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「……ここまで来れば大丈夫かな?」


 みさに引かれて辿り着いたのは、商店用テントが並んだ区画の人通りが少ない場所。テントと草原のみで道と呼べる道が無いので、今いる場所が道かは分からないが、街で例えるなら“裏道”に近い場所だ。


「別にこんな所に移動する必要なくない?」


 騒ぎから逃れる為とはいえ、態々こんな場所に連れ込む必要は無いだろう。そう思い、みさに声を掛ける。


「いやぁ、変に絡まれると面倒じゃん?セクハラ案件だし。とりまフレ登録しとこ?」


「おっけ。……どうやるの?」


「マップ拡大で私のアイコンをタッチして。それでマーク出来るから、メニューのフレンド画面から申請を送ればオーケー」


「マーク?」


「対象を選択する事。目には見えないから、内部的なやつだね。……できた?」


「ちょっと待ってね……」


 そう言うと、私は画面左上のマップをタッチして拡大表示する。そして、自分のアイコンの目の前にある青い四角アイコンに触れた。


「お、タッチすると名前が出るんだね」


 アイコンをタッチすると、そのアイコンから吹き出し画面が表示され、画面内にlv1.こがらし丸と表示された。


「自己紹介が済んでるプレイヤーやNPCは名前が出るよ。後レベルも。モンスターとかも名前とレベルが出るから、初めて見る奴はマップからマークすると良いよ」


 さらりと有益な情報を聞きながら、メニュー画面を開いてフレンドを選択し、フレンド画面を開いた。

 フレンド画面には、フレンド、申請待ち、承認待ちのタグがあり、一番最初に開かれていたフレンドタブには何も書かれていない。だが、承認待ちタグには通知が1つ入っており、承認待ち欄には「最強マン」という知らない名前が載っていた。


「最強マンから申請来てんだけど……知り合い?」


「知らない。どうせ小学生が手当たり次第にフレ申請送ってるだけだよ。……私にはきてないや」


「ふーん。……ほい、送ったよ」


 みさの知り合いでは無いという事で、最強マンからの申請を拒否すると、フレンドタグの右下にある申請ボタンからみさに申請を送る。


「お、きたきた。承認押したよ」


 するとすぐに、フレンド欄にこがらし丸の名前とレベルが追加された。次いでに、何かあるかと試しに名前をタッチしてみるが、何も反応は無い。


「……?名前タッチしても何も無いの?」


「あぁ、視界左下にチャットログがあるでしょ?そこの個人チャットが私宛になってる筈だよ」


「個人チャット?あぁ、これね。……ADチャットでよくね?」


「うん。まぁ、フレ画面からログインしてるか分かるし……」


「フレ機能って他に何があるの?」


 他のゲームなら、パーティ申請やフレンドがいるエリアにワープする事が可能だが、ヘキグラでは何が出来るのかと、みさに尋ねる。するとみさは、首を横に振って「何も」とだけ答えた。


「え?何も無いの?」


「うん、なんもない」


 どうやら、ヘキグラのフレンド機能には殆ど意味は無いらしい。ADや外部機器をを使ってチャット出来ない人向けの機能。と言えば有り難く思う人も居るだろうが、ギアチョーカーを持っていて、且つフルダイブのVRMMOをプレイするプレイヤーが、それらを持っていないとは思えない。要は、死に機能だ。それに……


「パーティ組めないとか終わってんじゃん。MMOでソロゲーとか誰得よ」


MMOはパーティを組み、戦略を立ててボスに挑むのが醍醐味の一つでもあるのに、それが無いのはMMOとして終わってるとしか思えない。


「いや、そうでもないよ?パーティ機能が無いだけで、報酬やEXPの振り分けとかはあるし。一応、開拓者組合って場所でギルド機能使えば、擬似パーティも組めるから。後、ヘキグラって突き詰めるとサバイバルゲームだから、パーティ機能が邪魔なんだよね」


