表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/68

39.声をかけてきた二人

 それから船長室に戻った。


「夕食の時間だよ」


 やがてマルコが呼びにきたので甲板へ向かう。

 甲板ではすでに葡萄酒片手にお祭り騒ぎだった。その様子に驚いて目を丸くする。


「出航した日の夜はいつもこうなんだ。航海がうまくいくように海の女神アーレイ様に葡萄酒を捧げ、皆でお祝いするんだ」


 酒が入っているせいか、皆が陽気になっている。

 たいまつが焚かれ、丸い輪になり、めいめいに夕食を食べている。


「はい、これ。ルシーのぶん」


 マルコは丸いパンとスープを持ってきてくれた。


「ありがとう」


 スープを口にする私をマルコはジッと見ている。


「美味しいわ」

「良かった」


 ホッとしたマルコは自分も一緒になって食べ始めた。

 正直、スープは口に含んだ時、驚いた。舌触りがドロッとしてなんともいえない香りに、初めて食べる味だった。丸いパンは今まで食べた中で一番固かった。


 食べ慣れない味だけど、せっかく準備してもらった。それに貴重な食糧を分けてもらったのだから、全部食べなくちゃ。

 固いパンはいつも以上に咀嚼すれば、なんとか食べられた。スープだって不思議な料理と思えば、まあ悪くない。

 床に直接座り込み、男性の格好をしてパンに噛りついている自分。

 グレンが見たらなんて言うかしら? 彼の驚く顔、そして反応が見てみたい気がする。


「よーマルコ。食ってるか」


 その時、背後から声がかけられた。

 振り返ると、背が高くひょろっとした男性が腕を組んで立っている。その隣には肩幅がガシッとした筋肉質の男性がいた。どちらも私と同じ年齢ぐらいだろうか。


「ちゃんと食べてるよ」


 マルコは返答し、私に顔を向けた。


「ルシーに紹介するよ。シドとタッグ」


 なんだか異様にジロジロ見られている気がするんですけど……。

 彼らは私にぶしつけな視線を送るが気にせず、ペコッと頭を下げた。


「よ、よろしく」


 これでいいのかしら?

 挨拶した途端、シドとタッグは真っ赤な顔になり、ソワソワし始めた。


「あっ、ああ。わからないことがあれば、なんでも聞けよ。このシド様が教えてやるからよ」


 シドを押しのけるように、タッグはグイッと前に出てきた。


「いや、それよりも俺に聞け。タッグだ。シドはいびきがうるさいからダメだ」

「人のこと言えんのかよ!! タッグの歯ぎしりは災害級だぞ」

「いや、おまえこそ!!」


 言い合いを始めた二人をポカンとして見つめた。


「皆さん、面白い方ですね」


 やがて笑いが込み上げてきて、思わずクスクスと笑ってしまう。


 そこでハッとする。


 いけない、私は男性のふりをしなければいけないのだ。さっき、マルコに注意されたばかりじゃない。

 ゴクリと息を飲み決意する。


「よ、よろしく頼む……ぜ」


 これでいいのかしら?


 なるべく低い声を出すように頑張ったつもりだ。

 だがシドとタッグはポカンと大口を開けている。


 私、挨拶の仕方を間違ったのかしら?

 内心焦った時、彼らはドッと爆笑した。それにマルコまで。

 なにがそんなに面白かったのだろう。


「マルコ」


 盛り上がっているとクロード船長が、マルコを呼んだ。顎でクイッと指示をする。するとマルコは立ち上がる。


「はいはーい。ルシー、もう戻るよ」


 手を取り、私を立たせた。


「えっ、もう?」

「まだここにいろよ?」


 シドとタッグが引き止めにかかるが、マルコは首を縦には振らなかった。


「船長の言いつけだよ」


 すると二人は大人しく引き下がる。


「げっ……それじゃあ、うん、しょうがないよなぁ……」

「あっ……ああ、そうだな」


 二人は渋々とうなずく。


「では、おやすみなさい……」


 言いかけてハッとする。私ってば気をつけると言ったばかりじゃない。

 またもや声を低く出すように努める。


「お、おやすみだ……ぜ」


 これで良かったのかしら。だが二人はなぜか、またもや爆笑の渦に包まれている。


「はいはい、おやすみだぜ、ルシー!!」

「おやすみだぜ、また明日な、ルシー!!」


 しかし彼らは手を振って返事をくれたので、嬉しくなった。


 船長室に戻る途中、マルコが口を開く。


「やっぱり来たか、シドとタッグ。あいつらは絶対、構ってくると思った」

「でも二人共、とても楽しい人たちね」


 私の知らない世界を知る彼ら。日頃、接する機会がないからこそ、もう少し話してみたかったな。


「男性の声を出すように頑張ったんだけど、どうだった? 私、意外に上手じゃなかった? あの二人も、上手く騙されてくれたみたいね」


 私今回で、ちょっと自信がついたかもしれない!


 胸を張るとマルコが黙った。


「…………それ、本気で言ってる?」

「ん? ええ、そうだけど」


 急に真剣な声を出したマルコは、深くため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