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 全財産が貰えるならと、レッドクリスタルに触れて戦利品を受け取る。バッグ類は持っていないので、手に入るのはお金だけだが、前金という事で回収しておく。

「8千ちょいね。って事は、8万以上は……いや、今の分を引くから、7万ちょい貰えるって事かぁ。……今日だけで10万以上の儲けってやばぁ!富豪じゃん!」

 難易度1のダンジョンとはいえ、1週間かなりやり込んで、やっと10万近くの稼ぎ。それがたった1日でそれ以上の稼ぎが手に入るのだ。トレードが盛んでは無い今、恐らく資金面だけで言えば、個人で稼いだプレイヤーのtop10位には入るのでは無いだろうか。……それは流石に過言か。

「やるじゃ〜ん!って、腕グロ!そんなグチャグチャに出来るんだ……。初めて見た」

 ゲンキと共に拳の男がこちらに歩み寄る。馴れ馴れしく話し掛けてくる男は、私の左腕を見て仰け反ると、顔を近付けて物珍しく左腕を見つめる。

 私の左腕は、肘と手首の間が拉ており、内側から赤いエフェクトが生えている。長さも、正常な右腕と比べると半分近く短くなってしまっている。まさか、ここまで衝撃的な見た目に変化するとは。

 これは再生に時間が掛かるだろう。配信を終わらせるつもりは無いので、一度自害してリセットした方が良いかもしれない。

「ねぇゲンキ。どうせ拠点に戻るから、自害しても問題無いよね?」

 私が聞くと、ゲンキは少しだけ戸惑いを見せて頷いた。

「あ、う、うん。そうだな。儂は構わん」

「なら一回死ぬから、組合テント前に集合で。視聴者〜、決闘終わったから解散するけど、用事ある人いる〜?」

 周囲のプレイヤー達に呼び掛ける。殆どが顔を見たい、決闘を見たい、という者だったが、1人だけ、アイテムの交換を望むプレイヤーがいた。その者には、彼らと一緒に組合テント前で待つ様に伝え、私は自分の首に短剣を突き刺した。

 その瞬間。視界が黒く染まり、遅れて青く暗い電子の空間に意識が飛ばされる。

 周囲を何度か見回し、視点を正面に戻すと、目の前に画面が表示されていた。どうやら、自分で自害した場合も5分の待機時間が必要らしい。それなら丁度良いと、私は一度ゲームからログアウトし、トイレと水分補給を済ませて再びゲームにログインした。

「ただいま。配信切れて無いよね?……よしよし、映ってる」

 復活した先のポータル広場で、私は自身の配信画面を開くとカメラのある方に手を振ってみせた。その先に居たプレイヤーが、自分に振られたのかと勘違いして手を挙げるが、見て見ぬ振りをして組合テントに足を運ぶ。

 そこにはポロネーゼ達3人の姿と、先程アイテム交換の話をしたら視聴者以外にも、2人のプレイヤーの姿があった。片方は知らないプレイヤーだが、もう片方は攻略班のキョンだ。

「あ、キョンだ」

「お久しぶりです!ダンジョンから戻ったので、次いでに顔を見せに来ました!まさか、拳闘士レンと知り合いだったとは……何という偶然!」

 キョンは背筋を伸ばして綺麗な敬礼を見せると、知らないプレイヤーの名前を出してニコニコと笑みを浮かべる。

「けんとうし?なにそれ」

 首を傾げると、キョンも倣って首を傾げる。

「拳で闘う戦士で拳闘士です。彼の事ですよ。あれ?知り合いじゃ無いのか?」

 拳闘士の説明をすると、隣に立つ拳の男を手差す。そして彼に顔を寄せると、小声で私との関係を聞き正す。

「いや、知り合ったばかりで名乗ってないんだ。って事で、俺はレン。フルは拳闘士レンだけど、レンで良いぜ!」

「あ、はい。……で、そっちは視聴者?それともキョンの連れ?」

「あぁ、俺の連れです!」

「ども、キョンのリア友のカイドウっす」

 女アバターではあるが、口調や姿勢が男のプレイヤーは、軽く会釈を済ませると興味無さそうに空の操作を始めた。

「こういう奴なんです。気を悪くしたらごめんなさい」

 彼……いや、彼女の態度に、キョンが代わりに頭を下げる。だが、私は全く気にしていないので、頭を上げる様に言うと、皆を一瞥して顎に手を置く。

「気にして無いから良いよ。……それにしても、誰から処理しようか。キョンと連れは用は無いんだよね?なら、視聴者の欲しいアイテムを先に聞こうかな」

 頷くキョンに頷き返すと、大斧をリュックの下に背負ったプレイヤーに向き直る。

「あ、もしかして……フロート狩りに参加してくれた人?そうだよね?」

 見た事あるアバターで、且つ悪趣味なフロートのリュックを背負っているという事で、私は彼に尋ねる。私の予想通り、フロート狩りに参加した視聴者の1人らしく、嬉しそうに頷いた。

