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 ダンジョン内に入り、同じ初期スポーン地点に視聴者達が居る事を確認すると、早々にf3まで駆け抜ける。私以外の人は胎動後初入場という事で、マップをある程度埋めていた私が途中まで先導する形を取っていた。

「みんな、私と違って攻略はしてるんだもんね。気を付ける事って何かある?」

 f3転移後、周囲に他のプレイヤーが居ない事を確認すると、隊列を組み直して皆に声を掛ける。前で、ぶぶ漬けとミスミーがこの道に沿って進もうと話し合っているのを見て、キョンが代わりに答えた。

「初心者用に近いダンジョンなんで、そんなに気を付ける相手も居ないですね。あ!でも、パララゲハは気を付けた方が良いです!蝶型のモンスターなんですけど、鱗粉に触れると痺れ状態になるんです!中立型なので、用が無ければスルーが安定ですね!」

「パララゲハ……なんか可愛い名前だね。因みに、どんな素材が手に入るの?」

「口吻に前翅と後翅、後は麻痺の鱗粉です!鱗粉は痺れ薬として加工出来ますよ!ただ、現段階では粉薬だけで、薬液には加工出来ないですけどね」

 進路を決めたぶぶ漬け達に続きながら、キョンに質問する。

「粉薬だと、武器の加工には使えない感じ?」

「武器自体に状態異常を付与するのは無理ですね。加工アイテムとして武器に塗布すれば、効果は薄いですが、痺れを与える事は出来ますよ。ただ、消耗品になるので、普段使いは厳しいですね。そもそも、鱗粉の確保自体が厳しいですから」

「騎士団に襲われる可能性のある今は、特に。だね。今は諦めかな」

 聞けば、パララゲハは通常時でも少量の鱗粉を撒き散らしているらしく、攻撃を加えると更に大量の鱗粉をその場に撒く性質だとか。そのお陰で、近接戦闘は実質不可能に近く、その上、飛行軌道が読み辛く魔法や矢の狙いが定まらない。倒すなら、軌道上に予め待機し、一撃で翅の耐久値を削るか、魔法や矢を撃ち続けるしか方法は無い。

 ただ、今の私達は騎士団に襲われる可能性が高い為、1匹相手に悠長にする事は出来ず、下手をして痺れ状態になるのも避けなければならない。少なくとも、周囲の見える範囲にプレイヤーが居ない状況で無いと、相手にできないモンスターだ。とはいっても、このダンジョンは人気である為、至る所にプレイヤーがいる訳だが。

「後は、このフロアには出ませんが、f5からはリロービーに気を付けなければいけません。奴らは名前の通り蜂型のモンスター。攻撃型なうえに群れで行動しているので、俺とミスミーだけでは自分の身を守るので手一杯になります」

 キョンの説明が終わると、補足を入れるようにぶぶ漬けがモンスターの名前を挙げた。

「うわぁ……。蜂って、大体どのゲームでも厄介なんだよね。関わりたく無いけど、素材は欲しいなぁ」

「低確率ですが、毒針が手に入りますよ。サイズ的にも、刺突用の短剣に加工出来るかと」

 ぶぶ漬けの言葉を聞いて、ますますリロービーの素材に興味が湧いた。だが、話を聞く限りでは、こちらも現状は相手にしない方が良さそうだ。

「じゃあ、その2匹は極力避けて移動。万が一それらと戦闘になったら、ミスミーさんに対処して貰って、打ち逃した奴をぶぶ漬けとポロネーゼに頼む形になるかな」

 プレイヤーの奇襲対策に、力と速さが高いキョンだけは、極力モンスターと戦闘して欲しく無い。それに私は私で、指揮官という立場上モンスターだけに気を取られる訳にはいかない。コゴローに関しては、矢が消耗品という事もあり、モンスター相手に無駄に消費させるといざという時に案山子になってしまうので、待機が安定だ。

「了解」

「普段の攻略に近いな。了解です」

「私は2人と違って、魔法使いとの連携に慣れていない。出来れば立ち位置の指示をもらえると助かる」

 ミスミーとぶぶ漬けは、当たり前だが問題ない。一方ポロネーゼの方は、先の戦いで小物達の味方撃ちを見たからだろう。ミスミーとの連携に不安があるらしい。

「見て、戦って、慣れれば良い。それに、私は味方を撃つ程下手じゃ無い」

「い、いや、ミスミーさんの腕前を疑っている訳では……」

 恐らく。いや、確実に、ポロネーゼが心配しているのは、自分に魔法が当たる事では無く、ミスミーの魔法の邪魔をしてしまう事だ。それなら、助言は簡単だ。

「ポロネーゼの型的に、そこまで動き回る訳じゃ無いでしょ?心配なら、攻撃を避ける時は身を屈めながらミスミーの方に転がると良いよ。それに、横に避けなきゃいけない時に、避ける方向に魔法を撃つ程ミスミーは馬鹿じゃないから」

