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 みさ達と合流した場所からb5に続く通路は案外近かった様で、ものの数分で辿り着いた。

 通路に人は居らず、ありがたい事にヒカリゴケも生えていたので、明かりや奇襲を気にせずに済んだ。最後の最後に襲われて、最初からやり直しとなったら、流石の私も心が折れる。あの虫さえ居なければ何度でも挑戦するのだが……。


「最終フロアには何も無いです。ただ、大きな空間があるだけ。フロアボス出現の条件は、まだ探ってすらいない状況です。タウンの進行度で出現する可能性もありますから」


 桃太郎はみさにそう伝える。ベータプレイヤー同士だからこそ出来る会話だ。今の話を私に振られた所で、「あ、そう」としかリアクションが出来ない。

 みさも「そうなんだ〜」と似た反応だが、私と違って興味が無いからでた言葉では無く、ある程度状況を理解した上で、納得して出た言葉がその言葉なのだ。

 坂を下り、最終フロアに辿り着く。目は開けていたがみさの背中にへばり付いたままだった私は、背中から降りると周囲を見まわした。何故か、みさは物足りなそうな顔をしてる。


「本当に何も無いね。でも、すごい広い……」


 すごい広い。とは言ったが、洞窟内に出来た広場にしては。という意味だ。

 学校の体育館位の広さはあるだろう。天井の高さも先程までの2倍近くある。確かに、ボスが出てもおかしく無い場所だ。というより、ボスが出ない方がおかしい。


「今は、このフロア全体がセーフティエリアになっています。ログアウトも出来ますし、大人数の避難所としても使えます。攻略班は他のプレイヤーの邪魔にならない様、ここで脈動をやり過ごすんです」


「脈動って?」


「ほら、初日に話したでしょ?時間でダンジョン内が変化する話。それの事」


 この場所がセーフティエリアとは到底思えないが、攻略班の彼女が言うのであればそうなのだろう。それであれば、今キョンにフレンド申請を送っても問題無さそうだ。


「落ちても問題無いなら、ここでフレ登録しよっか。まぁ、もう慣れてくれたと思うけど……」


 そういえば、みさ達と合流してからキョンの声を聞いていない気がする。推しが増えて緊張が増したのか、みさに対して緊張しているのか……。

 キョンを見ると、最初に会った時と同じ様に固まっていた。やはり緊張している様だ。隣に立つ桃太郎が、彼の顔を見て溜息を吐いていた。


「キョン、フレ申請送るよ?」


 上の空で頷く彼の姿に、私とみさは互いに顔を合わせて首を傾げる。今の状態でフレ申請を送っても大丈夫だろうか。そう、思いながら。


「試しに送ってみよっか」


 みさの提案に頷き、2人同時にフレンド申請を送る。すると、数秒後に音も無く目の前からキョンが消えた。


「まぁ、正直知ってた」


 その言葉に、私と桃太郎は黙って頷いた。


「じゃあ、私達はタウンに戻るね。桃太郎さん、案内ありがとう!」


「いえいえ!こちらこそ配信者の方と一緒に話せて楽しかったです!ちぃちゃんさんも、情報提供ありがとうございました!」


「気にしないで。スキルカード早く手に入ると良いね」


 そうして、私達の地味に長かったダンジョン攻略は終わった。


 転移石で拠点の広場に戻った私達は、祝福コメントに感謝しながら組合に向かう。人は昼時よりも多いが、それでもスムーズに入れたのは、やはりアップデートのお陰だろう。本当、運営には感謝しかない。


「倉庫ってどこ?」


「入ってすぐ右。売店と同じで、近くに行けば操作出来るから。やり方は説明してあげる」


 右を向いてみると、人だかりの少ないカウンターが目に入る。他の場所と比べて、そこまで頻繁に用は無いのだろう。一番人集りの多い売店前は、進みも遅い所為か更に人が増え続けている。


「じゃあ、サクッと預けて戦おっか!」


 倉庫の操作は手軽で簡単だった。預けたいアイテムや装備を選択して、預けるだけ。一応、初期倉庫の容量は20枠だけなのだが、バッグが1マス換算なので、バッグにアイテムを詰め込めば、実質、無限に近いアイテムが預けられる。

 私はラチマの素材が入ったバッグだけを残して、残り2つのバッグを倉庫に預けた。アイテムの数で見ればかなりの量のアイテムを預けているが、使ったマスは2マスだけだ。


「倉庫の操作が簡単なのは良いね」


「難しい方が珍しいけどね。だけどベータの時は、装備してる武具は外してカウンターに渡さないと預けられなかったんだよね〜……。地獄だったよ、ほんと」


「まじ?仕様変わってくれて良かった〜!」


「ほんそれ!まぁ、ベータの時から変えるって運営が言ってたからね。それより、さっさと依頼と売却して外行こ!」


 興奮するみさに引き摺られながら、テント内の施設を周り、用事を済ませる。依頼は素材が足りなかったので何も受けず、ラチマの素材は全部売却し、転移石を補充した。それ以外は、特にラインナップも変わっていなかったので、何も買わずに組合テントを後にした。

 外に出て、広場に向かう。広場で私達を待っていると、コメントをしている人がかなりの数いるからだ。例え1人であったとしても、時間があるから会いに行くのだが。

 それにしても、私達に会いたいというコメントが想像以上に多かった。人数だけで言えば10人程度だが、それでも、10人も集まってくれるのは意外だ。

 目の前の広場には、普段通りプレイヤーが多くいる。視聴者達はどこで集合しているのかと見回してみるが、そんな集団は見当たらない。


「みんなどこにいるの?」


 私が問い掛けると、どうやら視聴者同士では集まっていないらしい。


「みんな私の場所分かるよね?しゅうご〜」


 とは言ったものの、人通りの多い場所で集まるわけにはいかない。私は左手を挙げて分かりやすくアピールすると、一旦みさをその場に置いて人気の無い仮設テントの方へ寄る。みさと別れた理由は単純に、2人分の視聴者を集められるスペースが近場に無かったからだ。だが、何故かみさが誰よりも先に私に続いて来た。