「PvPvEってのは知ってるけど、サバイバルゲームなんだ。思ってたゲームと違うかも」


「でも絶対ハマるから!ちぃって結構、物資集めゲー好きじゃん?アイテム盗んだりするのもさ」


「言い方。まぁ、相手からアイテム盗んで懐を潤わせるのは、ゲーム内では好きだけど……。勿論、システム的に合法なら」


 みさの言い方に少しだけ悪意を感じたが、私は基本盗人プレイが大好きだ。短剣や身軽な装備が好きなのもその名残。現実でそういった行いをする人を外道だと思っているが、ゲームで、しかもシステム的に認められた物であれば話は別。盗む時のリスクと、“時間を掛けて集めた”という付加価値が掛かったアイテムを手に入れる快感が気持ちいい。そう思う人は、私以外にも居る筈だ。


「ちぃさん、このゲーム……アイテム盗めます!いぇい!」


 私の表情を見て何か察したのか、みさは言葉を溜めると、そう言って手を叩き始めた。


「まじ?!最高じゃん!いやぁ、短剣を選んだ甲斐があったよ!え、ちょっと、ゲームの事詳しく教えてよ!」


「めっちゃ食いつくじゃん。ちょっと引くわぁ……ちぃのそういう所少し苦手」


「盗人プレイは心が健康になるよ?こがまるもやるべきそうすべき」


「寧ろ心が穢れそう……って、悪く言うつもりはないけどね?私には合わ無いってだけで」


「別に良いよ。で、ちょっと詳しく教えてよ」


 慌てて発言を訂正するみさに対し、私は構わないからと説明を急かした。


「もう……じゃあ、前提の前提から大まかに説明してくね」


 そう前置きして、みさはhexagran dungeonsというゲームの説明から始めてくれた。


 このゲーム、hexagran dungeonsはの舞台は、6つの地形と1つの塔からなる島“ヘキサグラン”であり、プレイヤーは、この島の謎を解き明かす開拓者として上陸した者達だそうだ。ゲームの世界観設定に目を通さない私には初耳の情報だが、だからなんだと言った所だ。

 だが、ヘキグラにはストーリーというストーリーが無く、全プレイヤーの全行動によって展開が変化し、しかも、ダンジョンの出現と消滅もプレイヤーの行動によって決まってしまうという、誰も予測が出来ない仕様らしい。

 拠点……ベータプレイヤーの間でタウンと呼ばれるこの場所も、発展や衰退はプレイヤー達の行動によって変わり、NPC達の運命……命すら、プレイヤーの掌の上だそう。

 全てが全て、プレイヤーの行動によって変わってしまう……。とは言っても、人一人で変わる事はそうそう無いらしく、集団で行動を起こさないと殆ど意味は無いらしい。

 ……これが、ヘキグラの基本知識。知っておかなければ詰みかねない常識なのだそう。下手すると、投獄に監禁されて実質キャラロストもあり得るそうだ。盗みやPK程度では問題無いらしいが……。


「取り敢えずの基本知識はこんなもんかなぁ。後、さっき言った開拓者組合でクエスト受けたり、アイテムの預け入れが出来たりとか。ホームやハウス……部屋を買ったり借りたりすると、アイテムや装備が安全に保管出来るとか。生活面ではそれくらい」


「ストーリーが全プレイヤー共有なのはまぁ……って感じ。ただ、NPCをロストしないように動かないと、最悪全プレイヤーが詰みそうだよね」


「それはある。ベータの最後の方、試しに主要NPC……商人達を殺し回ったプレイヤー達が居てさ。タウンが全く機能しなくなったんだよね。預けてたアイテムも全ロス、売り買いも出来ないから職業スキル持ってない人達が詰みかけて……ありゃ地獄だったね」


「こっわ。運営はどうしたの?」


「何も。一応、タウンには高レベルの衛兵NPCが居るからそうなる事はまず無いけど、やろうと思えば出来るんだよね」


「まじか……まぁ、あったとしてもすぐには無いだろうし、別にいっか。それより、戦闘面とか、アイテムの事とか教えてよ。……あ、あれ知りたい。アイテムの耐久値とかその辺のやつ」


 私はそう言うと、固定ポケットを開いてヒカーラ草を2つ取り出した。だが、


「あれ?根っこと茎がないんだけど」


出て来たヒカーラ草には、付いていた筈の根や茎が付いておらず、葉だけの状態になっていた。それを見たみさは「あぁ」と声を漏らすと、ニヤニヤと笑みを浮かべてこう言った。