「お、推しに認知されてる……!顔覚えてるんですか?」

「雰囲気だけ。後、そんなリュック背負ってる人そんな居ないし。で、欲しい素材は?」

「あ、欲しい素材は殻の破片です。斧の刃に使えそうなので……。両刃で作りたいので、2枚か4枚欲しいです」

「2枚か4枚ね。うーん……他に欲しい人も居るっぽいから、取り敢えず2枚で。私も使いたいし。他にはある?」

 首を横に振る彼に頷くと、次はゲンキに向き直る。その間に、キョンとカイドウはダンジョンに向かうと言って離れていったので、手を振って見送った。

「じゃあゲンキは、大剣の買取と手袋の譲渡だね。大剣の値段はテント内で確認してくるけど、自分である程度把握してる?」

「あぁ。使用した素材的に、大凡4千ゴールドといった所だろう。……いや、3千半ば辺りか?確認は一任する」

「了解。じゃあ、今から大剣と素材取ってくるから。その後にポロネーゼ……逃げないでよ?」

 先程の仕返し。と言わんばかりに、私はニヤけながらポロネーゼをジトリと見つめる。バツが悪そうに視線を逸らす彼女は、「当たり前だ」と言って背を向けた。

 そして、組合テント内の倉庫から素材の入ったリュックと大剣を引き出すと、一度売店に顔を出して大剣の売価を確認し、外に出る。

「お待たせ。先ずはゲンキから。大剣邪魔だからね」

 右肩に乗せた刀身の腹を滑らせると、地面に大剣を突き刺した。曲がった腰を伸ばして、意味も無く背中を摩る。

「想像通り、売値は3千7百だったよ。端数は切り上げたけど。だから、3万と7千ゴールドね。キリ良く4万にしてあげても良いけど……どうする?」

「遠慮する。3万7千だな、今申請を送る。次いでに手袋も渡すから、確認してくれ」

 ゲンキは空を操作する。チャット画面に知らせが入り、見ると、ゲンキからトレード申請が来た旨が書かれている。どうやら、チャット画面の申請チャットから画面を開くらしい。タップすると、画面中央にトレード画面が表示された。

 画面には、送金ゴールド。そして、差出アイテムという文字の下に5つの枠が空いている。1度のトレードで送れるアイテムの種類は5つまで、という事か。金額に関しては、恐らく上限は無いだろう。

 枠の1つをタッチすると、装備品と所持アイテムの一覧が表示された。私はその中から〈無骨・岩砕〉を選択すると、枠を1つ埋める。そして、画面右下にある確認ボタンをタッチすると、確認待機画面に移行した。

 画面左には、私が選択した大剣が表示されている。画面右には選択中と表示されているが、暫くすると着金額と送付アイテムが表示された。金額は指定した額である3万7千g。アイテムは〈黒布の手袋〉1つ。こちらも、私が指定したアイテムで間違い無さそうだ。

「問題無いね」

「うむ」

 互いに口頭で確認を終えると、画面右下のトレードボタンをタッチした。すると、確認中と表示された後にトレード完了の文字が表示され、画面が閉じた。

「はいオッケー。結構な儲けになったよー」

「まさか、半分近くの金を1日で失うとはな……」

 ゲンキは空を見ながら肩を落とす。その背中には、いつの間にか大剣が背負われていた。貰った手袋は、リュックの中に収納されている。

「次はポロネーゼで。視聴者は最後ね?時間掛かると思うから」

「分かりました」

 視聴者に断りを入れると、私はポロネーゼに声を掛けた。

「じゃあ、申請送って。後さっき、レッドクリスタルからお金抜いてるから、ある程度の所持金は把握してるよ」

「誤魔化すつもりは無い。しっかりと、全財産渡すつもりだ」

 どこか不機嫌そうではあるが、そうなるのも仕方の無い事だ。ゲンキと違い、彼女は1週間分の労力をほぼ全て失う事になるのだから。人によっては、やる気を失う原因にもなるものだ。だが、これは彼女が提案した取引であって、私が求めた物でも、ましてや強制した訳でもない。

 チャット画面からトレード画面を開くと、私はそのまま確認ボタンを押して確認画面に移行した。彼女を見ると、空を睨んで葛藤している所だった。

 馬鹿な人だ。そう思いながら待ち続けると、トレード画面が更新されて着金額が表示される。金額は、大凡7万と1千ゴールド。想像していた額とほぼ同額だ。端数までは分からないが、その程度を誤魔化す様な性格では無いだろう。

「確かに。って言っても、所持金を知らないから、確認も何も無いけど」

「はぁ……。何で私はいつもこうなんだ……」

 トレードボタンをタッチして取引を終えると、彼女は自分の行いに溜息を吐きながら肩を落とす。呟きから察するに、こういった失敗を何度も経験しているらしい。ゲーム内で。というより、現実でも。同じ失敗を繰り返しているのだろう。損な性格……いや、馬鹿な人だ。

「お?終わったか?ならダンジョン行こうぜ〜。どうせお前ら金と素材稼ぎしたいんだろ?さっきんとこ戻れば、運が良ければ数時間もしないで元は取れるだろ」

 レンの言葉に、私の耳が微かに動く。だが、敢えて聞き返す事はしない。

「じゃあ、私は視聴者とトレードするから。フレ解除はそっちでやっといて」

 ポロネーゼ達に軽く手を振ると、私は視聴者に話し掛けてトレード品の相談を始めた。その後ろでは、何か言いたげにしているポロネーゼの肩に腕を回してヘラヘラと笑うレンと、彼女に同情の視線を送るゲンキが、口元をクネクネと動かすポロネーゼを励ましていた。

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