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いつか丸々一言載る勢い


 地面から飛び出して宙に浮くナニカに短剣を叩き込むと、鋭い金属音が鳴り響く。

 防がれた。短剣から手のひらに伝わる感触にそう思いながらも、踏ん張りの効かない相手をそのまま殴り付ける様に突き飛ばした。

 だが、ナニカは馬鹿では無いらしく、空中で体勢を立て直すと壁に着地し、その場に穴を開けるとダンジョンの裏に潜り込んだ。

 細かく短い針の様な体毛。鋭く長い前足の爪。そして、イソギンチャクの様な特徴的な鼻。──あれは、土竜だ。

 瞳は退化しているのか見当たらず、耳も無い。だが、視覚や聴覚が無い訳では無いだろう。でなければ、短剣を防ぐ事も、壁に着地する事も出来ないのだから。

 盛り上がった壁は地面に伸び、再び私の近くで平らになると、時間差で地面から土竜が飛び飛び出てくる。単調な動きなので、避けるのは容易い。だから、警戒するのは土竜では無い。私は短剣を土竜に叩き付けると、手首を利用しながら力の向きを変え、自分の体を回転させる。そして、そのまま後方にいるマッドスナイルに向けて突き飛ばした。

 いつの間にか伸ばされたマッドスナイルの触手を、身体を回転させながら土竜は爪で切り裂く。殻の側面に着地した土竜は、地面に潜る動作を見せるとマッドスナイルの殻を削った。

 殻は嫌な音を立てながら破片を飛ばし、下に隠れる泥の体は辺りに飛び散る。だが、開けられた穴と殻の入り口から再び伸ばされる触手に、土竜は足を取られて無理矢理引き剥がされると宙吊りにされた。

 幾ら長い爪とはいえ、足に絡みつく触手には届かない様で、無闇に爪を振り回しては身体を揺らしていた。触手は振り回される爪に当たらない様、器用に土竜を掴んでいる。

 土竜はそのままマッドスナイルの正面に運ばれる。そして、マッドスナイルが泥弾を土竜に放った。


「おぉ〜、モンスター同士でも戦ってくれるのね。これなら、態々お酢を探さなくてもスナイルを倒せそうかも」


 顔面に泥を被った土竜は方向感覚を失った様に踠き、先程とは違い地面に落ちて弾んだ。そこにすかさず風弾を撃ち込み壁に叩き付けると、短剣を何度も叩き込み消滅させる。

 次に、殻に穴を開けたマッドスナイルの側面に回り込み、内側から覗く泥の肉に風弾を撃ち込んだ。吹き飛ぶ本体、波打つ泥。ヒビの入った箇所が破片を溢して穴を更に広げると、内側に水晶の様な結晶を覗かせた。


「──!……やっぱりあるよね」


 アモルファスのクエストを受ける要因になった羊皮紙には、態々“核無しの不定形”と書かれていた。という事は、不定形は本来、核があって然るべきモンスターなのだ。そして、その核を壊せば──


「──うん、簡単に倒せるね」


 泥に半身を埋めた水晶に短剣を突き刺すと、一撃で水晶は真っ二つに割れ、泥の肉は形を失いながら消滅した。

 まるでしょう──ではなく。これが、この階層の攻略法だろう。刃が通らないマッドスナイルに、攻撃出来る時間が限られている土竜をぶつけ合い、殻に穴を開けて拘束する。土竜に関しては、態々拘束する必要も無いが、普通に倒すよりもマッドスナイルにぶつけた方が楽に倒せるだろう。なんせ、マッドスナイルはそこら中に居るのだから。


 土竜が開けた穴はいつ塞がるのだろう。盛り上がった地面も、このままでは他のプレイヤーの足を取る罠になってしまう。そう考えるが、よく考えると道中にこんな痕跡は無かった。もしかすると、割とすぐに元の地形に戻るのか?リアルに近い物理演算とはいえ、システム的にはゲーム要素が大きいゲームだ。そこは、ゲームの一言で片付くのだろう。


「……ん?いま、穴の中に何か居た?」


 その場から離れようと穴から視線を外した瞬間、ランタンの明かりが反射した様に見えた。慌てて視線を戻して、注意深く穴の中を凝視するが、そこには何も居ない。試しに、壁の内側に風弾を撃ち込んでみるが、何も反応は無かった。

 気の所為か。そう思い、その場から立ち去ろうとしたその時。盛り上がって柔らかくなった壁が崩れ、その中から何かが飛び出してきた。


「ングフゥ!」


 高速で伸びるナニカは私の胸を殴り付ける。革鎧があったから大したダメージにならなかったものの、強い衝撃に呻き声を漏らしながら私は壁に叩き付けられた。


「ごふぁ!」


 一瞬全身が硬直するが、胸に当たるナニカが逃げる前に手で掴み胸に押し当てると、逆手に持った短剣を引き刺した。

 人間は単純な腕の力だけなら、押す力よりも引く力の方が強い。それがゲーム内でどれ位正確に反映されているのかは定かでは無いが、表面を覆う硬く柔軟性のある鱗を貫けるなら、何でもいい。