「分かる〜!私も最初は驚いたよ〜。実はね、ヘキグラのアイテムボックス全般に、“性能一律化”ってのがあってね。アイテム名が同じでも、外見や付属品が違うアイテムをアイテムボックスに入れると、性能と外見が同じになる機能があるんだよ!」


「まじで!?うわぁ〜……もしかして、ヒカーラ草を分解してたら……」


「ヒカーラ草の根とか、繊維とか。物によっては花とか、アイテム数が増えたりするね」


「増えるのは試して知ってたけど……根とか付いてるもんだと思って、そのままにしてたわ……なんで嬉しそうなの?」


 気を落としている私を見て、みさはニマニマと笑みを浮かべていた。それを見て、少しだけ顔をむっとさせるが、みさは無視して話を進めた。


「後、1つのアイテムが分裂した状態で片割れを何メートルか離したり、アイテムボックスに収納したりすると、残った片側は消滅するから気をつけてね。逆に、1つのアイテムをめっちゃ細かくバラバラにしても、耐久値が0にならなかったら消滅はしないよ。もう一つ付け加えると、生産器具で耐久値を減らすと、生産に失敗しない限り素材は残るから、上手い事やればヤバいアイテムも作れるね」


「……へぇ。もしかして、データ的に存在しない武器が作れたり……とか?」


「流石ちぃ、分かってんね!鞭とかチャクラムとか、存在しない種類の武器が作れるの!まぁ、それは耐久とか関係無いけど……。耐久が0でも残る分かりやすいやつだと、ミンチ肉がそうだね。一応、加工アイテムとして存在はするけど……。まぁ、自分で試すのが良いよ。楽しいし」


 生産系はどのゲームでも楽しい。しかも、自分の好きな物が好きな様に作れるとなれば尚更だ。


「他に必要な説明は……あ。あれだあれ、ドロップ品自動収集設定。あれ、ドロップ品が盗まれない状況ならオフにしてた方が良いよ。同じアイテムでも、例えば右足と左足の違いがあったりするし。手動生産……さっき言った生産うんたらの話に戻るけど、データに無い装備やアイテムが作れたりもするから」


「うわぁ……めっちゃ楽しそう……。てか、そこら辺の説明ってチュートリアルあんの?私、採取と戦闘のチュートリアルしかやってないけど」


「無いね。今の話は全部、ベータの時にwiki検証班が調べた情報だし。基本は自分で調べて探してねって感じ。NPCに話を聞けば分かることもあるけどね」


 聞けば聞くほど俄然やる気が出てくるのだが、どう聞いても初心者カジュアル勢お断りという雰囲気を感じる。検証班前提というか……wiki無しの完全ソロ攻略では、やはり厳しいか。


「必要な説明はこれくらいかなぁ。あ、最後に1つあるや」


「まだあんの?」


「ダンジョンの事。一番最初は一番難易度が低いダンジョンしか入れないの。草原だと確か……森と同じで“木漏れ日の洞窟”、だったかな」


「え?他の拠点と同じダンジョンなの?」


「名前だけね。構造は……私も行った事ないから分からんけど、最初の1フロアは木に囲まれた地上じゃないかな?で、地下に潜ってく感じ」


「あぁ〜……チュートリアルで行った場所と同じ感じって事ね」


「そそ。で、そのダンジョンの5フロアまで到達したら、開拓者組合から難易度が2までのダンジョンに入れる証を発行して貰える感じ。詳しくは、組合に行けば教えてくれるよ」


「おけおっけ。じゃあ、取り敢えずは組合に行く感じ?」


「うん。てか、組合に行かないとダンジョンの場所教えて貰えないし。クエスト受けた方が経験値も入るからね」


「いやぁ、ベータプレイヤー様がいると助かるよ〜」


「苦しゅうないぞ。……では参ろうか。組合はポータル広場の真横の一番デカいテントだから」


 長話を終えた私達はテントとテントの隙間から出ると、ポータル広場の方角へ歩き始める。


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