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18.気遣いは不要

 朝食後、休んでいるとジールが私を呼びにきた。


「奥様、来客です」


 ジッと顔を見られ、そこでようやっと気づく。


 奥様って私のことなのね。呼ばれ慣れていないので、遅れて返事をした。


「どなたかしら?」


 誰とも約束などしていないはず。首を傾げているとジールが説明する。


「旦那様より、奥様のドレスの採寸をするように言われております」

「えっ……」

「あと装飾品なども選んでいただけますでしょうか?」


 必死に考えを張り巡らせる。


「舞踏会などあるのかしら?」

「いえ、そういうわけではなく、普段着として準備するためにお呼びしました」


 ちょっと待って欲しい。


 アルベール家にいた時、散々ドレスやら装飾品などいただいた。これ以上、なにが必要だというの。


「今は必要ないわ」


 きっぱりと言い切る。ジールは困惑した表情を浮かべる。


「ですが……」

「もうたくさんいただいているの。ちょっと彼と話をしてみるから、今日のところは帰っていただけるかしら?」


 あの人、私にどれだけ贈り物をしたのか、忘れたのかしら? 人任せにしていて、覚えていないだけじゃないの。だったら無駄遣いをする必要はないと、彼に直接伝えよう。


 そして夕食時に伝えようと思っていたが、彼はなかなか帰ってこなかった。


「きっとお仕事が忙しいのですよ。一日でも式を早めたくて、がむしゃらに仕事をしていたとお聞きしておりますので」


 ジールはグレンの肩を持つが、きっと私と顔を合わせたくないだけではないか。


 それとも、彼女……のところへ顔を出しているのかしら。アンナ・ブッセンの顔が浮かぶ。


 そこで私の愚痴を言っていたりして。


 だが、そこまで頭に浮かび、考えるのを止めた。彼がどこでなにをして過ごそうと、私には関係ないからだ。


 与えられた寝室のベッドで横になっていると、馬の蹄の音が聞こえた。帰ってきたみたいだ。


 ガバッと身を起こし、ガウンを羽織った。



 階下にいくと出迎えているジールの姿があった。グレンは彼に上着を手渡していた。

 エントランスフロアに続く階段を下りていると、グレンがふと顔を上げる。私を視界に入れると目を見開き、小さく口を開けた。


 なによ、なぜそんなに驚いているのかしら。


 ジッと見られていることに居心地の悪さを感じつつ、ゆっくりと彼に近づく。


「お帰りなさい」


 声をかけると彼は瞬きをした。言葉を発しない。


「あの――」


 弾かれたようにサッと視線を逸らす彼。


 そんなに私との会話が嫌で面倒なのかしら。地味に傷つく。だが心の内を隠し、微笑んだ。


「お話がありますの。お部屋で待っていますね」


 そう告げると彼の寝室へ足を向けた。




 ベッドに腰かけ、彼を待っているとドアノブの回る音が部屋に響く。


 シャツ一枚のラフな格好になったグレンが姿を現す。どこか気だるげな彼の姿だが、それすらも魅力的で目を惹く。なんだか見てはいけない気がして、サッと視線を逸らす。


 きっと疲れているだろう。早く話を終わらせよう。


「今日、ドレスの採寸がありましたが、帰っていただきました」

「なぜだ」


 途端に目つきが鋭くなるのは、どうしてだろう。


「私、もう十分にドレスはいただいたわ。それに装飾品も。まだ袖を通してないドレスもあるし……」


 クローゼットに溢れているドレスを見てもらえば、一番手っ取り早い気がしてくる。


 もっとも、彼が私にそこまで興味はないか。自分自身で納得する。


「私の事は心配しないで。気遣いは不要です」


 相手に上手く伝えたつもりだった。だがグレンの眉間に深く皺が刻まれた。


「妻がみすぼらしい格好では困るだろう」


 あっ、そうね。お飾りの妻ですものね。


「あなたに恥をかかせないぐらいは持っているから」


 フワッと微笑む。


「ご厚意をありがとう。でも、私には十分すぎるぐらいだから」


 グレンはなにかを言いたげに口を動かしたが、遮った。


「それじゃあ、おやすみなさい」


 まずは言いたいことは伝えたので、満足して彼に背を向けた。


 ******


 それから数日、グレンの姿は見かけなかった。仕事が忙しいとジールは言い訳していたが、もしかしたら別宅があるのかもしれない。


 その説が濃厚かしら、今のところ。


 それともこっちの方が別宅だったりして。

 ありえなくもない可能性にクスリと笑う。


 しかし毎日、広い屋敷でグレンの帰りだけを待っている日々。正直、新妻ってこんなに時間を持て余すのかしら? 


 アルベール家にいた時は賃金の関係で使用人が一人、また一人と辞めていっていたので人手が足りなく、私自身、屋敷内で動きまわることがあった。時には料理をしたり、掃除や洗濯も。大変ではあったが、毎日があっという間に過ぎていた気がする。

 

 グレンは仕事だというし、その間、私も好きに過ごしていいかしら。少しは体を動かしたいし。

 

 よし、決めたわ。


 意を決して、椅子から立ち上がった。

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