 短剣は僅かな抵抗を押し切って、ブニブニと柔らかい肉に深々と突き刺さる。

 悲鳴の代わりに赤いエフェクトが吹き出す。引き裂くことも掻き回す事も出来ない短剣を一度引き抜くと、再び同じ箇所に短剣を振り下ろした。

 2度、3度、4度。割れた鱗は肉から剥がれ、抉れた部位は肉を引いて千切れると、握り締めた物体が消滅した。だが、消滅したのは握り締めていた先端部分だけ。壁から生えた本体は地面にずり落ちると、僅かに短くなった体を畝らせる。

 黒に近い茶色の鱗を全身にビッシリと纏う細長い体。顔は無く、尻尾も無い。一瞥しただけなら蛇に見えるその生き物は、動物とは程遠い見た目をしている。

 

 スケルワーム。それが、薄気味悪く地面にのたうち回る奴の名前だ。


「鱗の生えたミミズねぇ……。ぱっとみ蛇だけど、蛇だったら死んでるよね。これ。ゲームだけど」


 柔らかく盛り上がった地面の上に転がると、切り落とされた断面を地面に押し当てると、再び地面の中に潜伏しようと動き出す。

 だが、手負いの獲物を逃す様な真似はしない。


「〈風弾〉」


 短く魔法名を吐き捨てると、硬い壁に吹き飛ばす。やはり、スケルワームは自分で硬い地面を掘る力は無いのだと、その場で蠢く姿を見て確信した。

 マッドスナイルの戦闘音に誘き出された土竜が地面を掘り進め、埋まっていたスケルワームがその柔らかい地面を辿って地上に出る。やっと、この階層の全容が見えたと言って良いだろう。そして、各々の対処法も。


 スケルワームを踏み付けながらその場に屈むと、私は短剣を何度も振り下ろした。先程の様に、完全に断ち切られた部位を消滅させても尚、消滅する様子が見られないのを確認してからは、全体的に満遍なく刺していった。そして、かなりの回数短剣を差し込んで漸く、スカルワームは消滅した。


「一方的なのに、意外と時間掛かったなぁ〜。体力多すぎでしょ」


 もしコレが、b1にいた唯のワームであったら、途轍も無く苦労していただろう。本当に、このダンジョンの難易度には首を傾げる。


「序盤より中盤の方が楽って、ダンジョンとしてどうなのさ。普通、下か上に進む毎に強くなるでしょ」


 それが、ダンジョンの基本。いや、レベリングゲームの絶対的仕様だ。

 勇者なんだから、魔王城前の森スタートで良いよね?因みに装備は初期の木の剣で、モンスターは最強です。なんて、そもそも開発段階で見捨てられる様な内容だ。

 それが仮に通ったとしても、妄想宜しく。秘めたる力で俺ツエー!魔王を屈服させて世界の全てを頂きました。なんてつまらない展開も、当たり前だが存在しないし、あったらあったでヘキグラを辞める。

 ……話が逸れたが、要はこのダンジョンの構成はおかしいのだ。それか、b1やb2で見逃している要素がある可能性も──


「──無いよねぇ……。全部探索した筈だし、固定フロアっぽいから何かが変わる事も無いだろうし……」


 私とモンスターの相性が悪いだけの可能性もあるが、単純に、レベルや装備がダンジョンに見合っていない可能性の方が高い。それでも、蛇道の洞窟は他の難易度2のダンジョンと比べて、攻略が難しい方の部類である事には変わり無さそうだ。でなければ、あからさまに不人気になる理由がそこまで見当たらない。


「素材は結構使えそうだもんね……。だから、この階層で戦ってる人が居るんだろうし」


 バッグ内を軽く確認すると、防具の作成に使えそうな素材が入っている。この階層で少し足踏みしても良いのだが、素材収集は攻略後でも問題なく、寧ろ攻略後の方が、アイテム整理の観点で見ても動き易い。


「後でここに戻ってこよっか。素材集めもしたいけど、単純に動き易そうだし」


 マッドスナイルは敵対しない者も居る。上手く奴の殻を使えば、影にも盾にもなるだろう。


 本当に、初期の魔法が風弾で良かったと、心の底から思う。攻略面でもそうだが、私のプレイスタイル的に一番使い勝手が良い魔法だ。みさが言うには、私に一番持たせていけない初期配布魔法だそうだ。

 ダンジョン攻略後が楽しみだ。不敵な笑みを浮かべる私に、チャット欄は期待に満ちている。皆、刺激を求めているのだ。自分には出来ない、やらない、やりたく無い悪行に。


「楽しみだね……!みんなの為にも、早くダンジョンの攻略しないとだね」


 そう呟きながらバッグ画面を閉じ、私はb4を走り抜けた。

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