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「みんなおはよ〜。来ましたわよ、初イベント。今日は告知通り、一旦ソロでダンジョンに潜ってくよ。行くダンジョンは決めてないけど、難易度1に行くのは初心者さんにも悪いし、難易度2のダンジョンにしよっかな?」


 コレがオンラインゲームでは無くオフラインゲームであれば、弱い敵が沸く所に陣取って、人諸共モンスターを狩り尽くすのだが、流石にプレイヤー相手には可哀そうなので辞めておく。

 一応、ソロダンジョンも解放されている。プレゼントボックスの中に、そのダンジョンに行く為の転移石が配布されているので、覗く程度に一度行く可能性はあるが、2回目以降のソロダンジョン侵入は、イベント専用転移石をイベント広場にいる商人から貢献度を使用して交換する必要がある為、態々何度も足を運ぶ価値は無い。


「早速ダンジョンに行くんだけど……人が居ない場所が良いなぁ」


 難易度2のダンジョンは、今の所4箇所。

 小川せせらぐ草原の山、蛇道の洞窟、迷い霧海。そして、岩が根の洞穴。

 岩が根の洞穴は、小川せせらぐ草原の山と並んで人気のダンジョン……と言うより、他2つが圧倒的に不人気な為、消去法で人気になっているダンジョンだ。

 外見は、草原に突き刺さった岩。その岩に入り口となる穴が幾つも空いており、ダンジョン内も土気の無い岩壁で覆われた、まさに大岩の内側をくり抜いた様なダンジョンになっている。

 採取品は鉱物系が稀に採れる事と、洞窟のみに生息する植物があるくらい。私にとっては大した価値のないダンジョンだが、炭鉱夫と呼ばれる者達が、日夜入れ替わりで採掘している程だ。

 既に場所の取り合いとなっているのに、更にモンスターの取り合いが起こるのだ。考えなくても地獄絵図になる事必至だ。


「霧海の攻略を最後までしてないから、イベント次いでに攻略しよっかな。狼とか狐とか、毛皮系の素材欲しいし、短剣の素材も集めときたいし」


 この蜂針、状態異常が付与出来るのは良いのだが、いかんせんリーチが短い。元々使っていた短剣が30センチ程なのに対し、蜂針は20センチも無い。出来れば、30センチとまではいかなくても、20センチ強は欲しい所だ。


「短剣用の素材が手に入れば良いんだけど……。狼の牙とか、木剣と組み合わせれば、良い感じになると思うんだよね」


 であれば早速。いつの間にか混雑した拠点を出ると、迷いの霧海へ向かう。


 案の定、迷いの霧海はダンジョン侵入前から人気は無く、辺りを見回しても人影1つ見当たらない。これなら、同時入場を気にする必要も、ダンジョン内でプレイヤーと場所の取り合いになる事も無いだろう。これが、不人気ダンジョンの利点であり、強みだ。だが、それに気付いたプレイヤーが押し寄せる可能性もあるので、初日の早いうちに出来るだけアイテムを集めたい。

 ダンジョン内に入ると、当たり前だが周囲は白く閉ざされた濃霧。周囲には未だモンスターの気配は無いが、シカモドキは見つけ次第、倒しておきた所だ。

 残念ながら、短剣が欠けた所為でレベリングが中断されたので、レベルは1しか上がっていない。本来であれば今頃、レベル15に到達してスキルポイントも獲得出来ていただろうが、自分の失敗による結果なのだから受け入れるしか無い。


 そう、肩を落としながら走っていると、シカモドキよりも先に次フロアのポータルを発見してしまった。どうやら今回の初期スポーン地点は、ポータルのすぐ側だったらしい。


「お、ラッキー。1階層分得したぜ」


 私は早速ポータルに飛び込むと、2階層に降り立つ。とはいっても、1階層と2階層は階層が違うだけで出現するモンスターは全く同じなので、先程とやる事は変わらない。

 マップを頼りに短剣を構えながら直進し、一周して何もなければ、白紙の場所まで移動してまた直進。と、今まではしていたのだが、一周して場所を変える時、この探索方が物凄く非効率だと気付く。


「あ、これ……。もしかしてだけど、ジグザグで走った方が効率いい?頂点と頂点の間に隙間があったとしても、大した隙間にならないし、次の週の時に、隙間を埋める様にジグザグに走れば良いだけだし……」


 ジグザグに走れば、直線で走るより多少時間は掛かるものの、探索範囲が単純に2倍に広がる。それに今回のイベント、ダンジョン内に木箱が稀に出現する事があるとの事で、今までとは違いマップの隅々まで確認する価値が飛躍的に増えている。その為、僅かに隙間を作ったとしても、フロア全体のマップを埋めておいた方が得だ。


「これからはジグザグ探索の時代だね。直進なんて古すぎるよ」


 コメントを見ると、優しさなのか本音なのか分からないが、私の案を褒め称えるものが散見される。中には張り合う様に、「前から知っていた」や「それが普通だから」といったコメントもあるが、先に言ったもん勝ち。後からそんな事言われても、無知が便乗しているだけか、負け犬の遠吠えにしかならない。

 賞賛の悦に浸りながら、探索の仕方を変えて走り続けると、ようやっとお目当ての1つであるシカモドキの群れと遭遇する。

 前回、足音を立てぬ様に近付き、1匹を確実に倒す戦法を取っていたのだが、それでは効率が悪い。なので今回は、予め考えていた方法で狩りをする。ただ、成功したら効率良いな。程度の物で、成功するとは微塵も思っていない。要は、「面白そうだから試す」。


