。


「回復したら君の口から聞かせてくれ」


 グレンはそっと私の涙をすくってくれたので、安堵して瞼を閉じた。



 ******


 人の気配を感じ、うっすらと目を開けた。私、いつの間にか眠ってしまったようだ。


「ああ、起きてしまったか」


 グレンがそっとベッド脇に腰かけた。


「今は夜なの……」

「ああ。だいぶ疲れていたんだろう。ずっと目を覚まさなかったから、少し心配になった」


 グレンはそっと手を伸ばすと、私の頬に触れる。


「だが顔色が良くなった。安心した」


 優しい微笑みを向ける彼に胸が高鳴った。

 グレンは湯上りなのか、髪が少し濡れている。それに比べて私は――。

 恥ずかしくなってサッと身をよじる。


「ルシナ?」


 不思議そうに首を傾げるグレンに告げる。


「私、汗をかいたから……」


 湯を浴びていないので、触れられることが恥ずかしく思えた。


「そんなこと、気にしなくていいのに」


 グレンは静かに微笑むと、スッと腰を上げた。そのまま部屋を出ていく。


「お嬢さま、お待たせしました!! 入浴の準備は整っておりますので」


 しばらくするとシルビアが息を切らせて部屋に入ってきた。


「今日は特別な入浴剤にいたしました。いい香りですよ!!」


 きっとグレンがシルビアに命じてくれたのだ。


「ありがとう」


 ベッドから降り、浴室へ向かう。

 湯を浴びて、すっきりさせよう。体も心も。

 ローズの香りのバスタブに身を浸すと、心が落ち着いてくる。


「お嬢さま、湯加減はいかがでしょうか?」

「ええ、とても気持ちがいいわ」

「良かったです」


 シルビアがかいがいしく私の世話を焼く。

 ヘッドマッサージを受けながら、あまりの心地良さに目を閉じた。


 話をするなら、今よ。これまでのことを面と向かって話し合うんだ。

 そう、彼に気持ちを告げるなら今しかない。

 

 決意を込め、手をギュッと握りしめた。


 髪を乾かし、部屋に戻る途中で、シルビアにグレンを呼んできて欲しいと伝えた。

 私はベッドの脇に腰かけ、彼が来るのを待った。

 やがて控えめなノックが聞こえ、遠慮がちに扉が開かれた。

 顔を上げ、彼の顔を見つめた。


「あのね、今、話せる?」


 グレンの顔は一瞬、ピクリと強張ったように見えた。一瞬考え込む仕草を見せたが、静かに私の目を見た。


「――ああ」


 ベッドの端に移動してスペースを開けると、彼はそこに腰かけた。

 ベッドのきしむ音が部屋に響いた。


「私、あなたと話がしたいと思っていたの」


 ゆっくりと私に顔を向けたグレンを見つめた。


「グレンは昔、船に乗っていたの?」


 問いかけに一度、瞬きをした。


「ああ」


 やっぱりそうだったんだ。


「もしかして、私のお父さまの船?」


 父が失敗して負債を背負った、あの船に乗っていたのではないだろうか。


「――そうだ」


 やがてグレンは重い口を開いた。


「その時、私と出会ったことがあるの?」


 思い返すと今まで、引っかかることがあった。グレンは時折、私と出会っていた風なことを口にしていたからだ。


「当時の俺は――」


 グレンが静かに語り始めたので、耳を傾ける。


「その日食べていくのがやっとな生活を送っていたんだ」


 淡々と口にする彼の横顔を静かに見つめた。

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