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 ログインして最初に目に飛び込んできたのは、草原には見慣れない石畳の広場。不規則な大きさで不恰好ではあるが、以前の芝の生い茂った姿と比べれば、広場としては見栄えが良い。

 広場の大きさも、以前と比べて僅かに広くなった様にも感じるが、周囲のテントの配置が変わっているので、錯覚の可能性もある。

 拠点を発展させたとの事だが、確かに、ポータル広場から見た拠点の景色が若干だが変化していた。

 特に変化しているのは組合テント。出入り口が2つになり、一回り大きくなった外観は以前より分かりやすく、テント前に行列も出来ていない。それでも、人の出入りは多いのだから、中の施設も使い易くなっているのだろう。


 他にはどこが変わっているのだろう。そう思い、周囲を見回そうとしたその時。すぐ真横、右側に突然人影が現れ、私の肩を掴む様に触れる。


「──っ!」


 突然の出来事に、左肩を大きく振って何者かの手を振り解くと、私はその場から飛び退いて胸の前で両手を抱く。


「ちぃビビりすぎ」


 振り向いた先には、払われた手を下ろしながら悪戯な笑みを浮かべるみさの姿があった。


「──ふぅ。……驚かさないでよ」


 安全である事を確認すると、私は詰まった息を吐き出して肩の力を抜く。


「え?なになに?ホラゲやったから怯えてんの?」


 その様子を見たみさは、昨日の配信を交えた挑発をかましてくる。


「え?喧嘩売ってる?私、今最強ですけど?」


 それに対してドヤ顔で胸を張張ると、みさも同様に顔を決めて胸を張り出した。


「私のがPSあるからなぁ〜!スキルがあってやっと対等?的な?」


「お、言うねぇ。……よし、やってやろうじゃん」


 私は含み笑いを浮かべながら上目遣いでみさを見つめると、腕を捲る仕草をしながら背筋を伸ばす。すると、みさはすかさず私の肩に手を回し、もう片方の手でお腹を撫でてくる。


「冗談だって!お、組合テント大きくなってるじゃん!早くアイテム売りに行こうよ!」


 そして、話を逸らす様に組合テントの方に指を差すと、肩をがっちりと掴みながら私を押して歩き始めた。


「ちぇ。今なら割と勝てると思うんだけどな」


「ちぃの装備的に考えると、ぶっちゃけ私のロールの方が有利なんだよね。だから、あのスキル程度じゃ負けないよ?」


「まぁ、だろうね。速度も私より速くて、実質手数が2倍……あ、私、短剣拾ったんだよね。二刀流出来るわ」


「え?ほんと?……なら、互角には戦えるかもね。やらないけど!」


 そんな風に話しながら組合テントの前まで辿り着くと、広場とは比べ物にならない程の喧騒が耳に届く。


「相変わらず混んでるねぇ」


 分かっていた事だが、テント内はプレイヤー達で埋め尽くされている。それでも、初日とは全く違い人の流れが明確に出来上がっており、混雑はしていない。


「流れに沿って入ろっか」


 そう言うと、みさは私の左手を引いてテント内へ入る。


「おぉ、広くなってる。……よく考えたら、テントをの内側を見るのって初めてかも」


 先日入った時は人混みの多さにしか目がいかず、内装を殆ど見ていなかった。

 改めてテント内を見回すと、芝を毟られて露出した地面に敷かれた木の板、不恰好に削られた骨組みの木材、そして正面にある、周囲から浮いた立派なカウンター。そのどれもが、現実世界ではまず見る事が出来ない物達ばかりだ。


「左が売店、正面が受付や素材買取場。んで、その右の掲示板みたいなのが組合クエストボード。あそこでクエストが受けられるよ。まずはあそこに行こっか」


 みさは方々に指を差しながら施設の説明をすると、木の板に大量の紙を貼り付けた見た目のオブジェに向かう。


 ある程度人の流れが循環しているとはいえ、他の場所もそうだが、掲示板の前にもかなりの人集りが出来ている。テントを拡張してこれなのだから、先日は大変な事になっていただろう。