 逆に、場を広く取った戦闘をする私の方が、ミスミーとの相性は悪いと言える。

「俺もそこまで動くプレイはしないから、ポロネーゼさんもそうなら、ミスミーもやり易いと思うぞ。なぁ」

「そうね」

「それより、自分の方が心配ですよ……。味方と交戦中の敵を射る事なんて1度もないですから……」

 ぶぶ漬け達とのやり取りに胸を撫で下ろしたポロネーゼは、コゴローの言葉を聞いて再び背筋を伸ばす。私はコゴローの言葉を訂正する。

「コゴローは相手の牽制だけで問題無い。そもそも、交戦中の味方がいる方に遠距離攻撃を仕掛けるって考え自体が間違ってるよ。ほら、現実でもそうでしょ?弓兵が牽制して数を減らし、前衛の人が突貫する。ミスミーが魔法を撃つって話も、基本は交戦中の敵に対してじゃなくて、交戦中の場所に横槍を入れる敵に対しての話だから」

「私は交戦中の相手にも撃つわよ」

「それは俺だからだろ?お頭やキョンさん相手には絶対撃たないだろ」

 そこへ更にミスミーが口を挟むが、ぶぶ漬けが黙らせる。コゴローは納得してくれたのか、「成程」と相槌を入れると、言葉を続ける。

「それなら、自分は短剣をサブ武器として持つべきですね。普段ソロでやっているので参考になります」

 それに対して、私を含めたポロネーゼ以外の人が首を傾げた。

「ねぇ、近付かれた時や、洞窟内はどうしてたの?弓だけでソロ探索って厳しく無い?」

 私が聞くと、惚けるように首を傾げながらコゴローは答えた。

「え、風弾で距離を離すか、無理なら直接矢を刺してましたけど」

「……手で?」

「手で」

 ミスミーの言葉に、さも当たり前のように頷いた。

「……もうそれ、短剣要らないでしょ」

「死ぬまで引き抜けないですし、攻撃を防ぐ事も出来ないんですよ。味方がいるのに、風弾で弾き飛ばす訳にも行きませんし……」

 言われて、皆が確かにと頷く。その中で、ポロネーゼだけはよく分かっていないようで、黙って話を聞いていた。

 ポロネーゼの事はよく知らないが、彼女はあまりゲームをやらない人種の様だ。というより、戦闘系のゲームをやった事がないといった方がいいかも知れない。攻略の話に口を挟まなかったり、立ち回りの会話に首を傾げている所を見るに、ほぼ確定だろう。よもや、私の決闘を申し込んでおいて、私の同類という事はあるまい。

 彼女が戦闘が得意なのは、あくまで剣術を習っているから。であれば逆に、彼女は対人戦に弱い可能性が出てくる。

 ゲームの中の対人戦は、試合ではなく“殺し合い”。型あり規則ありのお稽古やお飯事とは違い“卑怯千万”。正々堂々でしか戦えないお嬢様では、小物は倒せても手練の相手は務まらないだろう。それに、正々堂々を貫き通せる程、彼女は強くない。いや、剣術面で強いのは確かだろう。だが、その頭の硬さや精神の弱さが、その強さを霞ませている。

「まぁ、コゴローの短剣の話はどうしようも無いから置いておくとして。ミスミーの言う通り、見て、戦って、慣れていくしか無いよ。ほら、ちょいどいい所にモンスターもいる訳だからさ」

 前方の茂みを指差す。そこには、蛇道の洞窟にいた白蛇と比べてはるかに小さい蛇……リロースネイルや、木漏れ日の洞窟で見慣れたラウルの姿があった。

「一旦隊列を崩して、コゴローとポロネーゼに相手させるのはどうかな。私達は遠距離射撃だけ警戒しとけば良いし」

「じゃあ、俺は2人のサポートに回りますよ!流石に、連携が取れないま──」

「駄目。コゴローは遠くの敵を牽制、自分の近くに来た敵はいつも通り対応して。風弾で飛ばして良いよ。ポロネーゼは、コゴローをよく見ながらモンスターを近付けないで。詳しい説明は戦闘中に教えるから、取り敢えずはそれでやろっか。じゃあコゴロー、動きが速くて近接が狙い辛い方を撃って、戦闘を始めよっか」

 張り切るキョンを制止させると、私はコゴローとポロネーゼに指示を送る。渋々頷くポロネーゼの後ろで、コゴローが弓を構えて固まる。数秒後、風切り音と共に矢が放たれ、枝の上に止まっていたラウルが音を立てて地面に落ちた。それを合図に、周囲にいた複数のモンスター達が、一斉に私達に襲い掛かってきた。

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