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11.胸のときめき

 舞踏会は立食形式になっていて、人々でにぎわいをみせていた。

 談笑している者や、踊っている者。皆がめいめいに楽しんでいた。

 むせかえるような香水と化粧品の匂いと熱気。あまりこういった場に顔を出さなかった私は人に酔いそうだ。


 私の手を引くグレンが急に足を止めた。

 そして腰を折り、視線を合わせた。


「具合が悪いのか? さきほどから顔が赤い」

「いっ、いえ、大丈夫です」


 見透かされた気持ちになり、慌てる。


「そうですね、お姉さまってば、少し人に酔ったみたいですね。ちょっとだけ風に当たってきますわ」

「では――」


 バルコニーへと移動しようとするグレンを、マリアンヌは遮った。


「私が少しだけ連れ出しますわ。すぐに戻ってきますから、ちょっとお待ちになっててください」


 マリアンヌは有無も言わさず、私をバルコニーへと移動させた。

 夜風が頬を擦り、火照った体には気持ちがいい。ホッと一息ついた。


 二人きりになった途端、マリアンヌが豹変した。


「どういうこと!? お姉さまのお相手が、あんなに素敵だったなんて聞いていないわ!!」


 血相を変えて私を責めてくる。大方非難したくて私を連れ出したのだろう。


「なんでお姉さまばっかり……」


 悔しそうに顔を歪めるマリアンヌ。グレンが容姿端麗だったのは予想外だった、ということか。


 だが、ここまであからさまに言われる筋合いはない。

 バルコニーのガラス窓から会場の中が見える。グレンが心配そうにジッとこちらを見つめていた。


「少し風に当たったら、良くなったから戻るわね。ありがとう」


 この場に長くいるわけにもいかない。ここでマリアンヌの愚痴に付き合うのも、ごめんだ。


「あっ、ちょっと話はまだ終わっていな――」

「挨拶に行かなくちゃいけないの。あなたもこの場を楽しんで」


 サッと別れを告げ、引き止めようとするマリアンヌをかわす。

 ガラス扉を開けて会場に戻ると、グレンはすぐに私を見つけて微笑んだ。


「具合は?」

「もう大丈夫です」


 冷たい風に当たって、少しは心が落ち着いたみたい。いえ、それよりもマリアンヌと離れたことが、精神上良かったのかもしれない。


「では行こう」


 微笑みながらスッと差し出された手を取る。


「ドレス、よく似合っている」


 急に褒められたのでドキッとした。


「えっ、ええ。グレン様が贈ってくださったおかげですわ。このイヤリングとネックレスも素敵で、ありがとうございます」


 胸に輝くパールのネックレスにそっと触れる。


「気に入ったのなら、それは良かった」


 一瞬だけ照れたようにフワッと笑う。


「俺が選んだ物を身に着けて欲しいと、ずっと思っていたんだ」


 えっ……? ずっと……?


 言葉尻が気にかかり、少し首を傾げる。だが相手は答えない。優しく微笑んでいるのみだ。

 だけど見つめられると、胸がいっぱいになる。


 私、どうしちゃったんだろう。


 さっき夜風に当たって落ち着いたはずなのに、また頬が熱くなってきた。


「さあ、行こう」


 グイッと手を引かれ、そのまま歩き出した。


 掴まれた手が熱い。意識する必要なんてないのに。

 この鼓動の早さがばれているんじゃないかと、気になった。


 グレンはいろいろな方を紹介してくれた。

 主に仕事上の仲間や取引先だと言っていたが、思っていた以上に顔が広い。何人にも紹介され、正直全員覚えている自信はない。だが、恥をかかさぬように、なんとか笑顔で乗り切った。


「さすがに疲れただろう」


 一通り紹介が終わったのか、私の顔をのぞきこむ。そして気遣う視線を投げてきた。

 その心遣いが嬉しくなり、薄く微笑んだ。


「ええ、少しだけ」


 いつもなら家族の前では我慢して本音を隠していたが、ついポロッとこぼれてしまう。

 グレンは顔を上げ、周囲を見渡す。


「ソファで休むとしよう」


 会場の隅に準備されていた一室を指さされた時、背後から声がかかった。


「やあ、グレン。ちょっといいかい?」


 振り返るとそこにいたのはグレンと同じ年頃の男性だった。

 この方はさっき紹介していただいたヤッカム様だ。二人は仕事上の関係で繋がりがあるが、話している様子を見ると、私生活でも仲がいいのだろう。


「先日の投資の件だが――」


 どうやら事業の話らしい。私が側にいたら気を遣うに違いない。


「少し、風に当たってきます」


 そっとその場を離れた。

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