「昔の映像でさ、ラッシュ時の駅の切符売り場の映像を見た事あるけどさ。……まんまそれだわ」


「そうなんだ。ちぃって、昔の映像とか物とか結構知ってるよね。どこで知るの?」


「お店の常連とか近所の人が年配ばっかだからかな」


「あ〜ね。なんかぽいわ」


「ん?なにが?」


 軽い雑談を交わしながら列に並ぶ事数分。やっと前の人達が捌けて掲示板まで辿り着いた。

 掲示板は近くで見ると思ったよりも大きく、私のキャラの身長の倍近くの高さがある。そこに、数多の色褪せた紙が貼られており、その紙が依頼書になっている様だ。だが、全ての紙に依頼が書かれている訳ではなく、殆どが白紙の依頼書だった。


「えっと、どうすればいいの?」


「掲示板タッチしたら依頼一覧が表示されるから、そこから受けたい依頼を受ける感じ。見たらわかるよ」


「初見じゃ依頼受けるの無理じゃん」


「受付行けば教えてもらえるから」


 眉間に皺を寄せてウヘェと口を開けると、みさは肩を竦めて眉を下げながら笑みを浮かべる。

 そんなやり取りをしている間にも、隣に並んでいる人達が移動しているので、私達も邪魔にならない様に流れに沿って移動し、売店の方へ向かいながら依頼を確認する。


「街の食料……小物作り……酒場のつまみ。6個しか依頼ないんだ。しかも、その内4個は食料系……。バッグ的に序盤に受けるのはキツイでしょ」


「う〜ん。序盤の依頼数減ったっぽい?私達が今出来るやつは、小物作りの材料……ウサギの毛皮10個の納品だね」


「え!?私、毛皮全部捨てちゃったよ!?」


 その声に、近くにいたプレイヤーの何人かが振り返るが、すぐに視線を逸らして足を進める。


「あちゃぁ……ごめんね、もっと依頼あると思ってたんだけど……」


「いや良いよ。……で、ここが売店ね。こっちは混んでるなぁ……そりゃぁ、立ち止まらないと買い物出来ないもんね」


 肩を落としながら謝るみさに手を振ると、テント内で一番人集りが出来ている売店の前に足を止める。

 有り合わせた廃材を繋ぎ合わせただけの台に、無数のアイテムが乱雑に置かれているその外観は、本当に売店なのかと疑わしく思える程。店主の見た目は特に変わった所はなく、普通の人間のおじさん。ただ、そこまで愛想は良くないのか、仏頂面を常に浮かべていた。


「結構時間掛かりそうだね」


「んにゃ、もうすぐだよ」


 私の言葉に、みさはそう答えた。

 もうすぐ。なんて、どう見てもあり得ない。人の動きや売店までの人数を考えると、後数分は掛かるだろう。最悪10分以上待たされてもおかしくはない。

 そう思いながら、前の人が捌けた所に足を進めた。すると、視界の左側に画面が突然表示される。


「お?なんか出た」


「売店の画面だよ。ある程度の範囲に入れば表示されるの。まぁ、店によるけどね」


「へぇ。お、バッグ開かなくてもここから操作出来るのね。楽で良いね」


 持っている巾着の数は3つ。売却画面を開くと、それぞれの巾着の中身が別々の画面で表示されている。何がどのバッグに入っており、素材の累計数を確認しながら売却出来るのはありがたい。


 早速不必要なアイテムを全部売却し、手に入った金額は合計1,311g。意外と手に入ったと思う反面、転移石を購入する事を考えると、たった300gしか稼げていないのかと肩を落とす。


 アイテムの売却を終え、転移石を2つ購入すると、みさの顔を見る。

 みさは既にアイテムの売却を終えていた様で、私の顔を見ると声を掛けてきた。


「私は受付に行って、クエストだけ済ませてくるね。ちぃは先に外に行ってて良いよ」


「分かった。あ、これ、転移石ね。後、一回落ちてご飯とか飲み物の準備とかしてくるわ」


 私は余分に買った転移石をみさに手渡すとそう伝える。


「おっけ〜。じゃあ、私もそうするね。配信20分前位にチャット送るからよろしく!」


「りょ〜。んじゃまた後で」


 2本指を眉毛に当てて手首をスナップさせるみさに手を振ってテントの外に出ると、人通りの少ない場所まで向かい、メニューを開いてログアウトをタッチした。


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