「えっと、一昨日の鹿狩りは配信して無かったよね。ん?そうそう、一昨日鹿狩りしてたんだけど、その後にちょっと面白い事考えてさ。まぁ見ててよ」


 視聴者達にそう言うと、私は一番近い場所に居るシカモドキに向かって素早く駆け寄る。

 案の定シカモドキ達は、私が駆け寄る動作に反応を示して各々散開を始める。だが、私のDexの方がシカモドキ達より僅かに高いのか、一番近いシカモドキに割と簡単に追い付く事が出来た。


「とうっ!」


 一定の距離を詰めると、私は掛け声と共にシカモドキの背中に飛び乗り、両腕両足でシカモドキの胴体と首にしがみ付く。


 ──そう、私が考えていた戦法はシカライダー。シカモドキの背に乗り、シカモドキの意思に任せて移動し続け、そのままシカモドキ達の群れに合流して、馬上……ならぬ鹿上(かじょう)からの狩りをするという物。万が一、いや、億が一にでも成功すれば、シカモドキの素材を短時間で集め放題という事になる。失敗したら失敗したでそれも良し。単にシカモドキを確実に倒す事が出来るだけなので、損は無い。


 シカモドキは私のタックルを受け、バランスを崩して地面に転がるが、不安定ながらも即座に立ち上がり、私を振り解こうと高く飛び跳ねながら移動を始める。

 視界が激しく揺れ、若干の頭痛を覚えながらも、私は何があっても離さないという強い意志で必死にしがみ付く。すると1分程経った頃、シカモドキは振り払う動作を止め、ある一点に向かって走り始めた。

 これはもしや。そう思った矢先、先程まであった複数の新しい獣道が辺りに無い事に気が付いた。どうやらこのシカモドキ、群れの元に戻る事を諦め、群れから私を引き離す為に別方向へ走り始めたらしい。まさか、そこまでの頭脳があるとは思ってもおらず、私は咄嗟にシカモドキの首筋に短剣を突き刺して動きを鈍らせ、倒す。


「まさか、囮みたいに群れとは別方向に逃げるなんて……。これじゃあ、逆浦島太郎だよ。でもまぁ、楽しかったし……いっか!」


 残念ながら、想像していた通りには行かなかったが、面白い良い経験が出来た。どうにか工夫すれば、進行方向をこちらで制御出来るかもしれないが、現状手に入る装備やアイテムでは厳しいそうだ。

 ドロップしたアイテムは肉と毛皮。そして、草食種の蹄。イベントアイテムはドロップしなかったが、地味に手に入り辛い蹄が手に入ったのは嬉しい。使い道は今の所無いが。


「お肉は捨てちゃって良くて……。シカモドキを追いかけるか、だけど、逃げてったの北の方なんだよね。それなら先に、ポータル探して次フロアに行った方が良いかな。狼も倒したいから」


 現在地は、シカモドキの群れと遭遇した場所から殆ど動いていない。であれば、下手に追いかけるよりこのまま探索を続けた方が、結果として効率が良い。そう考え、私は再びマップ埋めに専念する。


 道中、リロースネイクやキャビィに遭遇しながらも全て無視し、シカモドキの群れだけを徹底的に叩く。

 十数分が経ち、シカモドキの群れに遭遇する事3回目。慎重に動いて2匹を確実に倒してからドロップ品を確認していると、見慣れないアイテムが混入している事に気付き、リュックから取り出す。


「お、もしかしてこれじゃない?」


 出てきたアイテムは、手のひらにギリギリ収まる大きさの、丸みを帯びた麻袋だった。

 形状や大きさ的に、巾着と呼ぶに相応しいそのアイテムは、見た目の割に重量は存在せず、感触も、麻袋がそのまま硬直した様な不思議な物だった。


「地味な巾着だね。それにしても、シカモドキ相手だとかなり効率が悪いなぁ。6匹倒すだけで十数分も掛かってるし」


 勿論、道中で出会した小型のモンスターを倒していれば、ドロップ効率はグンと上がる。ただ、それらを全て無視していたから効率が悪いのだ。


「アイテム整理が面倒だから、他のモンスターは全部無視してたけど、流石にイベント中は倒した方が良さそうだね」


 キャビィであれば、素手で掴んで短剣を突き刺し続ければ、時間も掛けずに倒す事が出来る。リロースネイクに関しては、掴みかかれば逆に締め付けられるので、頭を一撃で貫き、避けられれば無視して進む手段を取れば良い。

 ただ、このフロアにいる最後の1匹。プチボゥアに関しては完全無視だ。

 奴らはシカモドキより背が低いとはいえ体力が多く、攻撃を仕掛けると突進し続けてくる厄介者なので、倒すのに一苦労するのだ。シカライダーならぬウリライダーにでもなれば、簡単に倒せるだろうが、そこまでして倒す必要があるかと問われると、首を横に振る選択肢以外ない。


「これもう、プレイヤー襲った方が楽そうだなぁ。って、我慢我慢。イベントの邪魔は流石に良くないよね。私だって邪魔されたくないんだから」


 悪魔の囁きに首を横に振りながら、天使の導きに頷く。そんな一人問答にコメント欄は、同意しながらも怖いとイジっていた。それを見て、夏休みなのにコメント欄が穏やかだと感動する。


「うんうん。みんなも人の物奪ったりしたら駄目だよ?寧ろ、襲われてる人を助けるくらいしないと。窃盗、ダメ、絶対」


 そう言い終わると、何故かコメント欄は先程と違い荒ぶり始める。

 私はそのコメント達に一切触れる事なく、巾着をリュックに戻してポータル探しを再開した。

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