「え?こがまるも視聴者誘導しないと」


「そのまま広場通って、タウン外に出たら良いだけだよ。フレ登録もそこでやれるから」


「あぁ!確かに。じゃあみんな、このままこがまるに続け〜」


 私達は進路を変えて広場に向かい、横断する。誰かとすれ違う度に後ろに人が並び始め、次第に団体が出来上がっていった。視聴者達とは関係ないプレイヤーも、何かのイベントかと首を傾げ、ついて来てしまっているが、心優しい視聴者が説明してくれていた。それでも、面白そうだからと付いてくる人も中にはおり、総勢30人以上のプレイヤー達が、後ろに続いていた。


「多すぎて……なんで?」


「ノリで来ちゃった人も居るからね。取り敢えず、混乱しないように一旦指揮るね」


 拠点から出た何も無い草原に辿り着くと、みさは後に続いて来たプレイヤー達に大きな声で話し掛ける。一旦、フレ登録だけ済ませてしまう寸法らしい。方法は単純で、フレ登録したい人が私達に申請を送り、私達がそれを受諾するだけだ。マップに映っていれば何処からでもフレンド申請出来るので、私達は皆から分かりやすい様、集団から少し離れる。

 そして、多くの申請を受諾し終え、みさが視聴者達に確認を取ると、今から行う事を皆に伝えた。


「じゃあ今から、私とちぃで模擬戦をやります!見たい人は好きに見てって!私と戦いたい人は、体力次第だけど終わったら相手してあげる!回復アイテムくれるなら気にせず戦うよ〜!」


 言い終わると、みさは私を見つめる。何か伝える事があるのかの確認だろう。だが、想像以上に多い人集りに、緊張して上手く話せそうに無い。


「あ、と、私は……だい、だいじょぶ。あ、でも、用がある人はなんか言って……」


 ボイス機能を利用して、遠くの人にも聞こえる様になっている。リアルであれば上手く回らない舌も、ゲーム内だからはっきりと聞き取れるだろう。リアルでもこんな機能が欲しい。そう思わずにはいられない。

 フレ登録だけで気が済んだのか、数名はこの場を離れて拠点に戻る。だが、他の20名以上の人達は、模擬戦を見やすい様にと、私達を囲う様に並び始めた。


「良いねぇ!正に決闘!って感じ!」


「良くないよ。まさかこんなに人が集まるなんて……緊張するぅ」


「いつも配信で見られてるんだから、今更緊張なんて無いでしょ?」


「居るのと居ないのじゃ違うでしょ!あぁ……負けたら視聴者の所為にしよ……」


 コメントは驚く様なリアクションで溢れかえるが、冗談だと分かってくれている。半分本気でもあるのだが、もしかしたらそれすら、視聴者達は理解しているかもしれない。


「ちぃ、これあげる」


 肩を落とす私に、みさが何か手渡してくる。顔を上げると、その手には木の短剣が握られていた。


「え?なんで……。って、最初に選んだ奴?」


「そそ。ちぃなら短剣を選ぶだろうなって思ったし、もし他武器を選んでてもサブウェポンとして使えるからさ。最初に渡しても良かったんだけど、ロストの事を考えてさ、今になったって感じ」


 私は差し出された木の短剣を受け取ると、左手に持って手の中で回す。


「ありがと、普通に嬉しいかも。……負けの言い訳にしないでね?」


「調子出てきたねぇ……!ちぃこそこれで、本気出せませんでしたぁ。って言い訳できないからね!」


 互いに挑発し合い、笑い合う。2人の間には、もう既に肌を突き刺す様な空気が漂っていた。それを察知し、先程まで騒いでいた周囲のプレイヤーも静まり返る。皆、距離を取り互いに向き直る私達を見て、どちらを観るべきかと視線が揺らいでいた。


「先手、あげるよ」


 みさは不敵に笑う。


「ば〜か。待ち型の癖に」


 それを知っていても、最初に動くのは私だ。前提として、私が受けに回った瞬間、敗北が決定するのだ。それだけ、みさと私の間には実力差がある。いや、実力差なんて言葉すら使えない程、差が開き過ぎている。文字通り、大人と赤子レベルの差が。

 それに加えて、ステータス面でも若干劣っている。なので、どう動いても私に勝ち目はないのだが、それでも真面に戦うには、こちらが攻め続けなければいけない。だから、最初に動くのは私だ。


 巾着を預ければ良かったと、肩から下ろして後ろに放り投げる。優しい視聴者が確保してくれる事を願うが、持って行かれてしまったらその時だ。みさも、同じ様に巾着を投げる。私と違って「預かってて」と声を掛けるのは、気持ちの余裕の表れだ。私に、そんな余裕は無い。


 腰から短剣を引き抜き、両手に構える。左手の木剣は腕に這わせる様に逆手で、右手の短剣は順手に持つ。そして腰を深く落とし、後ろに下げた右足の爪先を地面にめり込ませる。

 息をゆっくりと深く吸い込み、余分な空気を鋭く吐き捨てる。ゲーム内では無意味な行動だが、私の心を落ち着かせる為の大事な行動だ。

 肩の力を抜き、更に深く腰を下ろす。みさは既に構えを整えていた。

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