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46.グレンの宣言

「なんでそう思ったんだ」 

「そっ、それは……」


 舞踏会で偶然グレンの気持ちを聞いてしまったなんて、言ってもいいのだろうか。立ち聞きしていたようで躊躇する。


「まあ、いいさ。俺の気持ちがまったく伝わっていなかったなんて、予想外だ。これからは俺らしく、攻めていくからな」

「……えっ……あっ、あの……」


 真っすぐな視線を向けられ、口ごもってしまう。


 彼はスッと手を伸ばし、私を優しく抱きしめた。


「これからも、あんたと過ごす時間はたくさんある。――離縁はしない、絶対に」

「グ、グレン……」


 優しく私を包み込む彼の胸からはドクドクと早い鼓動が聞こえてくる。その音を聞くたびに、私の心拍数も上がる。


「ドロドロに甘やかして俺しか見えないようにしてやるから、覚悟していてくれ」


 彼は完全に吹っ切れたようだ。


 しかも私のこと、あんたって……。彼は感情が素直になると私のことをそう呼ぶ。自分では気づいていないのかしら。けれど、その方が彼の本音が見える気がする。


 不思議と嫌な気にはならない。だが、ニヤリと笑うグレンからは嫌な予感がする。


「せ、攻めるってどんな……?」

「そうだな、まずは手始めにドレスを買いに行こう。あの格好で帰るわけにいかないだろう」


 確かにマルコに借りた服を、いつまでも着ているわけにもいかない。

 身軽だったから、私は好きだったけど。


「ドレスを新調して帰ろう。このカリフの街は流行りの最先端をいくと知られている。腕利きのデザイナーもいるし、装飾品も有名なんだ」

「えっ、それは……」

「好きなだけ、購入して帰ろう」


 いやーー!! それはもう結構です!! 無駄使いは大敵ですよ。


「好きなだけって、私の好きなだけじゃないでしょう?」

「もちろん、俺が満足するまでだ」


 また始まった、贈り物攻撃が。


「どうやら俺の愛情が疑われていたみたいだから、ここからも攻めていかないと。贈り物をして相手の気を惹くのも大事なことだ」


 納得したようにうなずくグレンだが、どこから仕入れた情報なのかしら。


「最初に白い結婚の申し出があったが、俺の本心は違う。本当の夫婦になりたいと思っている」


 手を取られ、真剣な表情で顔をのぞき込まれる。


「身も心も欲しいんだ」


 私は顔を真っ赤にするだけで、口が回らない。そんな様子を見て彼はフッと笑う。


「だが俺は無理強いをしない。気持ちが固まるまで待つつもりだ」


 ギュッと握りしめられた手から熱が伝わり、全身が熱くなる。真剣な彼の想いを聞き、心臓が破裂しそうだ。


「まずは朝食を取り、その後は買い物に行こう」


 グレンは握った手を、離すことはなかった。




******



「これと、そのドレス、飾ってあるぶん全部を包んでくれ」

「かしこまりました」


 グレンはすごい勢いでドレスを注文していく。まさに目につくものすべて購入する勢いだ。


「た、頼みすぎだから」


 彼の服の裾を引っ張り、止めようとするも、涼しい顔だ。


「これから屋敷に戻るにも着替えは必要だろう」


 だからといって買いすぎですからーーーー!!

 購入したドレスに着替えたあとは、彼の浪費をどうやって止めようか考えていた。

 グレンは腰に腕を回し、グッと私を引き寄せた。


「まあ、なにを着ても美しいけど」


 ポッとするような台詞も平気で吐いてくるから、恥ずかしくて赤面してしまう。

 どうしよう、どうすれば彼の贈り物攻撃を止めてもらえる?

 うんと考えたあげく、彼の腕を勢いよく引っ張る。

 グレンの耳に口を近づけ、小声でそっとお願いする。


「グレン、もう帰りましょう」


 彼はゆっくりと私を見た。


「早く屋敷に戻りたいの。シルビアも心配しているだろうし……お願い」


 上目遣いで彼に懇願する。

 きっと皆が心配している。早く顔を見せて安心させたいという気持ちが強かった。


「わかった」


 グレンはスッと立ち上がると店主に言った。


「今日頼んだ物は、すべて屋敷に届けてくれ」

「かしこまりました」


 良かった、帰る気になってくれたみたいだ。店主は思わぬ上客に上機嫌だ。

 店から出るとグレンがそっと肩を寄せてきた。


「そうだな、帰りたいのに気づかなくてすまない」


 どうやら気遣ってくれるらしい。


「俺ばかりが舞い上がってはしゃいで……」


 ちょっと反省しているのか、力なく笑うグレンの手をパッと取る。


「ううん、その気持ちは嬉しい。だけど、早く屋敷に帰ってゆっくりしたいの」


 グレンは満面の笑みを浮かべる。


「あの屋敷がルシナにとって居心地のよい空間になったみたいだな。とても嬉しいことだ」

「ええ」


 グレンは馬車を手配し、そこから戻ることになった。私はマルコから借りた着替え一式を袋に入れてもらい、馬車を手配しているグレンを待っていた。


 その時、後ろからなにかがぶつかってきた衝撃を受けた。


「きゃっ」


 とっさにバランスを崩し、倒れ込みそうになる。

 つんのめったところを、グレンがパッと支えてくれた。


「ありが――」


 礼を言うやいなや、グレンが走り出した。


「グレン!?」


 前を走っていた男の子の首根っこを、勢いよくつかまえた。


「はっ、離せよ!!」

「逃げるな」


 グレンに引き上げられた男の子は息苦しそうに、足をジタバタとさせている。


「クッソ」


 男の子は私が抱えていた袋をドサッと地面に投げ捨てた。

 私は慌てて袋を拾い上げた。袋の中身は着替えだ。盗ったところで金目のものはない。だが、相手にはわからなかったのだろう。


「グレン、放してあげて」


 お願いするとグレンは渋々ながら地面に下した。

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