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48.呼び出し

「お嬢さま~~!! 本当にご無事で良かったです!!」


 シルビアと抱き合って再会を喜ぶ。


「奥さま、お帰りなさいませ」


 ジールも丁寧に礼をとってくれた。

 使用人たち総出で出迎えてくれ、温かい言葉をかけてくれた。ありがたくて涙がでそうになった。同時に強く感じた。


 私の居場所はここなのだと。

 

 屋敷の中に入り、温かい紅茶を飲む。


「グレン様がお留守の間、マリアンヌ様が何度か訪ねて来られました」


 ジールからの報告を聞き、こめかみがピクリと反応した。

 私がいない間にグレンに接近しようとしたのだ。だがすぐにクロード船長からグレンに報告がいき、私を迎えに出たので行き違いになったのだろう。


「グレン、後日私が用件を聞いてきます」


 ゆっくりと静かに口を開く。


 そう、妹とは、はっきりと決着をつけるわ。


 グレンは私をジッと見ていたが、特になにも言わなかった。



 ******

 

「シルビア、これを出してきて欲しいの」

「はい、わかりました」


 屋敷に戻って一息ついたあと、私は手紙を書いた。宛先はマリアンヌ。

 今度は二人っきりになることはしない。この屋敷に招き入れるのも嫌だった。

 なので、人目のあるところで会うことにした。ケルトン街にある、有名なスイーツのお店。

 ここならいつもにぎわっているので、下手に騒ぐことはしないだろう。


 そして約束した三日後。グレンにはシルビアと街へ行くと告げると、特に怪しまれることもなく、送り出してくれた。


 店内は人気店なだけあって、混雑していた。予約を入れておいて正解だった。

 窓際の席に案内された。ここならあまり人に会話が聞こえることはない。

 シルビアにはマリアンヌと会い、姉妹で話がしたいと告げ、それまで街で自由にしていて欲しいとお金を手渡した。この店の焼き菓子はシルビアも好きだったはず。おみやげにしよう。

 

 それにしても遅いわね。


 マリアンヌはお金にもルーズだが、時間にもだ。

 昔から口うるさく言ってもなおらないところで、迷惑をかけられてばかり。

 

 だが、もう今後、迷惑をかけられることはないだろう。

 彼女の態度次第では疎遠も視野に入れている。

 あれだけのことをして、悪びれもない態度を取ったら、さすがに見切る。

 フウッと一息ついて顔を上げる。


「お姉さま」


 ――来たわね。


 聞きなれた声に反応し、ゆっくりと振り返る。


「マリアンヌ」


 彼女は遅刻してきたことへの謝罪もなかった。なにくわぬ顔でスッと席に座ると給仕を呼んだ。


「私にも紅茶を。それにお姉さまも、もう一杯いかが?」

「ええ、いただくわ」

「あとはこの店のお勧めのスイーツを全種類持ってきてちょうだい」

「マリアンヌ、それは食べきれないでしょう?」

「いいのよ。せっかく来たのだから、一口ずつでも味わいたいじゃない」


 悪びれもしないこの子は、やはり変わらない。

 いくら客といって、作り手のことは考えない。それにこの店の支払いだって、私が払って当然だと考えている。

 

 マリアンヌに対する怒りを燃やしていると、


「ちょっと、それ。マダム・マドランのデザインじゃない!?」


 急にマリアンヌが前のめりになった。指差した先は私のドレス。


「ええ。カリフの街から帰ってきたばかりなのでね。グレンが贈ってくれたのよ」


 マリアンヌは口を尖らせた。


「どうせ私に見せつけるために呼びつけたんでしょう?」


 あきれて言葉もでないとは、このことだ。


「マリアンヌ。ドレスよりも、私になにか言うことがあるんじゃないの」


 毅然とした態度を崩さず、はっきり言い切った。ここはうやむやにしない。

 大勢の人に迷惑をかけたのだから。


 さすがにマリアンヌはグッと押し黙った。少しは反省しているのか。どうなのだろう。彼女の態度と仕草をジッと観察する。


「船に閉じ込めて、もし私が戻ってこなかったら、どうするつもり?」

「で、でもこうやって戻ってきたから、いいじゃない」

「いいえ、よくないわ」


 怒っていたが、口調は冷静だった。


「あの場所で誰にも気づかれずに数日過ぎていたら? 私が危険な状態になったとは思わないの?」

「そ、それは――」

「船員たちが皆、良い人とは限らないわ。そんな中に女性を一人だけ閉じ込めるなんて、最悪な事態も想像できるでしょう」


 本当、皆がいい人たちだったのは、クロード船長のおかげだろう。


「なにかあったら、許さなかったと思うわ。――グレンが」


 その名を出した時、マリアンヌが表情を強張らせた。


 重苦しい空気が流れた時、紅茶と焼き菓子が運ばれてきた。


「まずは、紅茶をいただきましょう。お姉さま、落ち着いたほうがいいわ」


 あなたがそれを言える立場なのかと、問い詰めたくなる。ティーポットに入った茶葉の香りがフッと漂い、少しだけ冷静を取り戻す。


「私が淹れるわ」


 珍しいことがあるものだ。私が家にいたときは、絶対に自分から動くことなどなかったくせに。

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